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第四章 決着

 捜査六日目


 警視庁エーテル学院生出張所。

 そこに今日も四人は集まっていたのだった。

「何故、被害者をバラバラにしたのか……バラバラにしたのは誰なんだろうか。ユニなんだろうか。だけど、一体どこで……?」

 諸人は腕を組んで考えていた。

「自殺を他殺に見せかけるっちゅうためにバラバラにする手口は、多いと思うで。手を不自由にできるからな。ただし、共犯者がいないと非常に難しいわな。それに、いつ死んだのかっちゅうのも、今回のケースでは重要になる」

「私の考えを述べましょう。シカゴにいる間は日本にいないのだから、日本で死んだことにするためには帰国直後に自殺しなくてはならない。けど、優介の狙いは、最後の殺人が行われるまで、日本国外で犯行を行う、かつ、日本国内のどこでも犯行が絶対に起こってはならないという点です。そこに、四肢を解体したことには、重大な理由があるのではないかと。笠見くんも、そう思うわよね」

「ええ。シカゴでは死ぬことができないんですよ。何故なら死亡推定時刻でどこで死んだかを特定されてしまうからです。死体を闇ルートで輸送できたとしても。そういうわけで、日本で犯行を行わないとアリバイをかけておきながら、死亡推定時刻の代わりに利用したのが、バラバラにされた四肢です。これを鑑定すれば、いつバラバラにされたかがわかり、犯行の材料として成立するんですよ」

 難しい推理を前にして、諸人はあたまが少しごちゃごちゃになった。

「あんさんら、捜査本部は本当に日本国中で優介の誘拐現場は見つからなかったと記録されとるか分るか?」

「ええ、目撃情報を懸賞金をかけて集めましたが、あぶりだすことはできなかったようです」

「なるほど……優介さんは体を解体されてる……けど日本のどこにもその現場がない……残されているのは腐食した腕と脚だけ……僕はこう考えるな」

「どう考えるんや?」

 ずいと、隣に座っていた祥平が諸人に顔を近づける。

「祥平さん、近い近い、彼はシカゴに闇仕事関係の人間と繋がっていたんだと思うんだよ。さらには闇医者に、四肢を解体すると喜ぶ連中。解体ショーとか、スナッフフィルムとかかな」

 スナッフフィルムとは、平たく言えば人間を殺す過程を撮影した、裏ビデオである。

「僕もそう考えたいところですね」

「私も、そう考えるのが普通かと思います。現時点だと。笠見くん、ケイト先輩から連絡はついた?」

「いえ……まだ」

 浩はいくらか焦っているように見えた。

 すると、携帯に電話が入った。

「もしもし……あ、ケイト先輩」

『ああ、僕だよ、浩。闇ルートをいろいろ洗ってみた。君の要請した闇医者や裏稼業など、他の捜査員にいろいろ協力してもらったよ。結果、児島優介、彼と結びついているのは、麻薬密売者だけだ。骨が折れたよ』

「麻薬……?」

 それと同時に、麻衣子の携帯に連絡が入った。

「もしもし」

『私が誰だか分るかね』

 麻衣子は拳をぐっと握った。

『余計なことをしてくれたね。もう高校生デカなんてちやほやされる時代は、とっくに終わっているんだよ』

「では何が次世代の捜査権を握るのですか? 児島警視総監」

 諸人は目を丸くした。祥平はため息をついた。

『屁理屈を叩くのはよせ。取引をしよう。そちらに刑事を手配した。直ちに全員で警視総監室に来たまえ』

「分かりました」

 二人は同時に通話を切った。

「何か分かったの? 浩くん」

「ええ。僕らは大きな勘違いをしていたようです」

「は?」

「児島優介は確かに自殺をしていた、しかし本当は――」

 そこまで言いかけると、いかつい顔をしたガタイのいい中年刑事と、細身で眼鏡をかけた青年刑事が出て来た。

「学生デカさん、ご苦労さま。好き放題してきたツケが回ってきましたね」

 刺々しい言い方で中年刑事が言う。

「警視総監がお呼びだ。ついてきなさい」


 エレベーターで十七階まで上った。事件捜査中にエーテル学院に何度か足を運んだ時、教員が、警視総監室に一般人で入れるのはうちの風紀委員ぐらいだと豪語していた。

 エレベーター内で、浩は麻衣子に耳打ちした。電話の内容を明かしたのだ。すると麻衣子は目を大きく見開いた。

 中年の刑事がノックをし、失礼します、と諸人たちを通した。

 高級なソファと簡素な観葉植物が置かれた、ひやりとする部屋だった。

 恰幅のいい高年男性が、ブラインドを背にした机に座っていた。

「まあ座りたまえ」

 諸人たちは二人ずつ向き合ってソファに腰かけた。刑事たちは壁の背に直立している。

「そちらのお客様は、いったいどういうご用件で?」

 諸人も、祥平も、何も言わなかった。諸人は何も言えずただただ気まずく、早くこの場から去りたいという気持ちでいっぱいだった。

 祥平も捜査に協力して難事件を解決するときも(時たまにはだが)ある身分なのだが、何も言わなかった。

「すみません。僕たちが巻き込みました」

「何を遠慮しているんだね。いいじゃないか。彼らは君たちにひっついてきており、捜査権は何も行使していないのだろう?」

 その台詞からは児島照彦の性悪さが読み取れた。その詭弁を苦し紛れに行使して、捜査をしてきた諸人たちへの侮辱以外でも何でもなかったのだ。

 照彦は言った。

「君たちが欲しいのは、これだろう?」

 そう言って照彦は引き出しから、ビニルケースに入れられたびりびりになった写真を見せた。照彦は身を乗り出し、彼らを隔てる机の上にぽんと置いた。

「だけど、これじゃあ立件できないねぇ。アリバイは証明できたのかな? 難しいだろうなぁ。この写真があるんだから、ねぇ」

 照彦は勝ち誇った笑みを見せていた。

 だが。

 笑みを見せていたのは彼だけでない。

 浩と麻衣子、二人とも、晴れ晴れとした笑顔を浮かべていたのだ。

「笠見くん、鑑識で得た、あれを」

「あれ、だと?」

 麻衣子は同じくビニルケースに入れた「あれ」を見せた。

「そ……それは!」

 それは、同じくバラバラにされた、闇夜の写真だった。

「全てのタネあかしをしましょうか。親と学校から今夜は警視庁に泊まっていいと許可がおりました。全ての真相は、僕たちがこの場で明かします」

「私たちは証拠を整理しますので、お二方は夏帆さんたちをここに呼ぶよう手配してください。無理やりにでも連れてきてくださいね」

 諸人と祥平は顔を見合わせて頷き、静岡へと出かけて行った。


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