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第二章 夕焼け空の謎

 諸人たちは警視庁へ向かった。『エーテル学院生出張所』に入り、諸人たちはそこで待たされた。

「私たちは捜査一課に書類を提示していきます。それから鑑識係に行き、お話を聞いてきます」

「そんなん門前払いとちゃうか?」

「一課は普段の捜査でも敵対関係にありますが、鑑識には精通している人がいるんです」

 麻衣子と浩はコートを脱ぎ、ハンガーにかけて、

「では、ここで待っていてください。失礼いたします」

 と言い残し、出ていった。

「それでその夕焼けの写真はヒントになるんですか?」

「ユニはそう言っとったけどな。あんさん、ユニの連絡先知っとる?」

「知らないですよ。それに彼女は、電話に出られる状態じゃないでしょう」

「そりゃそうやな。せやけど館の番号も分らん。頼りになるのはこの英文や」

 諸人は英文は読めた。彼は、唯一のセールスポイントが医者であることであるため、ドイツ語も当然読めなくては話にならない。祥平に英文など読めるはずもないと内心小馬鹿にしていたが、祥平は、

「なになに……『夏帆、これから毎晩夕焼けの写真を送ります。このことはこの間君宛に送った手紙の通りですがね。いつか仕事が片付いたら、必ず君に会いに行きます』ははあ、なるほどな」

 すらすら英文を読む祥平を少し面白くないと思った諸人であった。

「当時夏帆はひきこもりやってん。俺とも電話でしか話さん。夏帆が言うには優介はんは大学の准教授で、この頃同じ学部の教授が勲章を受けたんで、取材の要員に駆られたって言うんで、夏帆になかなか会えなかったらしいんや」

「夏帆さんと優介さんはどこで知り合ったんですか?」

「夏帆は高校時代から引きこもり初めて、大学に行くっていう建前で出ていったアパートに移り住んでも、引きこもっとった。カップ麺ばっか食ってた生活で、心療内科に行くよう俺も心配になって勧めたんやけど、兄妹の溝が深まるばかりでな。ところがそのアパートに優介はんが住んどってな、近くの自販機で顔なじみになって、夏帆は惚れてもうたんや。すると夏帆は次第に外に出るようになってん、俺も安心しとったさかいに」

 詳しいことはまた今度な、と祥平が言うと、二人が戻って来た。

「夕焼けの写真、お持ちでしょうか」

 麻衣子が尋ねる。

「ああ、これか?」

 祥平は麻衣子にスマホを渡す。

「SDカードにコピーさせていただいても構わないでしょうか」

「全然構わへんよ」

 麻衣子はノートパソコンを立ち上げ、スマホのSDカードを抜き出して画像データをパソコンと、麻衣子のSDカードに移した。

「写真の件は捜査線上にも上がっていたようです。この画像はメールを通じ、20××年の八月以降毎日午後五時ごろに送られましたが、送り主の優介さんの携帯端末の位置情報は、アメリカのシカゴ州でした」

「ほう! やっぱりな。そうか、シカゴやったか」

 祥平はずっと目星をつけていたことがあったのだろう。諸人ただ一人が、分らないのであった。

「どうしてそんなことが……? だって日本とシカゴじゃ時差があるよ? この画像、あらかじめ日本で撮ったものとかじゃないの?」

「警察はその線を疑ったようで、携帯端末を調べましたが、それが携帯のカメラのフォトライブラリに、きっちり日本時間の五時ごろのタイムスタンプに残っているようです。どうやら携帯の時刻は日本時間に合わせていた可能性が強い。つまりこれは、シカゴで撮られたのか、日本で撮られたのか、警察は悩みました。日本で撮ったものだとすれば夕焼けの時間は説明がつく。ですが、それが何故シカゴで位置情報を偽装する必要があったのでしょう。結局上層部は、これは日本で撮られ、SIMカードか何かを使って位置情報を偽装する細工をし、このメールの送り主が、優介さんのものでない可能性から、第三者による優介さんの位置情報を不明にする工作だと結論づけられました。また、そこから導きだされることとして、この写真が送られてきた時点で優介さんはすでに誘拐されたのではないか、と」

 麻衣子は饒舌に仮説を報告した。

「なるほど、捜査網をかいくぐり、かつ、捜査をかく乱する犯人の戦略ということになるのかな」

 諸人が悟ったような口を利くと、

「いや、それは違います」

「その考えは根本的に間違ってます」

「よく考えろや、諸人はん」

 三人から同時に非難されたので、諸人はばつが悪そうに俯いた。

「日本とシカゴの時差、いくらやと思う? 約十五時間や。もっと言うとサマータイムの時差は十四時間になるで。日本が朝ならシカゴは夜、シカゴが夜なら日本は朝や」

 すると諸人は閃いた。

「ということは、あの写真は、夕焼けではなく、朝焼け……?」

「そういうこっちゃ。サマータイム実施期間中だとして、午前三時に朝焼けが見られたとすりゃあ、日本はそのとき午後五時の夕焼け空。ま、多少シカゴの方が暗いやろうけどな」

「捜査本部の中でも、そういう推理はあったようですが、何故そんな回りくどいことを犯人がするのか不明だったために、先ほどの結論にいきついたようです」

 浩はため息をついた。

「警察は犯人像を掴めていなかった。決定的な犯人像をです。そういう風に思考が逸れるのも無理はないでしょう」

 麻衣子がそう言うと、

「じゃあ君たちは、犯人像が分かっているの?」

 すると浩は、

「憶測でものを言うのは混乱を招くので今は言いません。ただ、大体誰が犯人か想定はできています」

 諸人は自分だけが取り残されているようで、あまり面白くなかった。

「とにかく結論はこうや。メールはシカゴで優介はんが送った。理由はわからんが、優介はんは自分が日本にいると夏帆と警察に思い込ませたかったんやろ。位置情報まで偽装できひんかったんが最大のミスやな。というわけでつまり八月六日以降、日本に帰国するまで、シカゴのどっかしらにいたというわけや。せやけど、P・ゲームの終了期限はあと四日や。さすがにシカゴに行くことはできゃあせん」

「安心してください。沢城先生。委員会のOBで、一人FBIの捜査員が知り合いなんです。彼に頼んでみましょう」

 浩は祥平を励ました。抑揚のない声で、無表情で。


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