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プロローグ

 P・ゲームのルール

 7日間以内に沢城夏帆の冤罪を晴らすことができたら五億円を獲得できる。それができなければ館の住人、沢城夏帆、ユニは全員死亡する。


 屍あるところに謎あり。

 解毒剤が効いてきたようで、沢城夏帆はからだを起こし、少しろれつの回らない口調で、こう話した。

「P・ゲームの説明をしましょう。私は七年前の事件の容疑者だった。そのおかげで私は財産を少し失いはしたものの、働かず親の金で孤独に過ごすことを誰からも責められなくなりました。私は高校時代から引きこもる生活を送っています。親とケンカして、大学に行くと建前を作って、名古屋から東京に出ていきました。その東京で、七年前、私は最愛の人を殺され、そればかりか、冤罪をかけられたんです。そこの、ユニという女に」

「ユニ?」

 諸人はユニの方を見た。ユニの目は全く動いていず、ただ一点を見つめつづけていた。

「P・ゲームのルールは、今から七日間の間に、私の冤罪を晴らすこと。それだけです。成功すれば五億円を進呈します。ですが、ユニは事件の当事者ですので、私たちとここにいてもらいましょう。もし失敗しても戻ってこなくて結構です。この館ごと爆破して、窪塚先生以外の人間には皆死んでいただきます」

「なっ……自分が何を言っているのか分かってるのですかっ……?」

 反駁しようとしたが、適切な言葉を選ぶ余裕などなかった。

 夏帆という人間が全く分からない。どこまで本気のつもりなのだろう。彼女がA・ゲームの主催者であることは間違いない。執事は言っていた。すべては、プリンセスのままに、と。彼女の冤罪を晴らしたとしても、警察に行けば、大量虐殺の証拠が挙がり、夏帆は間違いなく死刑になるだろう。――もう私に失うものなどないの――彼女が暗にそう語りかけてくる気がした。

「なら、私をあんたみたいに薬漬けにしてよ」

 ユニが突拍子もなくそんなことを口にした。

 夏帆は青筋を立てながらにやりと笑みを浮かべ、

「じゃあ血液毒を盛ってあげる。蛇の毒を何倍にも薄めたものを注入するわ。苦しいわよ」

 そして夏帆は狂ったように笑った。

「ではユニ様が亡くなられたら、ゲーム終了ということでよろしいでしょうか」

 執事が提案する。

「そうしましょう。あと、窪塚先生、あなたには助っ人が付き添いますので」

「助っ人?」

 するとドアが開かれ、そこには、西洋兜を被った、緑のジャージの男がいた。

「じゃじゃーん、俺や! 復活やで!」

「……勇者さん!」

 彼は笑いながら兜を外し、整った外国人風の顔を見せた。諸人はひどくびっくりしていた。

「勇者ちゃう、祥平や。夏帆の兄貴でっせ」

「……祥平さん、死んだんじゃなかったんですか?」

「ああ、あれ? 芝居や芝居。空砲を撃っただけさかいに」

 よかった……と諸人は安堵した。祥平はずっとみんなを励まし続けてくれた。恩があるから、死んでほしくなかったのだった。

「夏帆、事件の説明し終えたんか?」

「いいえ、まだよ、兄さん」

 夏帆はその説明をすっかり忘れていたようだ。そして執事は彼女に文書を渡し、彼女はそこに書いてあるらしい事件の概要を説明しだした。


 二〇××年八月二〇日、私の恋人の児島優介が殺害された。彼は四日前の八月一七日に誘拐され、犯人と思しき人物が電話で私に一億五千万円を用意するよう脅迫してきた。ボイスチェンジャーがされていて、喋りかたは明らかに知らない人物だった。犯人は警察に知らせたらすぐに殺すと脅した。私は引きこもりがちな生活を送り、親元から出ていった身なので、そんな金を工面できはしなかった。必死で探したが、最終日の二〇日、犯人から最後の電話があった。犯人は場所を教えるから来い、金をどうするか交渉させろと言った。すると優介に代わり、優介は身を守るためにもナイフを持ってこいと告げた。指定されたのは廃工場だった。そこに行くと、酷いことに、彼の四肢はバラバラになっており、彼の胸には包丁が刺さっていた。包丁には長いロープがガムテープでつながっていた。私はすぐに一一〇番通報した。すると警察は刃物を持った私を、銃刀法違反で署に連行した。

 それから取り調べで、ある証拠写真が原因で、優介殺しの嫌疑が私に強くなっていったのだ。私はじゃあどのように優介を殺したというのかと警察に問いかけた。すると、ロープは廃工場の天井からぶら下がっているフックにかけられ、それを切ったことで包丁を落下させて刺したのだと警察は主張した。

 私のアリバイを証明してくれる人は誰もおらず、冤罪で懲役七年の判決が言い渡された。出所後、探偵に依頼したら、ユニという人物が現れた。彼女は優介の浮気相手で、偽装された証拠写真を警察に提示したのも彼女だそうだ。

 以上の理由で、私はユニに強い敵意を持っている。真犯人がユニであればいいとさえ思っているのだ。


 そこまで読み終えると、夏帆は紙を折り畳んだ。沈黙が流れた。

 沈黙を破ったのは、ユニだった。

「ヒントをひとつだけ出してもいいかな」

「勝手にどうぞ」

 夏帆がとげとげしく言う。

「まず、私は殺していない」

 その言葉に激昂した夏帆は、ユニの胸ぐらを掴んだ。祥平は割って入り、

「あかん、夏帆」

 と言って、夏帆を羽交い絞めにした。ユニは語り始めた。

「私はやってはいないが、手助けはした。そしてキーとなるのが、この写真」

 ユニは祥平に手を出した。祥平は察し、

「夏帆、スマホ出しぃ」

 と言った。夏帆は祥平の腕を振りほどいて、スマホを渡した。ユニはメールの画面を起動させると、空の写真が表示された。

「夕焼けの写真……?」

「そう。これが何を意味するかは、君らで頑張って探すことだね」

 ユニはため息をついて、

「日本の警察は優秀だよ。だけどね、馬鹿なのは警視総監なんだよ」

 その言葉を聞いた途端、電流が頭を走ったように諸人は閃き、

「もしかして……優介さんは泰三さんの兄弟?」

「そうよ。あの父親も許せない。大してかっこよくもないのに、国家公務員試験に合格してキャリア組になった兄の泰三を溺愛し、弟の優介と妹の華凛ちゃんを見放して、優介が大学に合格したらそのまままとめて二人とも家を追い出し、経済援助も、優介が大学に籍を入れた途端止めて、優介は難病にかかった妹さんの医療費をわずかな給料でやりくりさせた。苦しい生活だって言ってたわ」

「院に入りたてだと、仕方ないですよね。で、夏帆さんは優介さんとどこで出会ったんですか」

「それ事件と関係あるの?」

 夏帆は怪訝そうな顔をした。気迫に押され、諸人は黙った。

「とにかく、私、一度警視総監と面会したんだよ。内容は一切言えないけどね」

「なんですって!」

 夏帆はひどく驚いた。

「ただこれだけは言える。警視総監である児島照彦は、今回の事件の捜査本部に圧力をかけた」

「ど、どうしてそんなことが言えるのよ」

 ユニは薄ら笑いを浮かべた。哀れなものを見る目つきをしていた。

「冤罪を晴らせばすべて分かる。あんたの望む通りにね」

 凛とした声でそう言った。夏帆はふっとあざ笑い、

「私は最高の気分よ。この数日間、優介のことをずっと想い続けていた。すると優介が語りかけてきたのね。私は死んだはずの優介とずっと語らっていた。可笑しいと思うでしょう? でも私が薬漬けで生死をさまよっていたと言えば、文句は言えないわね。幸せだった。あとはあんたを潰すだけよ、ユニ。私は優介のために、優介を殺した人間が誰かをつきとめたい、そしてその犯人があんたであることを絶対に突き止めてやる!」

「夏帆、俺が言うのもなんやけど、あんま過信せんとき。突き止めるのはお前ちゃうで、俺らや。ユニ、俺も夏帆と一緒、お前が殺したんやと今は思うとる。絶対に逃げるなよ」

 ユニは最後に言った。

「私は優介を愛してはいなかった。けど、言い方を変えれば、彼を愛していたのかもしれない」


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