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仮面β  作者: 霧咲 ユウ
8/8

血の惨劇。

□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□








…妙な緊張感…








「……折原さん…………」


「…はい…」


「……この仮面……使いましたか……?」








…仮面を被るじゃなくて…


…使う…なんて…


…RPGのアイテムを使う時みたいな表現。




…彼女がゲームをしそうな人間には見えないので、答えは1つ。








…彼女は仮面を使ったんだ。








…きっと、俺と同じ様に…








「……使った……。」


「……そう…ですか……。」








…使った…と答えて…


…やっぱり気になるのは…








「…社さんは…どうやって使ったの…?」


…俺の質問に、彼女はベッドから出た。


…そして、足元に転がる仮面を拾って…








…顔に付けた。








…すると…








「…………あっ…………」


…仮面の表面が、誰かの顔に変わっていった…。








…俺と同じ使い方…








…この人…確か…








「…彼女は…社 蛍子。…私の姉です。」


…その顔は、どことなく似ていた。


…姉妹と思える位に…。








…そうだ、あの時…


…保健室で彼女に触れた時、頭に流れ込んで来た血まみれの女性…。




…そして…


…名前を聞いて確信したのは、あの事件の被害者だという事。








…あの事件…


…3年前、車が歩道に乗り上げ、通行人を次々と跳ねた。


…歩行者を数人跳ねて、建物に激突した車……。


…そこから包丁を持った男が頭から血を流して出て来た。


…男はそのまま一直線に、倒れた少女の方へ向かった。


…その…倒れた少女…に覆い被さる様な状態で、社 蛍子は男に刺し殺された。




…首や背中に何十ヶ所にも及ぶ刺し傷…




…これが、当時報道された内容。




…俺の母もこの時、車に跳ねられて亡くなった。








□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□


「…あなたが更衣室で倒れた時、私はこれを拾いました。」


…仮面を外した彼女は、話し始めた。


「…これに触れた時、あの歩道が脳裏に過ぎりました。……あなたと…あなたのお母さん…………。」




…言葉を詰まらせながら、彼女は続けた。




「……ごめんなさい……あなた達家族を巻き込んでしまって…………ごめんなさい…………」




…震えた声でうずくまる彼女…




…何で彼女が謝る?




…悪いのは犯人の男なのに…。




…俺は…




「…社さんのせいじゃない…」




…そっと肩に手を添えた。
















……あっ……
















…また感情が流れ込んでくる…
















「蛍子ォーッ!!見つけたぞー!!」


…頭から血を流した男がナイフを持って向かってくる…。


「殺してやるーッ!!まずは妹からだーッ!!」


…男がナイフを振り上げた。


…そして、そこに倒れてる少女に突き刺さる……


「やめてェーー…………ヴッ…………」


…妹に被さった女性は背中を刺された。








…それから…








…彼女は何度も…








…何度も…








「…………ん…………おねえ…ちゃん?」


…しばらくして妹が意識を取り戻す。


「…ダメだ!…見ちゃダメだ!!」


…助けに入った男性が妹に駆け寄る。


「…………えっ…………?!」


…妹は目を覚ました瞬間、その光景が理解出来なかった。


…男性は自分の胸に彼女の顔を埋めた。


…しかし、少し遅かった。


…彼女の脳裏には、しっかりと…焼き付いた。
















「…………っ?!」


「…折原…さん?」


「……何だよ…これ…………」


「…何か…見えたんですか…?」


…心配そうに顔を覗かせる。


「…………アンタの方がよっぽど辛いじゃないか……………」


「…折原さ…………」


「…今更……こんな物見せられたって…………アンタの姉さんも…俺の母さんも…………うっ…………」




…言葉にしたら止まらなくなった…。




…あの日から人前で泣いた事なんてなかったのに…




「…ごめん…なさい…」


「…アンタは悪くないって……」




…何度も言った。
















…お互いの身体に触れると、相手の思い出や感情が流れ込んでくる…


…こちらの意思は関係なく…








…たった数日で…


…俺たちはお互い、とんでもない物を共有する関係になってしまった。


□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□








「…………ん…………?」


…少し眠ってしまったみたいだった。


…あれから少し時間が経ったようだ。




「…すぅー…………」


…彼女も泣き疲れて眠っていた。








…すぐそばのベッドに運んだ。








…思えば、こんなに彼女と話したのは今日が初めてだった。


…いつも一方的に怒られたり、触るな変態…って感じだったもんな…。








…真面目過ぎて、ちょっと怖くて苦手な人だった。


…でも、今思えば…


…あれを見た後だから、余計にそう思うんだけど…


…彼女なりに必死だったんだろうな。




…あの分厚い眼鏡も…


…ストイック過ぎる程、勉強と部活に打ち込む姿も…




…強くなって前に進む為…だったのかな?








…俺はまだ進めてないや…。


…毎日ダラダラしてる。








…そうか。


…それで俺…嫌われてたのかも。








…何の努力もしないで優遇されるなんて、都合良過ぎだもんな…。








…俺の方こそ…


「ごめん…。」


…知らなかったとはいえ、俺のしていた事は彼女の神経を逆撫でする事ばかり。








「……どうして…謝るんですか…?」


…突然声がする。


「…あ、起こしちゃった?」


…それとも途中で起きていたのか…。








「…今までの…学校での事……社さんの気持ちも知らずに怠けてばっかりで……」


「…そんな…突然変な気を使われても気持ち悪いです。」


…ハッキリ言うねぇ~。


…まあそうだよね。


「…私の方こそ…何でも出来るあなたに嫉妬してたんです。あと…変態は言い過ぎでした…ごめんなさい…。」


…えっ…そこ、ごめんなさいなの?


…とツッコむのは止めよう。


「…うん、気にしてない…。」


「……私、変な事言いました?」


…ちょっと笑うのを我慢したのがバレた。


「…言ってないよ。」


…と、返したものの、ちょっと可愛いなって思ってしまったんだ。




「…仏頂面の折原さんでも、そんな顔するんですね。」


…社 蝶子は、そう言ってクスッと笑っていた。


「アンタがソレ言うかねぇ?」


…と言いつつ、学校で見ていた顔はお互い様のようだ。


「…まぁ俺は、今の社さんの方が話しやすくてイイと思うよ。」


「えっ…………?」


…彼女はしばらくフリーズして、今ようやく眼鏡が無い事に気付いた。


「机の上に置いたよ。」


「…あ、あの…これは…?」


机の上を見て、彼女は尋ねた。


「…良かったら使ってよ。」


「…ありがとうございます…嬉しい…です。」


…少し微笑んだ横顔にドキッとした。








…眼鏡ケース…


…此処に寄る前に買ったんだ。








…本当は、もう少しそのまま…見ていたかった。


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