曖昧な思い出。
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…翌日、社は学校を休んだ。
『……離して……』
…昨日、保健室で見た彼女の顔が頭から離れない…。
「…カズ〜?」
「……………………」
「ねぇ、カズ‼︎」
「うわぁっ‼︎……」
…肩を叩かれてびっくりした。
「…なんだ…雫か。」
「なんだとは失礼だな!」
「ごめん。」
「…どうしたの?ボーっとしちゃって。」
「…うん…………」
…昨日の事…
…上手く説明出来なくて…
…言葉が詰まった。
…結局、言えてなくて…
…変な沈黙が流れた。
「それじゃあ、カズが喜ぶとっておきの物をあげよう♪」
雫は笑顔でカバンから何かを取り出した。
「……それは……?」
「ジジャーン!Jack-13 LIVE TOUR 20XX 〜SWEET SKULL BABY〜 …のチケットだぁ‼︎」
雫が勢いよく出したそのライブチケットは、一瞬で俺のモヤモヤを吹き飛ばした。
「…雫ちゃん‼︎……どっ…どうやってそれを⁉︎」
…俺が動揺するのも無理はない。
…数日前…
…このライブのチケットを求めて奔走したが、結局予約がいっぱいで泣く泣く諦めた。
…この話は雫も知っている。
…落ち込んで、散々愚痴を聞いて貰ったから。
「…インターネットでね、偶然見つけたの。当日、急用で行けなくなったので、定価の半額でお譲りします…って。」
…雫はそれを購入したと言った。
「…おおおおおっ‼︎すげーぞ雫‼︎ありがとー‼︎‼︎」
テンション上がって雫を抱き上げ、グルグル回った。
「きゃ〜カズ〜はしゃぎ過ぎ‼︎」
「…あっ…つい…」
…が、我に返り落ち着いた。
「じゃあライブは今度の土曜日だからね♪」
「了解。……ん?」
…今度の土曜日って…
「…明日じゃん‼︎‼︎」
「時間は4時に私の所の駅に来てね!」
「ok!」
「…チケットは、カズが失くしたら困るので、私が預かりま〜す♪」
「…えっ?失くさねーよ?」
「ダ〜メ〜!そう言って失くしちゃうのがカズなので〜す(笑)」
「…いつの話だよ。」
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…まあ確かに、小さい時はそうだった。
…大事に肌身離さず持っている物ほど、気が付いたら失くしていた。
…オモチャとか、お菓子とか、ゲームとか…色々……。
…その度に泣きべそをかいた事も雫は覚えているんだ。
「ねぇ……もう泣かないで。アタシのお菓子あげるから。」
…あの時は…
…幼稚園の行事か何かだったかな?
…お菓子を貰った。
…すぐに食べた子もいたけど、俺は後で食べようと取っておいた。
…そしたら、どっかいっちゃって…
…落ち込んでいた俺に、1人の女の子が近寄って来た。
…それが雫だった。
…って…
…俺、そんなに泣き虫だったっけ?
「かーくん♪」
……?
…聞いた事のある声…
…この声は…
…俺の事をそう呼ぶ人は1人しかいない。
「その呼び方やめろよ!」
「かーくんは、かーくんだもん♪」
「引っ付くな!」
…懐かしいな…
…母さん…
「こうやって歩いてると、何か恋人みたいだね♪」
「いや、親子だよ。」
「かーくん冷めてるなぁ〜」
「アンタがガキっぽいんだよ。」
…母さんは…
…いつも明るくて…
…無邪気で…
…笑顔の絶えない人だった。
「…ちょっ…やめろよ…」
「照れるな照れるな〜」
…腕を組んで歩きたがる母親に、誰かに見られたら恥ずかしいって気持ちの俺。
…あの時…
…何処に出かけてたんだろう。
「かーくん…………大好き…………。」
「…………っはっ‼︎」
……あれっ?
「折原、やっと起きたか。」
「……えっ?」
…先生?
「和馬〜また寝不足か〜?」
…トラのからかう声と、教室に広がる笑い声。
…夢…だったのか。
…チャイムが鳴り、授業が終わった。
「折原、ちょっと来てくれるか?」
先生に呼ばれた。
「あ、はい。」
「和馬〜何やらかした〜?」
横からチャチャを入れるコイツ。
「バカトラじゃあるまいし。」
「ぅげっ」
…トラさん、あっけなく返り討ち。
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「…えーっと…確かこの辺りに…」
…学校の帰り、俺はメモを片手に街にいた。
…メモというのは手書きの地図。
…地図を書いたのは担任。
…少し遡ると…
今日の授業の後、先生に呼ばれた時…
「えっ…俺が?」
「同じ駅を最寄りにしてるのが折原しかいなくてな…頼まれてくれるか?」
「別にいいですよ。」
…こんな会話があって俺は今、社の自宅を探している。
…プリントを届けに…
…原付は駐輪場に置いてきた。
…社に見つかったら、校則違反だーって怒られるかもしれないから。
「此処かな?」
…目印の建物…
…その向かいにある小さなハイツ。
…番号が書いてある部屋の前まで行き、インターホンを押した。
…応答が無い。
「あ…開いてる…」
…ドアには鍵がかかっていなかった。
「社さーん?」
…ドアを少し開けて呼んでみた。
…いないのかな?
…不用心だな…
…玄関から部屋を覗いた。
…足が見えた。
…これってまさか…
「…社‼︎」
…部屋に入ると倒れていた。
「おいっ…しっかりしろ‼︎」
「……ん…………スゥーー……………」
…寝てる?
…昨日から、彼女の様子がおかしいと思っていた。
…気絶する様に眠る…
…本当にただ、眠っているだけ。
…ただ、眠っているだけ?
…彼女をベッドに運んだ後、俺は見つけてしまった。
「……仮面だ……。」
…それは足元に無造作に転がっていた。
…それは、以前俺が拾った物で…
…社が持って行ってしまった、あの仮面。
…思い出した。
…俺が倒れたのは、夜通し仮面で遊び過ぎたから。
…それが社の手に渡り、翌日から彼女はこのザマ。
…それに今だって…
…原因は、この仮面だとして…
…もし、社がこの仮面で俺と同じ事をしていたら…
…寝不足になるまで仮面を使ったのか…
…会いたい人がいるのか…
…そういえば昨日…
…お姉ちゃん…って言ってた…。
…だとしたら…
「…………ん…………」
…社が目を覚ました。
「…大丈夫か⁈」
…俺は近付いて声をかけた。
「……折原さん……?」
…あんまり見えてなさそうな視界の中、彼女はぼんやりと俺を見ていた。
「プリントを届けに来たんだ…。」
…俺は机の上にソレを置いた。
あと、昨日忘れて行った眼鏡も。
「…勝手に入ってゴメン…それじゃあ。」
俺は部屋を出ようとした。
「あの…………」
…彼女の方から俺を呼び止めた。
「…あなたに…話しておかなければならない事が……あります……。」
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