謎の仮面。
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「今からテストを返却する。」
…先生が名前を呼び始めた。
「和馬、…どだった?」
トラが近寄って来た。
「…普通だ。」
…前回と変わらん結果だったので、そう答えた。
「今回の数学、難しかったね〜。」
…雫も寄って来た。
「…そうだな。」
「……そうだな……って……100点?」
…雫が偶然見えた点数に思わずツッコむ。
「…やっぱり100点取っちゃうの⁈」
トラもツッコむ。
「……………………。」
…何か視線を感じる。
「…ん?」
「どした?」
トラが尋ねた。
「いや、何でもない。」
…気のせいか。
「それよかメシ食ったら体育館行こうぜ♪」
「了解。」
「「「きゃ〜〜〜〜♪和馬く〜〜〜〜ん☆☆☆」」」
…女子達の黄色い声援。
「和馬、コッチだ‼︎」
「おう。」
「見とけよオレ様のミラクルシュート‼︎」
俺がトラにパスしたボールが決まった。
「和馬く〜ん☆☆☆ナイスパス♪♪♪」
「ステキ〜☆☆☆」
「シュート決めたのオレなのに…。」
「トラ、ナイスb」
トラの肩を叩いて親指を立てる。
「オマエに言われても嬉しくネェ‼︎」
…はいはい、女子にキャーキャー言われたいんざんすね。
♪ピーンポーンパーンポーン
『2年A組 折原くん、至急剣道場に来なさい。』
「…呼び出し?」
「みたいっすね。」
…ちょっくら行って来ます。
…あ…俺、一応剣道部なんだわ。
…殆どサボってるんだけどね。
「面‼︎…胴‼︎」
…剣道場は昼休みにも関わらず、練習熱心な事です。
…そーっと扉を開ける。
「折原来たか。」
「うっ…はい。」
…一瞬で先生に見つかった。
「全員手を止めて集合‼︎…これより、地区予選のメンバーを発表する。まずは男子から。先鋒……」
…次々に名前が呼ばれる。
「…大将…折原。続いて女子先鋒…」
「…先生、異議ありです。」
…1人、手を挙げる人物がいた。
「…社、どうした?」
…ああやっぱりこの人か。
「折原さんは真面目に部活に取り組んでいません。よって、チームには不適切だと思います。」
…確かに。
「…だがな社…折原の実力は確かだぞ。奴がいないと戦力に欠けるのも事実だ。」
…贔屓。
…討論の末、俺が団体戦の大将に決まった。
「…何故こんな人が…………。」
…その声は小さかったが、俺には聞こえた。
…社が俺の事、嫌いな理由…何となくわかる。
…俺も自分の事が嫌いだ。
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「それじゃあ、また明日♪」
「おう。」
「雫ちゃ〜ん☆またね〜☆」
…駅の改札で雫と、別れた。
…俺とトラは反対のホームに向かう。
「…で、剣道場でヤな事あったの?」
電車を待ってる間、トラが切り出した。
「…いや、別に…。」
「…あったんだな。」
…俺、あんまり顔に出さないタイプだと思うんだけど。
「…まっ、ザックリ言うと…優遇されて反感買ってる。」
…ホントにザックリ。
「妬まれてるって訳だ。」
「そんな感じ。」
…電車が来たので乗り込んだ。
…向かいのホームから雫が手を振っていた。
トラは嬉しそうに両手を振る。
…電車が動き出す。
「雫ちゃん、可愛いなぁ〜☆」
トラがデレデレしている。
「そうですなぁ。」
適当に返す。
…でもホントは、10年弱ぶりに雫と再会して…見違えた…って思ったんだ。
「それじゃ。」
「じゃあな〜!」
…電車を降りて、トラと別れた。
そして駐輪場で自分の原付に乗った。
…人通りの少ない路地裏を通る。
…此処は相変わらず猫が多い。
…誰かが捨てたのか。
…それが繁殖したのか。
…ゴミ箱などが、頻繁にひっくり返される。
…あまりいい気分じゃない。
…俺はいつものように路地を曲がった。
…その時……突然猫が…‼
「うわっ‼‼」
「…ってぇ…………」
…猫を避けた俺は転倒した。
…肘と膝を擦り剥いた。
「…何見てんだよ。」
…猫が俺を睨み付ける。
…俺はゆっくり起き上がった。
…何て最悪な日なんだろう。
…さて…
…本来なら…
…起き上がった俺は、まっすぐ家に帰るんだろうけど…
…何故か…
…足が止まった。
…猫が乗って倒れたゴミ箱から…
…出て来た。
…仮面…。
「…何だろう?」
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…あの時の俺の行動は、自分でもよく解らない。
…何故、これを拾ってしまったのか…。
「…ただいま。」
…って誰もいないけど。
…俺は、まっすぐ風呂場に行き、さっき拾ったソレを洗った。
…綺麗になった。
「…これでよし。」
…俺はソレを自分の部屋の壁に飾った。
…おおっ、こっち見てる。
…ちょっと怖い雰囲気だけど、気に入った。
…あれ?
…この仮面…
…以前何処かで見たかなぁ?
…仮面と言えば…
…3年前に話題になったペルソナ事件。
…女性5人が殺害され、男女2人が殺されかけた、あの事件…。
…その時、仮面の男が目撃され、当初ソイツが容疑者だったんだけど…
…確か犯人は違う男だったんだっけ。
…あの時、報道された仮面に何処となく似てる……。
…いや、そんな訳ないか。
…別の仮面の事件…
…ペルソナ事件の犯人逮捕から1週間後…
…大きな車に乗った男が猛スピードで歩道に突っ込み、通行人を次々と跳ねた。
…やがて車は電柱にぶつかり停止。
…そこから血塗れの男がフラフラと出て来て…
…逮捕された。
…男は仮面を持っていた。
…そっちの仮面は今日見つけたコレとは違う。
…あの黒い仮面だけは忘れられない。
…あの事件で母さんは亡くなった。
…母さん…。
…この広い家に俺は独り。
…しばらく写真を眺めた後、俺はソレを引き出しに閉った。
…ゴトッ…
「……⁉︎」
…引き出しを閉めた瞬間、後ろで音がした。
振り返ると壁の仮面が落ちていた。
…ちょっとびっくりした。
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…俺は仮面を拾った。
アナタハイツデモ ブキミニワラウネ
…仮面を見てると、昨日聴いたその曲を思い出した。
…確かJesterってタイトル。
…Jesterとは…
中世ヨーロッパの宮廷道化師。
日本ではピエロと呼ばれる。
…俺は仮面を付けた。
…そして、鏡の前に。
「…へぇー、結構イイじゃん♪」
…少し調子に乗って、歌ってみる。
「♪アナタハイツデモ ブキミニワラ……ん?」
…声が違う。
…途中から俺の声じゃなくなった。
…昨日のラジオの声。
…これってまさか…
「♪メリーはただの羊飼い…あっ‼︎」
…Jackの歌を歌ってみた。
…そしたら声が…
…顔が…
「…ヤバイ‼︎」
…この仮面を付けて誰かを想像すると、その人の姿になれる‼︎
…顔や、声、背格好まで。
「…それじゃあ…トラになあれ!……っおおっ‼︎」
「…今度は…雫になあれ!……やっぱ可愛いな。」
…しばらく、思い付く色んな人になってみた。
…そして、俺はふと思った。
…誰にでもなれるのかな?
…俺は鏡の前に立った。
「…母さん…………会いたいよ。」
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