日課と日常。
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…アナタハイツデモ ブキミニワラウネ…
悲しみをそこに込めた
願いと一緒に封じた
ねぇ…不思議と…
一瞬で涙は枯れた
目は死んで口は笑った
あぁ…自然と…
失った顔はもう
何処にも無く
代わりの物を求めて
夜道を一人で歩いていたんだ
アナタハイツデモ ブキミニワラウネ
オドケタカオシテ
甘い髑髏は真っ赤な瞳で
私を見つめて剥製にした。
『お送りしたのは、リクエストランキング第4位、KILLTOでJesterでした。』
『ナンバー…スリー!』
『リクエストメールを紹介します。
ラジオネーム、おりひめさんから頂きました。』
《Jack-13の独特の世界観が大好きです。
楽曲を聴きながら背景を想像するのが楽しくて、リクエストしました。》
『それでは聴いて頂きましょう。
Jack-13でSad Sheep Songです。』
メリーはただの羊飼い
特に裕福でもない
恵まれているのは
その美しい容姿
僕はただの飼い羊
不特定多数
その中の1匹
迷える子羊
負けず嫌いだけれど
気が強い訳じゃない
いざ 喧嘩をしたって
敵う筈がない
そんな時 貴女は
僕の背を撫でて
それだけで充分と
言い聞かせ我慢
春は緑が広がる牧場の中で
貴女と楽しく暮らせられるのに
雨上がり日差しが照りつける季節
夏の僕 見ないで ミニクイスガタ
『お送りしたのは、リクエストランキング第3位、Jack-13でSad Sheep Songでした。』
…月曜日の深夜、このラジオを聴くのが俺の日課だ。
…おりひめ…
…実は俺のラジオネーム。
…Jack-13は女性ファンが多いから、俺は性別を隠してメール投稿していた。
…とはいえ、自分のリクエストが紹介されて、ちょっと嬉しい。
…敢えて欲を言うなら…
…この曲、最後まで聞きたかったな。
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…俺の名前は【折原 和馬】。
…ラジオネームが【おりひめ】なんて何の捻りも無いんだけどね。
…このラジオは、つまらない日常の細やかな楽しみ。
…もう他に聞きたい曲も無いし…
…寝るか。
…電気を消した。
…ライトの残像で目がチカチカする。
…もう、3年経ったんだよな…。
…ハイビームにされた車のライトが目に刺さる。
…それが猛スピードで歩道に突っ込んで…
…通行人を次々と跳ねた。
…その中には、俺と母親もいて…
…あの時の人々の悲鳴や、血まみれの光景が脳裏に焼き付いて離れない。
…ねえ、母さん…
…どうして俺だけが助かったの?
「…………ん…………」
…朝。
…何か変な夢を見た。
…あんまり覚えてないんだけど…
…悲しい気持ち。
…取り敢えず…
…コーヒーを淹れて、テレビをつける。
…またやってる…
…コンビニ強盗事件。
…被害に合うのは高校生のバイト代ぐらいの金額で、覆面の犯人は未だ逃走中。
…もう何件目だっけ?
…つまんねえニュースを見ながら、朝飯を食べる。
…適当に支度をして、家を出る。
…父親は俺より先に起きて仕事に行き、俺が寝た後に帰って来る。
…だからこの家は、ずーっと俺1人…。
…つまんねえ家。
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「お〜い和馬ぁ〜‼︎」
…向こうから俺を呼ぶ声。
「おう、虎秀。」
「秀虎だっつ〜の‼︎」
…このウルサイ茶髪は【勝木 秀虎】。
中学の時からつるんでいて、『虎秀』とか『トラ』とか呼んでいる。
「昨日のラジオ聞いたか〜?あのJesterって曲、サイコーだなぁ♪」
「ああ…何となく聞いてた。」
「和馬はJackしか興味ねぇもんな〜(笑)」
…俺のJack好きは公にはしていないが、身近な友達2人にだけ話してある。
…トラがその1人。
…一見、俺が素っ気ない様に感じるかもしれないが、これでもそれなりに楽しんでいる。
「カズ〜、トラちゃ〜ん‼︎」
…歩道橋の上から声がした。
「ん?」
「あっ雫ちゃ〜ん☆☆」
…トラの顔が緩んだ。
…わかりやすっ‼︎
…こっちのウルサイ奴は【荒澤 雫】。
俺の幼馴染。
小学生の時に大阪に転校したんだけど、高校でまさかの再会。
…今ではトラと3人で遊ぶ事が多い。
「2人とも、おはよ♪」
…歩道橋から駆け降りて追い付いた。
「おはよ〜☆☆」
ニヤニヤが止まらない人。
「ああ。」
…こっちは愛想無し。
「ふんっ相変わらずインキな人やねぇ〜(笑)」
…俺に対しては、こんな態度。
「方言入った雫ちゃんも可愛い〜☆☆」
…目がハートのおバカさんも健在。
…まぁ大体、朝はこんな調子で始まる。
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「うげっ…‼︎」
…靴箱を開けると雪崩が起こった。
「…相変わらず大量だな。」
…トラが雪崩た物々を一緒に拾う。
「うわぁ〜…これ全部ラブレター?」
…雫も一緒に拾いながら驚く。
「…カズっていつからこんなにモテるの?」
「…オレが知ってる時には既に。」
…あの、聞こえてるんですけど。
「…はぁ…。」
…2人から集めた物を受け取って、俺は近くのゴミ箱に捨てた。
「…あ〜〜勿体無い…。」
…トラの悲壮な声。
「さぁ行こうぜ。」
…3人で教室に向かう。
「…そこの折原さん?」
…後ろでイヤ〜な声。
「うわ、出たぁ…。」
「あ、社さん…おはよう!」
…トラが俺を盾に隠れ、雫は普通に挨拶した。
「おはようございます。」
…少し沈黙。
「…何?」
俺はやっと振り向いた。
「…紙は燃えるゴミです。分別して下さい。」
…彼女はそう言って立ち去った。
…彼女は【社 蝶子】。
無表情の黒縁メガネ。
めっちゃ真面目で全く隙が無くって、絡み辛い人。
…なんだけど…
…何か俺、嫌われてるみたいです。
「ひぇ〜おっかねぇ…あのサイボーグw」
…虎秀、ビビりすぎ。
「此処、空きカン専用だもんね…社さんが正論だ。」
…雫がゴミ箱からそれらを拾った。
「雫、わりぃ。」
…俺が捨てた物を拾わせるハメになったので。
「いいよ、次から気を付けよ♪」
…嫌な顔一つせずに動く雫に、実は頭が上がらない。
「何か雫ちゃんの方がお姉さんみたいだな!」
トラがニヤニヤしてからかう。
「ふふ〜ん♪私の方がお姉さんなんだよ〜♪」
…ちょっと得意気に威張る。
「2ヶ月だけな。」
すかさずツッコむ。
「それじゃあ圧倒的にオレが1番年上じゃねぇかよ‼︎」
トラが騒ぐ。
「10ヶ月だけな。」
…まぁ全員同級生な訳だから、数ヶ月単位の数字は大した事じゃない。
…普通の高校生活。
…平凡な日常が当たり前だと思ってた。
…まだこの時はね。
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