醜い生き物
あるところに、醜い生き物がおりました。
醜い生き物は、お城に住んでいました。その国の王様はとても寛大な人物で、全ての生き物に等しく優しく、また醜い生き物が無害な生き物であるということを、皆が知っていたので、醜い生き物は城の召使いとして雇われたです。
あるとき醜い生き物は、お城のお姫様と友達になりました。一緒に野原で遊んだり、王様についての文句を聞いてあげたりしました。
醜い生き物は、とても嬉しかった。こんなに醜い自分でも、お姫様となかよくできるんだ、と。
やがて成長したお姫様は、隣の国の王子様と結婚しました。醜い生き物は、お姫様が幸せになって、自分も幸せだ、と思いました。
しかしお姫様は、ときどき元いたお城に帰ってきては、王子様の文句を醜い生き物に聞かせました。それを聞くたびに、醜い生き物は今までに感じたことがないような、浮かない気分になりました。
そんなある日、王子様が、馬から落ちてケガをしてしまいました。そこで、お姫様の身の回りの世話をするために、醜い生き物は王子様の城でしばらく働くことになりました。
お姫様は毎日、王子様を、懸命に、懸命に、看病していました。
それを見た、醜い生き物は、自分の中に、真っ黒な気持ちが、どんどん膨れ上がっていくのを感じました。
はじめは、がまんしていた醜い生き物ですが、ついにがまんしきれず、お姫様が大切にしていたガラスのネックレスを、めちゃくちゃに壊してしまい、そのせいで、お城を追い出されてしまいました。
そこで初めて、醜い生き物は、自分がお姫様を好きだったこと、自分がお姫様と結婚したかったこと、そしてそれが決して叶わないのだ、ということに気づき、泣きました。
そして、醜い生き物は旅に出ました。
お城の外には、醜い生き物をいじめる人たちがたくさんいました。でも、醜い生き物は、ひたすら旅を続けました。
そしてある日、醜い生き物は、小さな村にたどり着きました。
そこには、醜い生き物と同じように、醜い生き物たちが、たくさん暮らしていました。
醜い生き物は、ここに住んでもいいか、と、醜い生き物たちに尋ねました。
醜い生き物たちは、かまわない、と言いました。
でも醜い生き物は、その村に住むことはせず、さらにその先へと、旅を続けました。
やがて醜い生き物は、海にたどり着きました。
海には風が吹き、波が立ち、かもめが空を飛んでいました。
そこで醜い生き物は、気づきました。
がここまで、苦しい旅を続けてこられたのは、お姫様との、温かい思い出があったからだ、と。
その温かい思い出があれば、この先なにがあっても、きっと大丈夫だ、と。
そして醜い生き物は、また、旅に出ました。
その後、醜い生き物がどこへ行ったかは、誰も知りません。
お姫様と、王子様は、いつまでも、幸せに暮らしたそうです。