第九十六話 ユーフラの死
誰も皆、無言だった。セプルゴがそっとユーフラの頬に触れるとまだ温かく、傷ひとつなかった。なのになぜだか艶がない。
「………」
セプルゴはアイレスが膝に抱えているユーフラの身体を両腕で持ち上げて胸に抱いた。ダランと腕が落ち、カクンと頭がもげそうになる。重い。ローホー村で抱き合った時とあまりに違う。
「………………」
男のように短くなってしまった髪がセプルゴの目の前でパサパサと揺れる。首に刺さったままの矢が目障りだ。フォアルが物憂げに周囲を旋回し、セプルゴの肩にとまった。
「……うぅっ、……ッ…、アアアアアアアアァァァッッ!!」
その慟哭に応えるように風が強まる。セプルゴは自分の外套にユーフラを包み入れて叫びくれた。ケーワイドだけが歯を食いしばって耐え、他アイレスたちは日が傾いてもなお泣き続けた。
ユーフラの身体は焼かずに地中深くに埋めることにした。
「焼いた方が埋めるのは楽なんでしょうけどね」
「それなら私が焼いてやりたいが、……さすがにな、もう少し時が経たんと…」
「そうですね…」
フーレンの左翼を切り落とさんとした剣は、ユーフラの生命が途切れるとただの髪束に戻ってしまったので、一房ずつ分けて全員が持つことにした。エッセル町で描いてもらった肖像画はセプルゴが頑として譲らず、今はセプルゴの懐の中にある。
セプルゴはユーフラをしっかり抱きかかえ、地の底のように深い墓穴にスタッと飛び降りた。そっと横たえ、胸の上で手を交差させた。
「……」
かがんで顔をじっと見つめる。手の甲でユーフラの頬と額をなでた。
「………。よし、上げてくれ」
ドゥナダンとファレスルが下ろした縄につかまって地上に出ると、ケーワイドが最初の土をかけた。魔法を使えばあっという間なのだが、手作業でユーフラを埋めていった。脚に、腹に、胸に、肩に、そして顔に土をかける。少しずつユーフラが見えなくなっていく。完全にユーフラの姿が土の下になる直前、重傷で伏せっていたポルテットが頭を起こした。
「僕もやりたい」
トールクが側に行き優しく声をかける。
「無理するな。傷が開くぞ」
「1回だけ。いいでしょ?」
ケーワイドがこちらを向いてコクリとうなずいた。毛布にくるまれたままトールクに抱き上げられ、ポルテットも穴に土を入れた。
「…あっけない…、ね」
たった1本の矢がうらめしい。
「もう何を恨んだらいいのか……」
しかしフーレンの淡緑色の左翼も痛々しかった。
「なんでこんなことになってるんだ…?」
フーレンを守るためユーフラに矢を放った男の声は震えていた。いまだに耳に残っている。
「よそう。何を言ったってユーフラは……」
「………」
「………」
アイレスたちも白い人たちも、もはや満身創痍だ。乾いた風が心を容赦なく削いでいく。




