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WORLDEAR  作者: ちひろ
第二章
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第八十七話 それでも、ここまで来たわけ2

 ユーフラは相当に消耗していたが、一晩休むと元気を取り戻した。

「よし、食欲も戻ったな。ほら、これも食えるか?」

「ありがとう、ファレスル。セプルゴも悪かったわね、ずっと肩を貸してくれてて」

「途中俺が替わるって言っても聞かないもんな」

 グルグルと肩を回しながらセプルゴはユーフラに笑いかける。

「ドゥナダンとかじゃ背が高すぎるだろ。ユーフラは私の怪我を治してくれた恩人なんだから、これくらいさせてくれよ」

 ユーフラも微笑み、髪をけずり始めた。

「なんだか寂しい。あたしユーフラの黒髪好きだったんだけどな」

 肩下の短さになってしまった黒髪にそっとアイレスが手を伸ばす。ユーフラは苦笑して目を伏せた。

「実際、寂しいなんてものじゃあないわ。この身の半分を失ったような気分よ」

「そりゃ随分だな」

 若者たちの話を聞いていたケーワイドが、茶を飲みほして近寄ってきた。

「決して大げさではないのだよ。ユーフラの魔力は髪に宿っているのだから」

「へえ、そうだったんだ。ケーワイドもそういうのあるんですか?」

 好奇心に満たされた目でポルテットがケーワイドを見上げた。地面に寝かせていた杖を掲げて、ケーワイドは言った。

「うむ、私は手だな。この杖は魔法の補助であると同時にの、迷惑なほど甚大な私の魔力を制御するためのものだ」

 さりげなく自身の魔力の凄まじさに言及しているが、あまりに自然な物言いに、かえって嘘偽りなく客観的であるように聞こえる。

「そういえばルリの森では杖ついてませんでしたね」

「明らかにケーワイド、木から嫌われてたよね」

「まあ、それであそこでは魔法を使うことを自分に禁じていたのだが、そのせいでフーレンの奇襲に(おく)れを取ってしまった」

 ケーワイドは身をかがめ、ユーフラの髪を見つめた。ゆっくりと指をくぐらせるとサラサラと手に落ちていった。

「こうなってしまったのは私が油断しておったせいだ。本当にすまなんだ」

 そう()びる師匠の膝に手を置き、ユーフラは大きく首を横に振った。

「何をおっしゃいます? 幸運にもわたしはいくらでも伸びる髪に魔力を宿しているのです。これぐらいすぐに伸びましょう」

「それが救いだな。ともかく怪我などなくて良かった。フーレンもこちらを殺すつもりはなかったようだしの」

「女の闘い、怖かったなあ!」

 セプルゴの明るい声で一同に笑顔が戻り、それが出発の準備の合図となった。

「ハハハ! また挑んで来るかな、フーレンは?」

「もう正面からは来ないでほしいわね」

「そもそもケーワイド、白い人たちが再度追いついてくるのは想定していませんでしたね」

 バサリと外套を着こみながらトールクが問いかけた。

「ああ、そう思っておった。フーレンの魔力は半減しているはずだから、とな」

「ケーワイドともあろうお方がめずらしい」

「やめんか、ファレスル。わざとらしいわ。あの決戦でフーレンの魔力が劇的に弱くなったのは間違いないが、問題は……」

 そこまで言うと、フォアルが食事の皿からケーワイドの肩まで飛んできた。ケーワイドはその相棒を人差し指でそっとなで、

「…フーレンの側にフォアルに似た鳥が付き添っていたのに気づいておったか? あれはフォアルの兄弟で、生地(せいち)であるモクラス山脈最高峰から巣立った際に白い国に降りていったのだ」

 と言った。アイレスはその話に聞き覚えがあった。ウェール村を出発した最初の夜であった。『ワールディア』をデ・エカルテへ持っていくというこの旅の目的を聞き、そして『ワールディア』を守るために命をかけられるかと問われたのだった。あの日のケーワイドの鈍く光る瞳が昨日のことのように思い出されるし、しかし何十年も経っているようにも感じる。

「いましたね。フォアルと同じようにかすかに輝いていた」

「フーレンの新しい左翼は……」

 ケーワイドは言いよどみ、フォアルがその耳元でチロチロッと鳴いた。

「…フォアルの兄弟の物であろう。フーレンの元々の翼は純白であったが、昨日見た新しい翼はフォアルの色によく似ておった」

「えっと、つまり?」

「どういうこと?」

 ファレスルとポルテットの問いに、ケーワイドとユーフラは顔を見合わせた。

「魔力を我がものにするために、食ったのであろう……」

 急に吹いてきた風がいやに肌寒い。

「そんな……、ひどい…」

 ポルテットは目に涙をため、フォアルに手を差し伸べた。その手に頭をすり寄せ、フォアルは悲しげに一声鳴いた。

「魔力を増強するためとは言え、ずっと側にいた相棒を食べるだなんて…」

「そんなことができるもんですかね。やはり白い人は血も涙もないのでしょうか」

「実際、そうは見えない。どこかへ飛んでいったフーレンを追う彼らは、心配そのものだった」

 カサカサと乾いた木の葉が足元を通り過ぎる。大分時間が経ってしまったようだ。

「さあ、行こう。奴らはそうまでして私たちを追っているのだ。デ・エカルテへたどり着く以外、この追いかけっこが終わる道はないのだろう」

 徐々に太陽が昇ってきているが、今日は温かさを感じない。

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