第七十八話 いつもの顔ぶれといつもの会話
ケーワイド一行は少し遠回りすることにした。次なる通過点は市場の繁栄で栄えているエッセル町だ。
「なんだかんだデ・エカルテへの道のりはまだ長い。食料品や雑貨を買い足さんと」
「調味料も変わったものが欲しいな」
「土産物が欲しいがなあ、荷物になるんだよな」
「わたしを見ないでちょうだい。自分で持ってよ」
「セプルゴな、ユーフラを便利屋扱いするなよ」
「寄り道するにしても、ルリの森は通るんだよね?」
トゥライト平原の西には鬱蒼と木々が生い茂るルリの森が広がっている。
「そうさの。森を迂回するほどの遠回りではない」
セプルゴが「珍しい薬草が見つかりそうだ」と張りきっている。
「美しい森だと聞く。次は旅行で訪れたいな」
とトールクはそっと目を伏せて言った。ウェール村の村人たちとトゥライト平原の合戦で共闘し、つかの間の家族との再会もあった。トールクとその妻は何も言わず見つめ合い、一瞬だけ口づけして別れたのだった。いつもトールクの胸には妻と子どもたちがいた。
「そこにも妖精がいそうですね。楽しみだなあ、いたずらされるかなあ」
ショーラ町の援軍であった歳の離れた友人シンラ・オクシロンを失い、ポルテットは久しくふさぎこんでいたが、8人での気のおけない旅となると徐々に笑顔を取り戻していった。それでも時おり大人びた顔をするようになった。
「もちろん森の妖精がおるよ。しかしここの妖精は大人しい」
「へえ、どうしてですか? 会えないの?」
妖精に遭遇していないアイレスは少し残念に思った。
「森の草木を丁寧に守る人が住んでいるからだ」
ケーワイドはそう言いながら杖をルリの森の方角へ向けた。まだ森までは距離があるが、遠くからでも濃緑の常葉樹が深い輝きを放っているように見える。
「木や草花と対話し、それを通じて妖精とも良好な関係を保っておるのだ。その分、森を荒らすような輩には妖精は容赦しないがな」
森と共に生きる民の存在が妖精を鎮めているのだ。
「森を抜けるには3日ぐらいかかりそうだな」
「1晩は野宿になろうが、2晩目は例の森の民に泊めてもらいたいの」
「ケーワイド、やっぱり知り合いなんですか?」
「うむ。しかし私の魔法は火と雷を使うから嫌われとる」
一同思わずプッと吹き出し失笑する。
「フフ、ハハハ! 日も傾いてきましたね。今夜はどうします?」
ケーワイドを威嚇してか、遠い森は風でそよいでいるにしては強すぎるなびきかたをしている。
「森の手前までは行ってしまおう。木々のざわめきを間近に感じながらの野宿も乙なものだと思うぞ」
「えー、怖いのは嫌だなあ」
ポルテットのことを笑いつつ、アイレスたちも得体の知れない何かが森に潜んでいるような予感がじわじわとしていた。




