第七十二話 決戦3
徐々に白い人たちの劣勢具合は増していくが、最前線では激しい攻防が続いていた。
「ヤアァァッ!」
アイレスは正確に敵の急所をとらえる。神経が集まる場所を切れば激痛が走ることを、自警団の訓練で熟知していた。
「アアッ! さあ、来い!」
ドゥナダンの槍は攻撃が多彩だ。槍で突きもするし柄で殴ることもある。変幻自在な動きに敵は翻弄された。
魔力を使いはたしたユーフラはフォアルを駆使して伝令役に徹した。襲われないようトールクが側について白い人を殴り倒していく。
ファレスルは正面から脳天を切りつける剣術が得意であった。その剣の扱い方は正統的と見え、誇り高いテイノ町の援軍からも認められていた。
怪我が完治して初の本格的な戦闘となったセプルゴは自分の仲間の近くにいながらも、一緒にトゥライト平原まで進んできたローホー村の援軍と動きを共にした。山の民は弓の扱いがうまく学ぶところが多い。
ショーラ町の精鋭が8人の近くにいることもあり、ポルテットはオクシロンの助言を受けながら戦っていた。
「肋骨の位置をよく思い描け! そうだ!」
「ハッ! エエイッ!」
善戦する仲間に安堵しながら、ケーワイドは宙に浮いたままのフーレンに向き合った。
「まだ諦めんか」
「…『ワールディア』を寄越せ」
「聞く耳持たん、か。とにかくぼちぼち決着をつけんとな」
ケーワイドの髪が逆立っていく。全身が光に覆われた。
「【モーラフ】!」
杖から勢いよく炎が噴出しフーレンの身体を包んだ。
「フーレン様が!」
周囲の白い人が悲痛な声で叫ぶ。
「【ヴィロブ】!」
しかしすぐさまフーレンは風を起こして炎を吹き飛ばし、逆に煽ってケーワイドを攻撃した。ケーワイドは跳び上がってそれを避ける。
フィレックは車椅子で運ばれながらその魔法の応酬を目にした。
「フーレン! どんな犠牲を払ってもケーワイドを倒してくれ!!」
くぐもったその声が聞こえるやフーレンは目を光らせ翼で激しく風を起こした。かまいたちのように周囲の人を切りつけていく。白い人も何人か負傷しているがお構いなしであった。
「こ…の…、やめんかー! 【ロピラ】! 【ロトプチェス】!」
ケーワイドは決死の様相で、杖を魔法で変形させながら跳躍した。かまいたちが頬や肩を傷つけた。杖は見る間に剣の柄の形になり、ケーワイドはその柄から稲妻を発生させた。
「ヤアアアァァァァァァッッ!!」
渾身の力でケーワイドは稲妻の剣を振りぬき、フーレンの左翼を切り落とした。ドサッと鈍い音をさせて翼が地面に転がり、風のように消えてしまった。
「グ…ッ、アアァァァッ!」
フーレンは飛んでいられなくなり、断末魔の叫びを上げて落下していった。
「フーレン! フーレン!」
「フーレン様ーっ!」
フィレックたちが駆け寄ろうとする。が、ケーワイドが稲妻の剣をまた変形させて弓矢にし、自分たちに狙いを定めていると気づいて立ち止まった。矢の先がバチバチと火花を散らしている。フーレンのかまいたちの余波がケーワイドの外套をひるがえしていた。
「帰れ」
そう言ったケーワイドの声に圧倒されてフィレックたちは動けなかった。
「『ワールディア』はデ・エカルテに封印するのだ! お前らには指一本触れさせん! 白い国に帰れーーーっっ!!!」
ケーワイドの叫びに呼応するように、晴れ渡っている空から稲妻が無数に落ちてきた。すべて白い人たちに命中し、白い人はその場から姿を消した。ひとり残らずだ。
「ヤアァァッ! …あ? あれ?」
アイレスたちは一瞬のできごとに思考が追いつかなかった。目の前にいた敵は全員姿を消し、自分のように現状を把握できていない援軍がキョロキョロと見渡している。ドゥナダンがまっすぐ向かってきていた。
「アイレス! 稲妻には当たらなかったか?」
「大丈夫。でも、え? 何が起こったの?」
ドゥナダンはアイレスの両肩に手を置いて無事を確かめ、
「分からない。ひとまずみんなを探そう!」
とアイレスの手を引いた。ケーワイドの周りにファレスルたち仲間が集まっていた。




