表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WORLDEAR  作者: ちひろ
第一章
53/125

第五十三話 トールクと妻との約束

 ワン川沿いの船着き場を見つけたが、小舟は底が抜けていて使えそうになかった。

「あちゃー、これじゃ駄目ですね」

 ファレスルはトールクを仰ぎ見て頭をかいた。トールクも小さくため息をつく。

「どうしましょうかね? 飯でも食べて考えますか」

 小鍋を取り出しながらファレスルはその場に腰を下ろした。考える気はあまりなさそうだ。

「歩くか、舟をどうにかするか、ふたつにひとつだろうな」

 冷静なトールクの意見を話半分に聞きながらファレスルは火を起こした。

「舟ねえ、どうにかするって?」

「作ったらいいだろう」

「はい?」

 突拍子もない提案がトールクから出て、ファレスルは動揺のあまり(さじ)を鍋の中に落としてしまった。

「作るって? 木からですか?」

「もちろん。ファレスルのその大剣で木は倒せるだろう?」

「いけると思いますけど…」

 できあがった汁物を受け取りながらトールクは続けた。

「幼馴染みに船大工がいてね、若いころはいかだや丸太舟を一緒に作って探検したものだ。あそこの木なら丸太舟にできそうだが、どうだ?」

 トールクが指さした大樹を見てファレスルは、

「本気ですかー…」

 とつぶやいた。



「…フンッ!! アァッッ!」

 ファレスルが威勢のいいかけ声をあげる度、大樹は確実に傾いていった。その間トールクは舟を作る道具の代わりになる石を探しに行った。

「よし! トールク! 倒れますよー!!」

 ズーン…、と周囲に轟く音をたてて大樹は倒れた。

「よくやった、よくやった。大変だったな。舟は私が形にするから、(かい)を作ってくれ」

「お安いご用です!」

 調子がついてきたファレスルをうまくおだて、トールク自身は大きなのみのような形の石と、それを打つ用の石を持ち出して丸太に向かった。

(あれ、そういえばトールクって、小刀すら使ってるところを見ないな)

 ファレスルは今までのトールクの様子を思い出してそんなことを考えた。縄を切るとか、そんな場面ですらどこかから拾ってきた石を使い、すぐに道端に戻している。

「トールク、聞いてもいいですか?」

 袖をまくってトールクは振り向いた。(とび)らしい非常にたくましい腕だ。

「なんだ?」

「どうしてトールクは武器を持ってないんですか? 護身用はもちろん、小刀すら持ってないですよね。料理の時とか不便でしょう?」

「料理はファレスルに任せるとして」

 と言いながらトールクは水筒の水を飲みほして答えた。

「妻とね、約束したんだよ」

「奥さんと? 何て?」

 じっと手を見つめて、トールクは噛みしめるように話し出した。

「…絶対にこの手で人を殺さないって。自分や子どもたちを抱くこの手で、人の命を奪わないって」

 日が陰ってきている。夕暮れの風は冷たくなってきた。ファレスルは川から新しい水をくみ、鍋で沸かして茶を入れる支度をした。

「奥さんはどんな方なんですか?」

「優しい女だよ。触れると折れそうなぐらい細くて小さいし、虫ひとつ殺せない。でも人の心を踏みにじることも、命をないがしろにすることも、頑として許さない」

 普段トールクは多くを語らないが、妻のこととなると別のようだ。ファレスルはもっと聞いてみたいと思った。

「出会いは? ウェール村の方なんですよね?」

 トールクは「聞いてどうするんだ」と笑って茶をすすり、少しまぶたを伏せて思いにふけり、ワン川のせせらぎのように静かに語り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ