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WORLDEAR  作者: ちひろ
第一章
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第五十話 素直になれる相手

 ローホー村へ抜ける山道を、セプルゴとユーフラはゆっくりと進んでいた。セプルゴの胸の傷はふさがっているものの、岩場を登るために腕を伸ばしたり、登り坂で力を込めて進んだりするのはやはり苦しい。額から不自然なほど汗が滴っている。

「セプルゴ、大丈夫? 少し休みましょう?」

「悪いな、荷物まで持ってもらって」

「魔法だから大したことないわ。歩くのがつらいの?」

 ユーフラは魔法で水筒を出してセプルゴに手渡した。喉を鳴らして一気に飲みほす。

「登りは全身の力を使うだろ? 上半身をひねらないようにするのはさすがにしんどいな」

「そう……。セプルゴ、高い所は苦手?」

「は? どうした?」

 唐突なユーフラの質問にセプルゴはきょとんとした。不安そうに揺らぐ大きな瞳を見て、ユーフラは小さく微笑んだ。

「ケーワイドがセプルゴとわたしを組ませたのはね、セプルゴが無事にトゥライト平原にたどり着くには、魔法を惜しみなく使って支える必要があるからだと思うのよ」

「はあ…」

「つまりね」

 ユーフラの全身が紫色に淡く光り始めた。その光がセプルゴをも包む。

「うわ、なんだ? 何するつもりだ!?」

「じっとして」

 そう言うなり、ユーフラは「はっ!」と気合いを入れ、両手に力を込めた。するとユーフラはセプルゴと共にフワリと宙に浮いた。

「ユーフラ! 君、飛べたのか!」

「実は得意なのよ。風を操るのが一番わたしに合ってるの」

 ユーフラが起こした小さな竜巻にふたりで乗って平衡を保っているのだ。

「ケーワイドが白い人たちを一気に吹っ飛ばしたことがあったな。あれも風か?」

「ケーワイドの魔法はもっと複雑ね。あれは反重力だと思うわ」

 ユーフラは長い黒髪をなびかせて、バサバサとはだけそうになった外套の前を閉じた。セプルゴは感心しきってずっとキョロキョロしている。

「揺れがつらかったら言ってちょうだいね。歩く早さ以上では進まないようにするから」

「ありがとう、助かるよ。ユーフラと一緒で良かった」

 セプルゴは一筋ほども邪気のない笑顔で明るくユーフラに礼を言った。辺りの風が爽やかにセプルゴを取り囲む。ユーフラもつられてニコリと笑った。セプルゴは上を下を見回すあまり、身体をひねって頻繁に「いてて」と声を上げる。

「もう、怪我に障らないように宙に浮いてるのに何してるの?」

「ハハ、あんまり楽しいから」

 子どものようだ。

「まったくもう」

 とセプルゴの肩を軽くたたくと、またセプルゴは高らかに笑い、ユーフラは胸がじんわりと温かくなるのを感じた。

(こんなに素直に笑い合える人がいるなんて)

「あんまりみんながいると照れくさいから言わなかったけど、本当に魔法使いはすごい存在なんだな」

「そんなことないわ。一人ひとりどんな能力を持っているかは違うじゃない」

「そうじゃなくてさ、魔法使いが自分の力を使って悪事を働くというのを聞いたことがない。必ず誰か他人のために魔法を使うだろ?」

 ユーフラは白い人で翼を持つ魔法使いを思い出した。思えばあのフーレンと呼ばれている白い人も、フィレックが言わなければ何もしないようだ。

「誇り高き人たちなんだ、魔法使いは」

「そんな、そんなこと……」

 あまりにはっきりと称えられて、ユーフラは気恥ずかしくなった。セプルゴは相変わらず嫌味のない笑顔で見つめてくる。仕返しをしたくなった。

「セプルゴこそ、その率直さは才能よ。そんなに自分の思っていることを素直に言える人はいないもの」

「まだまだ大人になりきれてないだけさ」

「少年の純粋さをいつまでも持てるなんて素敵じゃない」

 セプルゴに合わせて素直な物言いをしてみたが、なかなか気分がいい。思わず笑顔で空を仰ぎたくなる。

「ユーフラにだったらいろいろ頼れそうだな」

「フフ、お手柔らかに」

 風に乗りながらセプルゴは少しうつむいた。

「なあ、フォアルがウェール村を見に行ったろう? どれくらいで戻ってくるかな? やっぱり離れてたらフォアルの考えてることは分からないか?」

「そうね、遠すぎると分からないわね。確かにそろそろケーワイドの元に戻ってきてもいいころだけど、何かあったのかも…」

 そこまで言ってユーフラはハッとした。セプルゴは身重の妻を村に残してきたのだ。

「あんまりみんなには言わないけどね、ユーフラならいいかな。本当は嫁さんが心配で心配で仕方ないんだ」

 コロコロ変わる表情を今は曇らせて、セプルゴは重いため息をついた。

「それで自分がこの怪我だろ? ちょっと…、神経過敏だね、今の自分…」

 遠い目をしてあらぬ方角を眺めるセプルゴを見て、ユーフラはなんと声をかけたものか分からなくなってしまった。先ほどまでの明るい声をまた取り戻してほしい、そっとそう思った。

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