第四十一話 ショーラ町到着
「さあ、かごが安いよ! おふたりさん、旅の途中かね? だったら敷き物を新調するのはどうだい? 職人の手作りだから長持ちするよ」
「買った買った! 香辛料を豊富に取りそろえたよ!」
目が回るほどに混雑している市場を突っ切ると、案の定ポルテットは目を輝かせた。見慣れぬ食べ物や日用品が所せましと並べられている。この世のすべての物がここに集まって売られているような盛況ぶりだった。店員の声と値切る客の声が飛び交い、活気にあふれていた。
「ケーワイド、あれ見て! お菓子かな?」
「いいから行くぞ。あとで3つだけ好きなものを買ってやるから、今はとにかく前を見い!」
「やったあ!」
孫の子守りのようだ。ケーワイドは「やれやれ」とため息をついた。
町役場の荘厳な建物はウェール村のどんな建築物にも似ていない。ポカンと見上げて立ち止まってしまったポルテットの手を引き、ケーワイドはキュッと口を結んで中に入っていった。町長の執務室にたどりつくまでにも、何か所もの窓口で手続きをしなくてはならなかった。ウェール村は村長に会うだけなら、村長の家の扉をたたけばそれでよい。
「ケーワイド! ああ、懐かしい! 待ってたぞ、元気だったか?」
丈高い男性がケーワイドを迎えて抱きしめた。威勢のいい声を聞きポルテットは、
(あれ、ケーワイドの友だちだっていうからもっとおじいさんだと思ってたけど)
と感じた。
「ポルテット、こちらがショーラ町の町長、ニイン・ミグラルだ」
「初めまして。すっかり私も町長然としてしまったが、魔法使いでもある。どんなに修行してもケーワイドにはかなわなかったな」
大らかな笑顔は若々しさすら感じさせる。どんなに多く見積もっても60歳前後だろう。じゃあケーワイドは? ふとポルテットは疑問に思った。
「我がショーラ町は3500人の男たちを用意した。すぐにでも出発できるぞ」
「恩に着る。ミグラルはどうする?」
「農繁期は過ぎたから、私も同行させてもらうよ」
恐らく久しぶりの再開であろうが、多くを語らずお互いの要求を把握している。ケーワイドの口調が心なしか気安くなっているのがおかしかった。
「ケーワイド、ポルテット坊、今夜の宿に案内しよう。今回の援軍の中心となる自警団の詰め所にも顔を出すといい」
町長のミグラルがそう言うと、数名の役人が現れた。ケーワイドがコソッと「大げさだの」とポルテットに耳打ちした。ポルテットも「偉くなったみたいだ」と笑った。
行く道行く道でケーワイドは声をかけられた。町長の古い友人とあって、ショーラ町の人は皆ケーワイドに敬意を表しているようだった。しかしそれだけではない親しさがある。
「ケーワイド、お久しぶりです」
「私も息子も援軍に参加させてもらうのですよ」
「おや、こちらの坊っちゃんは? お孫さん?」
旧知の土地でケーワイドは安心しているのか、実に高らかに笑った。
「ハハハハ、こんなに利発そうな子が私の孫であるはずなかろう」
「こんにちは、ザック・ポルテットです。ケーワイドと一緒にウェール村からきました。ここは活気があって、みんな元気で、素敵な町ですね。長くいられなくて残念です」
「お行儀のいいこと。遠路はるばるようこそ」
ポルテットは早速ショーラ町の人に溶けこんでいる。それを眺めながらケーワイドは、
(このポルテットの誰にでも屈託なく接して心をほころばせてしまうのは才能だな)
と思った。




