第三十六話 次なる作戦
風に乗って漂うように4つ目の光の玉がケーワイドの元にやってきた。目の前でパチンと弾け、その光の余韻を見ながらケーワイドは立ち上がった。
「ケーワイド、今の光はなんですか?」
「もしかして妖精?」
若いポルテットとドゥナダンは興味深そうにケーワイドの手元をのぞきこんだ。先ほどまであった光は消えている。
「これで4つですね」
よく師を見ているユーフラは首をかしげてケーワイドに近づいた。
「まったく、皆よく見ておるの。しかしこれは妖精ではなく、魔法だよ」
「何の魔法ですか?」
邪気のないポルテットがさらに問いかける。アイレスは眠る準備をしながら、ビルニン村でケーワイドが似たような光の玉を夜空に放っていたのを思い出した。それがケーワイドの所へ帰ってきたということなのだろうか。
「セプルゴの回復を待ちながら少し考えるつもりだったのだがな」
ケーワイドが話す体勢に入ると見るや、7人は皆その方向へ身体を向けた。
「白い人がにわかに強力になったのを感じたろう? 予想はしておったが、これほどまでに早いとは思わなんだ。この間の戦闘で私はずいぶんと魔力を消耗してしまったし、いかにこの8人がウェール村の精鋭とはいえ、どこまでもちこたえられるか……」
そのことは全員が感じていた。たった8人でどう逃げきるというのか。しかも白い人たちの中にも強力な魔法使いがいる。人海戦術で攻めてこられたらひとたまりもない。
「逃げるばかりでなく、どこかで勝負をかけるしかないのでは?」
落ち着いた声でトールクが言った。ケーワイドはうなずき、
「私もそう思うとる。しかしこの今の人数では逃げるのが精一杯だ」
と返した。そして手のひらに光の玉を出現させた。
「そこでの、周辺の町に援軍を頼んでおったのだよ。この光は伝達に役立つ魔法だ」
ユーフラが「わたしは風を使うわね」と補足すると、ファレスルが「魔法使いは誰でもこんなことができるのか」と感心している。横になりながら聞いていたセプルゴが頭を起こして話に入ってきた。
「それでケーワイド、援軍要請の結果は?」
ケーワイドは杖で圧力を生じさせながらセプルゴを再び寝かしつけた。
「ほれ、一瞬でも長く横になっておれ。ただでさえ歩かせるのは本意でないのだから。周辺の4つの町や村に要請をしたが、結果すべてが快諾してくれた」
「本当ですか!? いてっ、いててて……」
「何してんだ、傷口が開くよ」
ドゥナダンに毛布を追加され、セプルゴはまた床に伏した。
(それにしても…)
アイレスは何かが引っかかっていた。協力してくれる人がいるといういい知らせなのに、なぜケーワイドは今日まで黙っていたのか。ケーワイドは何かに思い悩んでいるように、何かを抱えこんでいるように、アイレスにはそう見えた。
「しかし問題がひとつあるのだ」
ケーワイドのその言葉に、アイレスはやはりと思った。
「正式な援軍の要請だ。それぞれにきちんとした使者が必要なのだよ」
全員顔を見合わせた。4か所に使者を送らなければならないということだ。
「この8人を4つに分けるほかない。それをどうするか、この数日ずっと考えておる」
ビルニン村で伝達の光を周辺に飛ばした時から、ケーワイドはずっとひとりで考えていたのだろうか。一番弟子ユーフラも、年長で落ち着いているトールクも、何の相談も受けていないようだ。
「ケーワイド、共に考えましょう。『ワールディア』を守るのはケーワイドひとりではないのですから」
静かにそう訴えるトールクの目は真摯で情熱的だ。
「そう、だな。皆で考えるとするか」
一体ケーワイドは何を危惧して皆で考えることを避けていたのだろう。ケーワイドの考えを探ろうとしているのは自分だけだろうか。アイレスは議論をしながらも、ケーワイドの心中が気になっていた。




