第三十二話 ウェール村の4人の斥候
3000人ほどのウェール村の全住民は、白い人たちとケーワイドをまっすぐ追っていった。子どもや年寄り、身体が不自由な者も連れてきたので、思うように進まない。ウェール村を出発して3日後に、臨月だった若い女性が元気な男の子を産んだ。屋外での出産だったにもかかわらず的確に指示を出す産婆と、状況に臆せず懸命に子を産んだ母の様子に、不安につきまとわれていた一行は大いに元気づけられた。
「女が元気でいるうちは、どんなにつらい道のりでも大丈夫だ」
自警団長の言葉に、男一同は大きくうなずく。
「とはいえ、もうすぐ渓谷だ。どうして越えたものか」
嵐が通りすぎて荒れはてている周囲を見渡して、セルク・ラムダ村長は地図をなぞりながら頭を悩ませていた。南に下れば橋があるのは分かっているが、無事だとは思えない。しかし崖を下りるのは絶対に無理だ。
「一度体力のある者が様子を見に行ってもいいかも知れませんね」
村役人に言われ、村長と自警団長、各種の組合長がまた長い話し合いに入った。
「では、この4人でいいな?」
「そうですね。早速呼び出しましょう」
4人の斥候隊は、アイレスの姉ミドレ・マリエスを含む20歳前後の若者であった。妹を案じる姉としては追いつくためなら是非もなく、マリエスは「行く」と即答した。
「魔法使いのユニ・トリドは移動魔法が得意だ。安全な場所を探して一気に移動させてしまうこともできるだろう」
「まずは地形と様子をよく確認させるということですな」
慎重に斥候の目的を確認していると、会合中の天幕に村役人が転がりこんできた。
「なんだ、騒々しい」
「村長、村長! フォアルがこちらに戻ってきました!」
皆驚いて立ち上がり外を見た。
「フォアル? ケーワイドがいつも連れている鳥のことか?」
「はい。今はユニ・トリドの側にいます」
ケーワイドたちに何か不測の事態が起こったのか。村長たちは緊張しながらトリドの元へ急いだ。
「ユニ・トリド。フォアルが来ているというのは?」
魔法使いのトリドは長い尾をなびかせて旋回するフォアルに手を差しのべて柔らかに笑った。
「村長、お耳が早いですね。フォアルは我々の様子を見にウェール村に向かっていた途中のようです」
「様子を見にだと? それよりケーワイドたちは無事なのか?」
フォアルはトリドの手に止まって歌うように鳴いた。それを聞いてトリドは数回うなずき村長たちを振り返った。
「心配いりません。何度か白い人たちと対峙して負傷している者はいるようですが、全員元気に先を急いでいます。私たちの様子を見にフォアルを寄越すほどには余裕がある、と考えたら良いかと」
一同ホッとため息をつき、フォアルに水をやった。
「しかしフォアルもケーワイドたちも、私たちはウェール村にいると思っていたわけですから、こんな所にいるわけを知りたがっていますね」
「そうでしょうな。あの翼を持つ白い人によって村に閉じこめられ、横穴を掘って脱出したことをケーワイドたちは知らないのですから」
自警団長の言葉にフォアルは反応し、「もっと聞かせろ」と言わんばかりにその周りを飛び回った。
「フォアルは、例の白い人はとても強力な魔法使いだと言っています。よく閉じこめられるだけで済んだな、とも」
トリドにそう告げられ、村長たちは青くなってお互いの顔を見合わせた。ケーワイドたちがどんな目にあっているかも、にわかに心配になった。
「急ごう。一刻も早くケーワイドたちの無事を確認したい。トリドはここで待機しておくように」
大勢での慣れない長旅のせいで、村人たちは疲れきっている。栄養のある食事も不足していた。若い斥候が地形などを確認している間は少し休憩していてもいいだろう。4人の斥候隊を集合させるべく、村長たちは慌ただしくトリドの元を離れていった。




