第二十九話 光と共に現れぬ
『心』を持ち、仲間に強力な魔法をかけたケーワイドたちを憎み、怒りの感情を覚えた白い人たちは、俄然力強さを増していた。気力も明らかに以前より増強されている。憎しみ、怒りという感情ではあるが、白い人たちは目に光が宿っていた。ケーワイドたちは初めて本格的に戦わなくてはならなかった。
「【ロピア、モーラフロドント】!」
「【ヴィーロブ】!!」
ケーワイドとユーフラは魔法でもって応戦している。ケーワイドは火と雷の魔法、ユーフラは風を起こす魔法が得意で非常に相性がいい。
「ポルテット! ひとりになっちゃだめ!」
素早く走り回るポルテットは、白い人の攻撃を身軽に避けながら翻弄させ、同士討ちを狙って縦横無尽に駆けぬけた。アイレスはポルテットに気をとられ、まともに攻撃を受けそうになった。その白い人をセプルゴが正確に射抜く。アイレスの背後にファレスルが飛びこんできた。
「アイレス、敵に背中を見せるなんて君らしくない」
アイレスとファレスルは背中合わせになり、自分たちを囲む白い人たちに一気に切りこんだ。大樹に登り上からセプルゴが矢を四方に射続ける。その樹の根元ではトールクが素手で白い人たちを伸していた。
「…チッ!」
3人から同時に切りかかられたファレスルは、どうにかその白い人たちを倒したものの腕と顔を負傷した。ファレスルだけでなく皆同様に負傷している。
「グッ…!」
大樹に登っていたセプルゴは、有利な居場所であったが狙われやすくもあった。白い人が投げた短剣が右胸に刺さった。致命傷ではないが、矢をつがえられなくなるぐらいには重傷であった。
「らちがあかん! ユーフラ、援護せい!」
ケーワイドが起こした火をユーフラの風が膨らましていく。白い人たちはその勢いにあおられ、ケーワイドの周囲が空いた。
「【ロドント】! 【イーリン、フォーラト】!!」
一際ケーワイドは大きく叫び、空に向かって杖を掲げた。次の瞬間、晴れ渡った青空から朽葉色の稲光がまっすぐに落ちてきた。白い人たちはフィレック、フーレンを含む10数人を残し、糸の切れた操り人形のようにバタバタ倒れていった。
「ケーワイド!」
力を使いはたしたか、ケーワイドは杖にすがりついてよろけた。すかさずユーフラとポルテットがケーワイドの両脇を固めた。
アイレスとファレスルはフィレック、フーレン、そのふたりに控える数人と対峙した。
フィレックもフーレンも身体に不具がある。それを押して山を越え自分たちを追ってきたのにはどんな理由があるのか。『ワールディア』を手に入れることに何の意味があるのか。アイレスはただひとり濁っているフーレンの目を見つめ、じっと考えた。
「…アイレス。向こうのやつらも隙がない」
「分かってる。一気にいこう」
アイレスとファレスルは調子を合わせて同時に切りこんだ。アイレスの舞うような2本の短剣、ファレスルの力強い大剣は、生きているかのように白い人たちを攻撃していった。ファレスルはフーレンに立ち向かう。アイレスはフィレックの脇を守るふたりと、丁々発止たる剣術の応酬を繰り広げた。ふたりを倒し、勢いがつきすぎて地面に手をついてしまった。
「アイレス! 危ない!」
ファレスルの呼びかけにアイレスが顔を上げるのと、自分から離れたところで鬼気迫る白い人が弓を引いたのは同時であった。時が止まったように、
(あ、まずい)
とアイレスは冷静に感じた。しかし身体の反応が間に合わないと直感するのも同時であった。ファレスルはフーレンの魔力に抗い剣を落とさないよう構えるので精一杯だ。アイレスはギュッと目を閉じた。次の瞬間、ドォッと身体が倒れる音がする。しかし自分は痛くもかゆくもなかった。
「……ドゥナダン!!」
ファレスルの明るい声があたりに響き、アイレスは反射的に目を開いた。崖の縁の大きな岩の頂にいるのは、まぎれもないドゥナダンであった。矢をつがえたまま倒れこんだ白い人の元へ飛び移り、背中から槍を引き抜き、片手を使って頭上で大きく回転させた。フォアルはドゥナダンの肩に乗っており、そして虫のような光る物体がドゥナダンの周りを浮遊していた。ドゥナダンは背後からの日の光を浴びて全身から並々ならぬ気を発していた。アイレスは声を出すことさえできなかった。
ドゥナダンはアイレスとファレスルを守るように槍を構え、無言でフーレンをにらみつけた。しばしの沈黙が流れている隙に、
「【タルフォ】! 【ノーガラウ】!」
とユーフラが一声叫んだ。かまいたちのような風が残った白い人を襲う。フィレックたちも含めて、白い人たちは皆その場に倒れ伏した。




