第二十八話 それでも、ここまで来たわけ
3日が経過した。ドゥナダンはまったく現れる気配を見せない。進むこともできず、ケーワイドたちは、トールクを中心にしてドゥナダン捜索を行おうと計画し始めた。重い空気が一同を襲う。
「アイレスは残った方がいい。崖を安全に下りるには平静さが必要だ」
「分かっていますけど、でも……!」
「私たちに任せておくのが一番だ。はっきり言おう、君の筋力じゃ足手まといだ」
トールクとセプルゴが行くことは決定したが、アイレスは「自分も行く」と言って聞かない。議論の応酬が続き、ケーワイドはため息をつきながら崖の様子を見に行った。
(フォアルの気配をかすかに感じるし、助けを求めている様子ではないから心配はなかろう。しかしフォアル以外の力、魔力だろうか、人ならぬ者の気配がフォアルの鼓動から感じられる。なんと伝えたら良いものだろうか……)
予想外のことが起こりそうで、ケーワイドは進退を決められずにいた。ユーフラもケーワイドの側に寄ってきた。
「ケーワイド、ドゥナダンたちは何に遭遇しているのでしょう?」
ユーフラは歯に衣を着せずにつぶやいた。
「お前という者は。アイレスに聞かれるでないぞ」
ふたりで崖を見つめていると、背後に強力な魔力を感じた。
「…来おるぞ。ぬかるなよ」
「はい」
師弟が立ち上がって大樹を背に身構えた。アイレスたちはそのただならぬ気配に気づいて同じ方を見た。いつか見た旋風が巻き起こり、眼前に8000人の白い人が表れた。皆一様に武器や農具を構え、ケーワイドたちを威嚇している。中心にいるフィレックが口を開いた。
「……『槍使い』はどうした?」
8人の一行の中に槍を使うのはドゥナダンしかいない。アイレスはファレスルの制止を振り切り叫んだ。
「どうしてドゥナダンのことを知っているの!?」
ケーワイドもアイレスを制しつつ問うた。
「ドゥナダンはここにはおらぬよ。お主らが襲ったのではないのか?」
「ぬけぬけと。あの『槍使い』を囮にして、我々に手ひどい魔法をかけたろう!? この者たちは3日も目覚めなかった」
引きしまった身体の27人の白い人は、青い顔をしながらもフィレックの側で武器を構えている。
「それはそうだろう。私と、私の一番弟子ユーフラの攻撃魔法をまともに食らったのだから。殺しはしなかったのだから感謝せい」
そのケーワイドの挑発に、白い人たちは歯ぎしりをした。それを見ながらケーワイドはさらに続ける。
「お主ら、やはり『心』が表れてきておるな? 日の差さぬあの地から出て、喜びや悲しみ、そして怒りを覚えたのではないか?」
白い人たちは動揺している。
「黙れ、ケーワイド!」
とフィレックは叫んだ。
「その『心』のない我々がなぜここにいるか、貴様らを追っているか、考えたことがあるか? いいか、私はな……」
車椅子に乗っているフィレックは自分の外套をめくりあげた。脚があるべき場所には何もなく、向こう側が見える。アイレスたちは息を飲んだ。
「な…、何? 脚が……」
フィレックには膝より下がなかった。枕のような物体が車椅子に乗っているように見え、異様な不気味さを放っていた。
「私はこの通り脚がない。フーレンも魔力があるが腕も『心』もない。それでもここまで来たわけを考えたことがあるか?」
さすがのケーワイドもたじろいだ。それを見るやフィレックが、
「『ワールディア』を我々の手に寄越せ!!」
と勢いよく叫び、白い人たちは一斉にケーワイドたちに向かってきた。




