第二十四話 襲撃
ドゥナダンは慣れた手つきで火打ち石を使い火をおこした。周囲に散乱している木々は濡れているので、背負ってきたなけなしの木炭に火を移し、携帯用の小鍋で湯を沸かした。椀に茶葉を入れ沸騰したての湯を注ぐ。あたりにかぐわしい芳香が漂ってきた。残った湯に布を浸し、手と顔を拭いた。フォアルにも湯を勧めたが、つれない様子で羽の手入れをしていた。ドゥナダンはクスリと笑い、充分に蒸らした茶を慎重に味わった。
「……あー、しみるなあ、しみる。フォアルは残念だな、熱いものを飲めなくて」
フォアルはそ知らぬ顔で、ファレスルの作った携行食をついばんでいる。すっかり雲は晴れ、東の空が暗くなってきた。嵐はあたりの雲を飲みこんで去っていったようだ。ひとつふたつと星の瞬きが見えてきた。
(火とは本当に温かいものだな。今夜は服を乾かしたいし、炭の火を消さずに寝よう。防壁魔法の中で火を焚いたら危ないけど、空気がうまく出入りするよう形状をどうにかできないものか)
「やっぱり魔法が使えないと無理かな、フォアル?」
フォアルはほのかに光る尾をなびかせ、「やってみろ」と言うかのようにドゥナダンを見た。それに促されてドゥナダンは小石を両手で包み、防壁魔法の形状を思い浮かべて念じてみた。するとフォアルはドゥナダンの両手に向かって一声鳴き、周囲をグルリと旋回した。その旋回した輪の通りの形に防壁魔法が現れた。上部は庇のついた天窓の形状になり、膝ぐらいの高さに何か所かの空気穴が開いていた。
「すごい! 思った通りの形だよ! フォアル、俺の念じていたことも分かるのか!?」
フォアルはドゥナダンの肩にとまってチチッと鳴いた。「当然だ」と言っているように聞こえた。ドゥナダンは炭火で携行食をあぶってほおばり、フォアルの尾をスルリとなでた。日が暮れた後も川の轟音はやまないが、夜空は澄みきっており穏やかな宵であった。ドゥナダンとフォアルが力を合わせて作り出した防壁魔法の天窓からは、温かな湯気の混じった煙が上がっていた。
翌朝、天気は快晴であった。ドゥナダンが外の空気を吸いたいと思った瞬間に防壁魔法は崩れるように消えた。ドゥナダンは小石の魔力の扱いに慣れてきたようだ。
「うわあー、気持ちいいな。フォアル、すごくいい天気だ! よし、顔を洗うかな。水を汲んでくるよ」
小鍋に布を張って、別の鍋で汲んだ川の水をろ過した。2杯目を汲んだ時、背後に人の気配を感じた。とっさに鍋を構えながら振り返ろうとした瞬間、ドゥナダンは後頭部を固い物で殴られた。
(あ、まずい、まともに食らった)
遠のいていく意識と裏腹に、不思議なぐらい状況を冷静に把握できる。自分を殴ったのは数名の白い人だと分かった。白い人はドゥナダンが腰に下げている小袋の中を確認し始め、
(そういうことか。しかし囮としては役に立ったな……)
ドゥナダンはそう思ったところで意識を失った。気絶したドゥナダンの小袋や懐を白い人は確認していく。
「おい、これだ!」
懐に隠されていた小石を見つけ、白い人は大声を上げた。フォアルはドゥナダンの荷物を見ていたが、その声に耳ざとく気づき即行で飛んできた。小石の包みを持っている白い人の手をめがけてまっすぐ滑空し、足で包みを取り上げた。
「なんだ、この鳥!」
「フーレン様の鳥の兄弟だ!」
「その石を寄越せ!」
白い人がフォアルに礫を投げつける。フォアルはそれを避けながら高く上がっていく。そして空をつんざく高い声で鳴いた。




