第二十一話 嵐
空を司る存在が怒っている。トールクたちは非常に激しい嵐に見舞われていた。
「本当にありがたい、防壁魔法は」
ユーフラの魔法でずぶ濡れにならずにすんでいるが、1歩も先には進めない。
「ケーワイドたちは大丈夫だろうけど、ドゥナダンが心配だな」
「雲はあの辺りで切れている。ここほどの勢いではないだろう」
「そうだといいですね」
風雨の音に混ざって周囲の木々が倒れる音がする。防壁魔法にありとあらゆる物がぶつかる。トールクたちは身の危険を感じ始めた。
「まずいな。橋は無事かな」
セプルゴの一声に、一同は顔色を変えた。
「ユーフラ、移動魔法は使える?」
「…得意じゃないわ。自分ひとりならどうにかなるけれど」
「少しでも小降りになったらなんとか橋まで行ってみよう」
しばらくして嵐が少し落ち着き、日が暮れかけていたが橋の近くまで急いだ。縄が1か所切れているが手持ちの縄で補強することで渡れそうであった。川は水かさを増し、凄まじい勢いで流れている。
「よし、また縄が弱らないうちに早く渡ろう」
「ユーフラ、先頭は私が行くから。君は2番目だ」
いまだ止まない強風にあおられ橋が大きくしなる。意を決したファレスルが先頭となり素早く渡る。すぐ足下から地鳴りのような音が響いてきた。
「なんだ? 橋は大丈夫か?」
「いや、妙な揺れはないから…」
「見て! 向こうの木!」
ユーフラが示す方を全員で見ると、橋の側の大木が折れて崖に向かって落下していった。途中の岩や木をなぎ倒して大きな塊となってゆっくり落ちていく。
「これは本当にドゥナダンの無事を祈るばかりだね」
「フォアルの意識は切迫していないかから大丈夫だと思うわ」
「離れてても分かるのか。無敵だな」
トールクは最後尾で注意深く渡りつつ、濁流に飲みこまれた木の様子を見つめていた。
「今日……、月はどこにある?」
木々を巻きこみ成長していく渦は流れにもみくちゃにされて散った。すぐに別のところで渦が発生する。流れているように見えて、バラバラになった木や草花は渦巻きながら停滞していた。
「月? 一の月は日の入りまで出てこないはずです。二の月は太陽のすぐそばに…、どちらにしろこの天気じゃ見えませんね」
「一の月は満月で、二の月は新月か」
「だいたいですけど」
ファレスルの予想を聞いて、ユーフラが何かに気づきトールクを振り返った。
「今日は大潮だ」
「ドゥナダンだけじゃありません。ケーワイドたちも危ないですよ」
4人は橋を無事に渡りきり、激しい流れをジッと見つめた。するとドッと堰を切ったように、川の下流から逆流してきた。嵐がもたらした上流からの流れとぶつかる。上下から荒れ狂った流れが押しよせ、その場で爆発したかのように激しく散った。雨は弱まっているが、水量は減りそうにない。何より潮は満ち始めたばかりなのだ。
「フォアルは何か助けを求めているか?」
「いいえ、安心しきった状態です。休める場所があったんじゃないかしら」
「そうだといいね」
「しかしケーワイドも案外抜けてるな。大潮なんて考えれば分かるのに船で行くとは」
師を悪く言われたにもかかわらずクスリとユーフラは落ち着いて笑った。
「潮汐を正確に計算するのは容易じゃないもの。ケーワイドものんきに休んでいるんじゃないかしら」
後から後から逆流してくる川の流れを見守りながら、トールクたちも休む場所を探し始めた。




