第二十話 大自然の恵みを享受すること
右手に広がる大草原の向こうから、雄大な父のような、柔和な母のような、様々な顔を持った太陽が昇ってきた。雲は光り輝き、その切れ目から光の帯がまっすぐ伸びている。草原を吹きぬける風は朝露を含んでおり、ほんの少し湿っていた。小鳥の鳴き声は夜明けを祝福しているかのようだ。白い人たちは日の光というものに慣れてきた。大きく息を吸う者、朝日を見つめる者、思い切り伸びをする者、皆が朝を満喫していた。
約8000人の白い人は険しい峡谷を前に立ち往生していた。ゾロゾロと大人数で崖を下りていくわけにはいかないゆ。
「本隊は下流へ向かい橋を渡ることとしよう。『ワールディア』を持つ『槍使い』は少数精鋭で追ってもらう。人選はすんでいるか?」
「はい。この者たちです」
フィレックの問いかけに、27人の青年が進み出た。他の白い人の例にもれず痩せているが、四肢には芯があり引きしまっている。
「皆、農家や土方の者です。身軽ですが武器の扱いには慣れていません」
全員の顔を一瞥し、フィレックは満足そうにうなずいた。
「問題ない。『槍使い』に追いつき、人数に物を言わせて『ワールディア』を手に入れればいいのだ。血を流す必要はない」
さらに27人の装備を確認していく。
「早く追いつくことが肝要だ。余計なものは本隊に預けていけ。武器もいらない」
「武器もですか?」
「……そうだ。置いていけ」
白い人たちは最近様子が変わってきた。みずみずしい植物、脂の乗った肉や魚、絶え間なく湧き出る泉の甘い水を、心ゆくまで味わうとき。厳しくも温かい太陽の光を浴びるとき。草のにおいを含む風を顔中に受けるとき。
まぶしさからくる頭痛やだるさ、そしてひどい日焼けはあるが、モクラス山脈の内側にいたら知ることのなかった大地の恵みを全身で知った。同時に恵みを受ける喜びを知り、受けられない悲しみや悔しさを知る。いずれ恵みを奪われる憎しみを知るだろう。
(ただただ無感情で私についてきたが、今となっては…)
フィレックは白い人たちをよく観察していた。
(しかし今も女子どもを大勢残してきている。彼らは悲しみも憎しみも知らないが、この大地も知らないのだ)
地面に直接腰を下ろして魔法で食料を口に運ぶフーレンを見る。フーレンの目は今も光を宿さない。
「さあ、崖を下りる者は準備が整い次第向かってくれ。いいな」
「はい」
27人の青年は履き物をきつくしめ、早速崖を下りていった。




