第十六話 ウェール村人の本領
淡い光をおびた長い尾と鶏冠をなびかせ、1羽の鳥が白い人の大群のところへ戻ってきた。フーレンがそれに気づいた。
「フェアレ」
その隣で車椅子に座したフィレックは右手を上げて鳥を迎えた。
「帰ってきたか。偵察ご苦労。ケーワイドたちはどうだった?」
フーレンは何かを念じている。しばらく目を閉じていたが、フェアレと呼ばれた鳥が鳴きやむと目を開けた。
「ケーワイドが槍使いに『ワールディア』を渡していた。そしてその槍使いは崖を単身で素手で降りる」
「フェアレはそう言っているのか? フーレン」
フーレンは無反応であった。信じるしかないだろう。
「そうか。隊を分けて、『ワールディア』を持つ者は目立たぬよう単身にし、もっとも危険な道を行かせるということか。姑息なまねを」
フィレックは顔を覆う布を直し、側に控える青年に告げた。
「このままではらちがあかない。ひとまず崖まで行き、そこからは少数精鋭でその『槍使い』を追うぞ。30人程度、身軽な者を選んでおけ」
「はい」
白い国にいたころはやせ細っていた鳥のフェアレも、脱出から後、豊富な木の実を食べて満足そうだ。とても元気よく飛び回り、機嫌良さげにフーレンに話しかけるように鳴いている。
ウェール村の男たちは昼夜を問わず脱出口の掘削を急いだ。翼の生えた女の防壁魔法に閉じこめられているという精神的な緊張は日を追うごとに増しており、一刻も早く外の世界に出たいという一心であった。
「もう少しだ! 土がゆるくなってきている!」
「よし、交代しよう。村長たちにも伝えておけ!」
ちょうどその時、村長と自警団長が揃って様子を見に来ていた。
「どうだ?」
「村長! まさにもうすぐ穴が貫通します」
村長たちは灯りを手に、完成間近となった新しい横穴の奥へ進んだ。
「よし、よし! 少し開いたぞ!」
「焦るな、くずれるぞ」
「ああ、村長! ちょうど穴が開きます」
「よし、見えた! 一気に掘れー!」
「やったあー!!」
人ひとりがやっと通る横穴が開き、男たちは抱き合いながら喜んでいる。村長は早速予定通り脱出の指示を出した。
「勝手な行動をとらぬよう、町内会長がよく把握すること。出発は明日の真昼。準備を急げ!」
「穴の補強も怠らぬようにな。頼むぞ」
屈強な男たちは誇らしげに胸を張り、さらなる作業にとりかかった。