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WORLDEAR  作者: ちひろ
第一章
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第十四話 フーレンの秘めたる事実

 一の月が沈み、半月に近づいている二の月が南中した。それを合図にフーレンは大きく翼を広げ小声で何かを唱え始めた。

「【ミイ、リグヨ、ミグロージマ】。【ジーリラトンツェ】。【トンヴェ、ソーマア】」

 その様子をフィレックは固唾を飲んで見守っている。誰より表情も感情も見られないフーレンだが、白い国で唯一の魔力持つ者として、今ではこの8000人がフーレンを頼みにしている。フーレンの身体を白い光が包む。風が巻き起こり、光は白い人全員を徐々に飲み込んでいった。

「【ヴォグンリ、オージマ】! 【チルソ】!」

 翼を一層広げ、空へ叫んだ次の瞬間、フィレックたち白い人たちはその場から姿を消した。うっかり誰かが落とした剣だけが、カラン、と音を立てて地面に転がった。

 移動魔法をかけられた瞬間から目的地に出現する間までのことは、まったく記憶に残らない。フィレックはいつだかフーレンに「移動魔法はどんな仕組みになっているのか?」と聞いたが、フーレンは何も知らず、「いつの間にかできるようになっていた」とだけ答えた。魔法使いはいかなる技術でもって魔法を駆使しているのか、フィレックの周りは誰も知らなかった。知ることに意味など見出していなかった。

「……ッッ! 着いたか!?」

 意識が戻ると目的地に着いている。指示通り、ケーワイドたちの前に一瞬にしてたどり着けた。

「…また来おったな」

 ケーワイドたちはすでに気配を察していたのか、防壁魔法で自らを覆っている。と思ったとたん、スルリとケーワイドだけ壁をすり抜けるようにこちらへ来た。何度目かの予想外の魔法を見せつけられ、ケーワイドの仲間たちは驚いている様子だ。

「フィレックと言ったな。私の魔法に恐れをなさんとは大した玉だのう。一体何が目的なのだ?」

 ケーワイドは突如出現した白い人たちに向かって一歩ずつ進みながら、全身から発する朽葉色の光を強めていった。

「目的を知る必要はない。『ワールディア』を寄越せばそれでいい」

 ザッと杖を構えたケーワイドは、ふとあることに気づいた。

「おや? そなたたち。ずいぶんと…、そう、明るい顔をしておるではないか」

 白い人たちは一様に動揺した。「明るい顔」とはどういうことか、と。動じなかったのはフィレックとフーレンだけだ。

「我々の心を乱すつもりか? いいから『ワールディア』を渡せ!」

 翼持つフーレンが猛然とケーワイドに向かってきた。表情は変えぬままだ。

「ケーワイド…!」

 防壁魔法に守られたままのユーフラが叫んだ。

 突進してきたフーレンをケーワイドは魔法で軽くいなすと、フーレンは翼を手のように自在に操り鋭い風を起こしてケーワイドを襲った。

「……? あの人…」

「どうした、アイレス?」

 フーレンの簡素な衣服の動きが不自然であるのが、アイレスの目に留まった。袖がヒラヒラとなびいている。

「ケーワイド! その人…、腕がない!」

 ケーワイドは刃のような風を跳び上がって避けつつ、アイレスに向かって、

「分かっておる」

 とうなずいた。ユーフラが、

「いいですから、前を見てください!」

 と叫ぶ。

「しかし『心』とな…。白い人の口からそのような単語が出てくるとは思わなんだ」

「黙れ! おとなしく『ワールディア』を寄越せ!!」

 フィレックのその一言を合図に、白い人たちは一斉にケーワイドに向かっていった。ユーフラたちは防壁魔法を力の限りたたき脱出しようとするが、ケーワイドの魔法の壁はビクともしない。ケーワイドは一歩も引かず杖で地面をドンッと突いた。

「【ローテ、ツォーレブ】! 【ダーピラローク】!」

 ケーワイドが呪文を叫ぶと、轟くような雷鳴が聞こえ、稲妻が落ちて地面が激しく揺れた。ドゥナダンに抱きしめられながらアイレスはケーワイドの魔法を見逃さなかった。大地に深く亀裂が走り、ケーワイドと白い人たちとの間に、かなりの幅の裂け目が現れたのだった。

「さあ、その裂け目を越えてこられるのは、その翼の御仁のみだな。弓も私の防壁魔法は破れんぞ。再度移動魔法を使う力は残っていまい?」

 フーレンはバサリと翼を羽ばたかせ再びケーワイドに向かってきた。

「フーレン、戻れ! 戻るんだ!!」

 フィレックの呼びかけに一瞬迷い、フーレンは裂け目を越えず白い人たちの方へ戻った。

「相手が悪い。策を練ろう」

 裂け目を越えてこないのを見るや、ケーワイドたちは素早く荷物をまとめて先を急いだ。

 アイレスたちは何度もケーワイドを尊敬の眼差しで称えたが、ユーフラはまた無茶をして、と不機嫌だ。小走りで駆けながらケーワイドは後ろを振り返り、

「白い人たちの目に光が宿ってきている」

 とつぶやいた。

「さて、これからどうするか…」

 ケーワイドのつぶやきは夜の闇に消えていった。

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