第十三話 白い人の変化
太陽とはこれほどにまぶしいものだったのか。
2日ほどゆっくり徒歩で進むことで、白い人たちの体調は徐々に安定してきた。頭痛は大分楽になり、太陽を見てもめまいが起こることが少なくなった。太陽の熱にも慣れ、冷や汗は治まってきている。しかし全身の皮膚の変調は日増しに進行していき、人によってはただれたり、かゆみを訴えたり、皮膚がむけてくるようになった。症状がひどい者は衣服から露出している部分に水ぶくれができた。
「これは日焼けというものなのではないか?」
重傷者の皮膚を見て、フィレックはつぶやいた。
「ひやけ…? なんですか、それは?」
周囲の白い人は誰もその症状のことを知らなかった。
「日焼けとは、皮膚が太陽に当たり軽度のやけどを起こす症状で……」
フィレックが説明をし始めると、興味を示す者がほとんどであった。光の宿らない白い人の瞳だが、よく観察するとフィレックの目を見て話をできる者が増えてきた。これでいい。白い国からの脱出の目的は『ワールディア』を手中に収めるだけでなく、ここにもあったのだ。フィレックが自分で車椅子の車輪を転がして移動しようとすると、近くにいる者が手を貸してくれた。
「ありがとう。助かる」
「いいえ。どちらへ?」
「フーレンのところへやってくれないか?」
思いやりの心も育ってきている。フィレックはそっと目を伏せ、モクラス山脈に閉じこめられていたころの白い国の人々を思い出していた。
「あそこだ。フーレン、調子はどうだ?」
背に翼のあるフーレンは誰よりも表情に乏しい。こちらを振り向きもしない。
「顔色は良くなりました。食事もとっています」
フーレンの隣に控えていた若者がそう伝えてくれた。
「そうか、良かった。フーレン、もう一度移動魔法を使えそうか? 大分遅れをとってしまった」
真っ白いフーレンの髪がバサバサと風になびく。手入れをまったくしていない髪だ。
「……今夜、一の月が沈んだら」
それだけ言い、フーレンは翼を広げはるか上空を目指して羽ばたいた。遠くを見渡し、再度フィレックたちのもとに降りてきた。
「全員行ける」
「…よし。では全員に、歩きながらでも移動魔法に備えるよう通達してくれ」
「はい」
フィレックは唇を噛み、
「フーレン、すまない」
とつぶやいた。
「村長、やりました。やはり防壁魔法は山の斜面にぶつかったところで途切れているようです」
ウェール村村長と自警団長と組合会議所長が今後の方針について話し合っていると、村役人が顔に笑みをたたえてやってきた。顔は泥だらけで、山や抜け穴のいたるところで村人と一緒に防壁魔法を調べていたことが分かる。
「そうか、よくやった」
「村の北の外れがちょうど山麓に隣り合っていて、農業組合の集会所があります。そこに人を集めて一気に脱出路を掘れればと考えております」
村長らはうなずき合い、若い役人たちの活躍を喜んだ。
「分かった。そちらは任せる。村中に『出発は近い』と知らせることも忘れないように。移動に介助が必要な者は町内会で支え合うよう気を配れ」
「はっ!」
バタバタと大きな足音をさせながら走っていくのが聞こえた。ケーワイドたちの出発から、村の者は皆心が休まる日がない。しかしここからが正念場だ。
「さあ、脱出してどうするか、でしたな?」
「白い人たちとケーワイドたちを追うしかないとは思うが、我々ではケーワイドらの足手まといになるのではないか?」
「しかし手をこまねくわけには…」
「背後から白い人たちを奇襲するのは?」
「いや、こちらは女子どもを合わせても3000人ほどだ……」
会合は今夜も長引きそうだ。村長らの妻たちも旅支度と女たちへの助言に忙しかった。