第百二十四話 啖呵
土玉がひとりでに転がっているというのにその場にフーレンはいない。
(やっぱりケーワイドとフーレンは……)
そうアイレスが思うのと同時に、その隣でファレスルも、
「ケーワイドは……」
とつぶやいた。声が震えていた。
「不思議な術を使うわね、大地の妖精を手懐けるとは。そちらには魔法使いがいるのかしら?」
大仰に髪をかきあげてラウダムスは言った。アイレスたち、白い人たち、どちらにも大切な仲間である魔法使いがいた。フィレックは右手で土の妖精を鎮め、沈痛な表情で目を伏せた。
「……魔法使い、か。私たちの仲間であったフーレンは死んだ。お前たちにも知らせておこう。ケーワイドも、フーレンと共に黒こげになって焼け死んだ」
覚悟はしていた。しかし実際にそう聞くと、喉の奥から痛く切ない塊がこみ上げてくる。アイレスはファレスルの外套をギュッと握りしめ、泣き叫びそうになるのを耐えた。ファレスルもそっとアイレスの手に触れた。ファレスルの歯ぎしりが聞こえる。
「…そうか」
とトールクも暗い声で言った。温かさを増していく朝の日ざしとは裏腹に、一同の心に冷たく乾いた風が吹き抜けたように感じた。フーッ、と一息深呼吸し、フィレックは車椅子に乗ったまま胸を張った。
「いかにも、私たちはかのモクラス山脈に閉じ込められていた民族だ。『ワールディア』をこの手に収めることを目的に、ケーワイドたちを追ってきた。ラウダムス殿、貴殿がお持ちのその石を渡していただきたい」
まったく言いよどむことなく決然と要求した。
「あなた、名は?」
「サブラ・フィレック」
ラウダムスの背後から重苦しい空気が迫ってきている。フワリと髪がなびき、そのまま空中に停滞した。明るくなっていく時間だが、ラウダムスから濃厚な闇が這い出してきているように見えた。
「フィレック。この石がなんだか知っているの?」
「………」
フィレックは答えない。アイレスたちもデ・エカルテの門番も、目に見えないラウダムスの渦のような雰囲気をジワジワと感じていた。
「『ワールディア』を手にしようと考えるだなんてね。まったく気が知れないわ。このデ・エカルテの長たるわたしでも身に余る力を、このちっぽけな石は秘めているのよ」
「分かっている。それほど大それた望みあってのことではないのだ。この星、生きとし生けるもの、すべてに悪いようにはしない」
「そんなことを言っているのじゃあないわ」
ラウダムスの目が鈍く光る。
「あなたにこれが扱えるか? と聞いているのよ。わたし以上の力をあなたが持っていると言うの?」
「……どういう意味か…?」
不思議なことに、フィレックはひるまない。
「【メムヌーコ、ニン】。身の程を知るが良い。ただの人には扱えぬものよ」
両者一歩も引かない。アイレスは一筋の汗が背筋を走るのを感じた。