第百十六話 デ・エカルテへ
雑木林を進むたび、タウロン村以上の何かが空気や大地を満たしていることをアイレスたちは感じていた。歩を進めるたびに、全身に重苦しい力がまとわりついてくる。無風で、虫の鳴き声ひとつ聞こえない。
「この雰囲気、何だろうね」
ポルテットが興味深げにたずねたが、皆抗いがたい力に耐えて無心に足を動かし続けた。
デ・エカルテはもうすぐそこだ。
この星、ワールディアの魔力の中心。
住人の半分が魔法使いである土地。
10万年もの長い間、小さな『ワールディア』を封じ込めていた場所。
そしてこれからも『ワールディア』を封印するに相応しい場所。
数奇な偶然によってウェール村に飛んできた『ワールディア』を封印するために、ケーワイド、トールク、セプルゴ、ユーフラ、ファレスル、ドゥナダン、ポルテット、そしてアイレスが目指してきた場所。
その旅の終着点。
「林が終わるね」
「いよいよだ」
すでに日は傾いていた。
「崖になってる! 気をつけろよ」
林の先は切り立った崖で、デ・エカルテを見渡すことができた。正面にそびえるキリ山の麓には森があり、その周りに草原が広がっていて木が点々と立っていた。森と草原の境目に屋敷が見える。
「どう降りたものかな」
「こっちの斜面はわりと緩やかですね」
「すべって降りよう」
どうにか降り、草原にたどりつく。日が暮れかかっており、空は燃えるような茜色に染まっていった。崖の上からは分からなかったが、草も木の葉も黄金色に輝いていた。キリ山から降り続く火山灰が積もっているのだ。大地も輝いて見える。
「ここが…」
「すごいな。信じられない」
息を吸うことすら忘れ、アイレスたちはただデ・エカルテの広大な地を眺めていた。なぜか目頭が熱くなってくる。
「足踏みしている余裕はないぞ。行こうか」
「自分で歩いてもいいですか?」
「あ、僕も」
セプルゴもポルテットも自分の足で歩きたがった。自らの足で踏みしめて歩かないといけない気がしたのだ。
「無茶はするな。肩はいつでも貸す」
「荷物は私が持つよ」
5人は手に手をとって、夕闇のせまるデ・エカルテの草原を進んだ。5つの長い影がゆっくりと夜の帳にとけていった。
(第二章 完)




