第十一話 真っ白な白い人たち
目が覚めると、すでに日は沈んでいた。
フィレックは気を失う直前のことを徐々に思い出してきた。翼持つフーレンが自分たち大群に追いついてきて、彼女の体力・魔力の回復を待ち、フーレンの移動魔法でもってケーワイドたちを追ったのだった。そこから今までの記憶が曖昧だ。
「……皆、目覚めているか? 今は…」
星の位置からすると、今はケーワイドたちを追ってフーレンの魔法で移動した日の宵だ。なぜこんなに時間が経っている? なぜ気を失っていた?
「フィレック様、ほとんどの者は目覚めていますが、ケーワイドの魔法の衝撃か、体調を崩している者が大半です」
側に控えた青年が告げてきた。そうだ、思い出してきた。8000人の大群で挑んだにも関わらず、ケーワイドにあっさり返り討ちにされたのだった。あれほどの上空から落下したはずだというのに気を失うだけですんでおり、身体には打ち身ひとつない。しかし確かに全身がだるく、冷や汗が出る。身体中がヒリヒリするし、目の奥に石が入っているかのような重みを感じる。
「フーレンはどこにいる?」
「あちらに」
青年に車椅子を押してもらい、フーレンのところへ様子を見に来た。普段と変らず虚空を見つめている。灯りを掲げてよく見ると、顔色は悪かった。
「フーレン、大丈夫か?」
反応はない。これは再度魔力が回復するのには時間がかかりそうだ。
「しばらくは徒歩で追うしかないな」
「この人数では小回りがききません。少人数のケーワイドらに遅れをとるでしょう」
「仕方がない。フーレンの回復を待つしか」
それにしてもこのような頭痛は初めてだ。心なしか息も苦しいような気がする。周囲の誰に聞いても同じような症状を訴えている。これはケーワイドの魔法なのだろうか? そういぶかしみながら、フィレックたちは毛布にくるまり横になって夜明けを待った。
自分たちはすべてが真っ白だ。感情もなく、意思もなく、願望もない。ここまで来ることができたのは奇跡だ。色彩豊かなこの地にいるのは奇跡だ。この奇跡を何に感謝しよう。しかし我々はここに留まっていてはいけない。あの地にいる万の人たちのため、そして……。