異世界奇譚『スライム・ゼロ』 最終話「カラフルな旅立ち」
こうして俺たちの冒険は終わりを告げた。
奥義、『蒼玉砕ブルー・マイン』によって体の半分を失ったが、三分の二以上の損害を被らなければ回復は可能だ。こうして俺は六時間で完全に復活を遂げた。
「いやぁ、助かったよ、ゼロ」
「あれで助からなかったら物語が台無しだ」
ここで二つの疑問を解消しておこう。
まず、なぜ料理人は俺に向かってきたのか。それはあれが本当の『オーク』だったからだ。おかげで半分死にかけた。しかし、そのおかげで『オーク』ですら倒せた自分に惚れ惚れする。もう一つ、『肉』しか興味のない『オーク』は単にグリーンの擬態であったピーマンには興味がなく、食材にされなかったわけだ。いずれにしてもあの『オーク』は同族を喰っていたばかりか、人間に調教されていたとは。由々しき事態だ。魔王様の世もそろそろ終わりかもしれない。
「あ、今のはオフレコで!」
「ゼロ、誰に向かっているってるの?」
はっ!? 思わず口から出てしまったか。今後は気を付けないと。
それより、これからどうするか、だ。
「それで、みんなはこれからどうするつもりなんだ?」
「私たちは一緒に旅をしていたから、今度は南の暖かい場所に行こうと思って」
南、か。暑そうだ。もしかするとスライムが蒸発する……なんてこともあるのか? いやいや、そうじゃなくて南といえば――。
もちろん、『海』
海といえば、白い砂浜、青い空、凪ぐ海、パラソルの付いたカクテル――そしていい女!
うむ。これは間違いない。この四匹についてけばいいことがあるかもしれない。今回のようなことはゴメンだが、ここまで助けたんだから『一緒に行く』と言っても拒むことはないはず。
「それなら、俺も一緒に行ってやってもいいぜ?」
しかし、返事はない。
「あ、あれ!?」
おい。なんでもういないんだよ! あの連中! もしかして俺は奴らにいいように使われたのか!?
(もしかしてもじゃなくて、使われただけだ)
自分の心の中にまで言われたぞ、今。
挨拶もなしに行くとは……。こう振り返ったらピンクが戻ってきたりとか……。
「しないな……」
俺の目から、小さなスライム……じゃなくて涙が落ちた。
「まぁ、いいさ。俺は俺なりの方法でやってやるぞ!」
俺は大きくジャンプすると、見知らぬ土地を目指して進む。夢を叶えてみせる。そう決心して。
この後『ゼロ』を知る者は誰もいない。
彼はその後どうなったのか、あの四匹と再会できたのか。それはまた別の物語である。