異世界奇譚『スライム・ゼロ』 第四話「レッドな胸騒ぎ」
俺とピンク、グリーンは連れだってレッドが捕まっているという屋敷の潜入にすんなりと成功した。
「レッドが捕まっているのは、あの部屋のようです」
「おい、あの部屋って……」
部屋には小さなプレートが掛けられている。
『趣味の肉部屋』
おい、そのレッドとやらは本当に大丈夫なのか? もうスライムとしての状態を保っていないんじゃないのかよ。そんな不安をよそに、俺たち三匹はこっそりと部屋に入る。
部屋の中は、満員電車のように肉が所狭しと並べられ、天井から吊り下げられている。
「これは……レッド!!?」
ピンクが小さく悲鳴を上げた。
「い、いや……これはただの肉だ。でも、何だか普通の肉と雰囲気が違う感じがするなぁ、どこか俺たちと同じ匂いがする」
その直感は当たっていた。肉を調べていたグリーンが驚いた表情で言った。
「この肉はすべて、魔物の肉みたいだ」
「なんだって!!」
そういえば、聞いたことがある。人間の中には『美食家』とかいう人種がいて珍しい食材を集めさせては料理して食すらしい。この街の町長もどうやらそういう類の人種らしい。だとすれば……レッドが捕まったのも納得がいく。俺たちスライムは小さいが素早く、どこかのファンタジーよりもずっと高度な頭脳を持ち合わせている。スライム族の中には魔王の側近として手腕を振るっている者もいるのだ。それに、レッドは希少種だ。
「グリーン、まだレッドは見つからないの!?」
「だめだ、こっちにはいない。一体、どこにいるんだ」
嫌な予感がするぞ。まさに俺の顔が真っ青になるくらいな感じがする。よく考えてみろ。レッドが捕まったということは、逃げたグリーンやイエロー、ピンクのことも知っていたということだ。だとしたら、すんなりと屋敷に入れたことも説明がつく。これは――罠だ!
「みんな、ここから早く出るんだ!!」
「ゼロ、どうしたの!?」
「これは俺たちをここにおびき出して一網打尽にしようとする罠だったんだ。急がないと捕まってしまうぞ!」
「このグリーン、失念していた。私とイエローを追いかけてきたのは、白い服を着た料理人だった。手には大きな肉切り包丁を持って……」
肝心なことを言い忘れたな、グリーン。
「ね、ねぇ、グリーンが見たのってあの人?」
俺とグリーンが振り向いた先にはレッドを縄に縛り、持ち上げている『オーク』似の料理人が扉の前に立ちはだかっていた。
「に、逃げるんだ!!」
いや、逃げられないだろ、レッドよ。