異世界奇譚『スライム・ゼロ』 第二話「黄色い果実は苦い味」
俺とピンクは街の近くまでやってきた。
「それで、これからどうするんだ?」
「一度、ここから入ったんです。この下水道を通れば街の教会近くに出られるはずです」
いや、この下水道って……ちょっと匂うぞ。しかも、かなり狭い。俺は、大丈夫か? 最近、ちょっと太ったからなぁ。
「さぁ、いきますよ~」
ピンク、嬉しそうだな。やっぱり世の中は女が強いな。いやいや。ここは俺が男を見せてピンクも、世のスライムたちも振り向かせてみせるぞ!
そう意気込んだ俺はさっそく下水道のふちに顔をぶつけ、ぐにゃぐにゃになってしまった顔を形状記憶の秘術で修復すると、ピンクとともに下水道を進む。
「何も、ないな」
「そう、ですね」
薄暗い下水道だ。何かモンスターでも出るんじゃないか、もしそうなら一戦交えなければならないな、などと考えていたが、俺たちもモンスターだったと思い出した。
「ずいぶんとあっけなく街に潜入できたな」
「まぁ、あの狭さでは人間の子供でも無理でしょうしね。スライムの特権でしょうか」
それは違うだろう。単に誰もあんなところに行きたくないだけだ。そう一人でツッコミを入れながら、教会の傍にある大きな木の下で休憩を取る。
「さすがに緊張するな」
「そうですね。言ってみれば敵地ですからね~」
なんでピンクは嬉しそうなんだ? まさか、こういうプレイが好きなんだろうか……破廉恥な。
「しかし、喉が渇いた……」
俺たちスライムは身体の六十パーセントが水分でできている。だから適度に水分を取らないとしぼんでしまうだけじゃなく、熱を持って最後には動けなくなることもある。
「おっ! この木、実が生ってるじゃん♪ ここからならジャンプで採れそうだ」
俺は渾身の力で木の実に向かってジャンプした。スライムらしからぬ大きな口と虫歯のない白い歯がその実を捉える。
――ガブリ。
その瞬間。俺の口の中に何とも言えない苦味と、滴り落ちる体液とで身動きが出来なくなり、そのまま下まで落下する。
「な、なんなんだ! この実は」
「もしかして……い、イエローッ!!!」
イエロー、だと!?
そんなばかな。俺が口にした果実は同じスライムだったというのか。もしそうだとすれば下手をすれば同族殺しの汚名を着せられることになってしまう!
「しっかりしろ! イエロー!! 今、俺の水分をくれてやるからな」
「あ、ありがとう」
凄まじい吸引力で水分を奪われていく『俺』。落ち着いた時にはしぼんだゴム風船のようになっていた。