異世界奇譚『スライム・ゼロ』 第一話「それはピンクな衝撃」
森の陰に潜む俺は、街に入っていく兵隊たちを眺めていた。かなりの人数が集結しているようだったが、所詮は人間たちだ。俺たち魔物に敵うはずがないのだ。
「ふっ、そんなに数をそろえても、所詮は烏合の衆よ」
一人、優越感に浸っていると、後ろから急に引っ張られて俺は豪快に転んだ。
「おい、なにやってるんだ!」
「それはこっちのセリフです。あなたは死にたいんですか!?」
そこにいたのは同じスライム族の少女だった。ちなみに色は『ピンク』
スライム族はその特性によって色分けされる。リーダー気質の『赤』、紅一点の『ピンク』、正義感の厚い『イエロー』、冷静沈着な『グリーン』そして、無害な『ブルー』ちなみに俺は……。
『ブルー』
いわゆる、何でもできる万能汎用型といったところだ。
さて、話がそれたが……。
「人間たち相手にビビッてるのか? 情けない」
「……あなた、どこから来たんです? どうせワンダーランドの東あたりからでしょ」
なに!? なぜ、この娘は俺の出身を知っているんだ!?
「ふん。別に関係ないさ。それよりどういうことなんだ?」
「実は、先週、勇者って名乗る人間が現れたの」
「勇者? この世界にはいないはずじゃないのか? 設定にもそう書いてある」
「そうなんだけど、作者が心変わりしたらしくて……」
なんと……。俺たちスライム族、ひいては魔物たちを主人公にしたストーリーを書きたくて俺たちが生まれたと創世記には記されている。これからが魔王軍の本領発揮だというのに!!
「とにかく、その勇者ってのが魔物と効率よく戦う方法を教えたらしくて、この地方では急に人間たちが勢力を盛り返しているの」
(くっ……これじゃ、俺の花嫁探しどころじゃないな)
「それなら仕方がない。俺はもう行くよ」
「そう、ね。でも待って!! お願いがあるの」
なんだ? まさか! この娘は俺に惚れたんじゃないのだろうか。ふふ。ついに俺にも春が来たか? 一目惚れってやつかもしれない。「このまま一緒に!」とか。
「なんだ、一緒に行ってほしいのかい? 俺なら大歓迎だよピンク!」
「ほ、本当!?」
「ああ、話が早い。すぐに出発しようか」
「ちゃんと準備したほうがいいかも。だってあの街に行かないといけないし。何も言ってないのにさすがの読みです!」
「は?」
「だって、街の人間に捕まったレッドを助けてくれるんですよね?」
「は? はい?」
「やっぱり空気を読めるスライムっていいですね」
俺の頭の中は一瞬で真っ白になった。