プロローグ「ゼロは青の響き」
『スライム・ゼロ』の冒険を描く連載です。
プロローグから是非、お読みください。
涼やかな風が草原を吹き抜けていく、そこに俺は立っていた。いや、正確には『立っているかどうか』はわからない。なんせ、スライムなのだから。
ここでひとつ、自己紹介といこうか。
『ゼロ』
これが俺の名前だ。人間どもには俺たちの言語は理解できないが、仲間内では「スライム・ゼロ」と呼ばれている。あくまでも名前であって、取得できる経験値がゼロということではない。誤解がないように。
さて。まずはこのややこしい世界について少し解説することにしよう。
『ワンダーランド』
ふざけた名前だが残念なことにこれがこの世界の名前だ。しかも更に残念なことに夢と希望に満ち溢れた世界じゃなく現在のところ、『魔王軍』が世界を絶賛侵略中。ちなみに『勇者』と呼ばれる人間の話は聞いたことがない。それどころか、世界の三分の二は魔王様の手に落ちつつある。
そんな世界で魔物がすることは一つ、上司の命令に従って人間どもを恐怖のどん底に陥れ、『闇の力』を増幅、それを魔王様に献上する。すると、その量に応じて褒美がもらえるという仕組みだ。そして、その底辺に君臨しているのが我らが『スライム族』なのだ。
そもそも、スライム族は魔王様が最初にお作りになった魔法生物であり、由緒正しきファースト・モンスターなのだ。まぁ、実際、失敗作だと後々になって魔王様が記者会見でお答えになっていたのを聞いた時はショックを隠し切れなかったが。
もう一つ大切なことは、スライムは『進化しない』ということだ。つまり、レベルは1のまま、倒しても手に入れられる経験値とやらも常に1。
人間たちは我々、魔物を恐れている。
たかが俺たちスライムを見ただけで大男が逃げ出し、騎士でさえも腰を抜かす。ここはそんな世界だ。そのおかげで俺たちは比較的楽に旅をすることができた。
「そして、俺は決めたんだ」
俺は叫ぶ。そう。故郷を捨ててまで俺が旅をする理由。それは……。
「花嫁を探すのだ!! 美女なスライム! ボインなスライム!」
世界よ待っていろ。
このスライム・ゼロが世界一の花嫁を探し出して戻ってくる。その時こそきっと世界に変革が訪れるのではないかと、俺は勝手に思っているのだ。
草原に再び風が吹き抜けていく。目の前には人間たちの町が見えている。聞いた話では近々、魔物たちが町を襲うという。そこにはスライムもいるに違いない。まさに合コン……いや、運命の出会いが待っている。
俺は高らかにジャンプし街へと急いで行った。
いかがでしたでしょうか。
少しアクの強い作品ですが、よろしくお願いいたします。
※短編をまとめました。