第一話:放浪のお騒がせ銃使い
不定期でのせようと思っている作品です!
よろしければ読んでいってください!
本作品の「優しい魔王の疲れる日々」もよろしくお願いします!
「人は乗り越えるという事が出来る生き物だ
それが人の素敵な事であり最も素晴らしいことだと思う」
それがいつも、父が自分を説教するとき言う決まり文句のようなものだった。
未だにその意味は余り理解できていない。
そしてきっとこれからも理解することはできないだろう
なぜかって?父はもうこの世にいないのだから
荒野にただひっそりと一軒だけある寂れたバー。
辺りには砂塵が舞っていて視界はとても悪く、その寂れたバーを直視することは難しい。
そこにはバー以外に目立つ建物は無く、辺りにはサボテンしかない。
ただそのバーの外には馬が一匹、看板に繋ぎとめられていた。
「なんだと!?ビールが一杯十ドルだぁ!?
ぼったくりなんじゃねぇのかぁっ!?」
一人の青年だろうか?しかし青年とたとえるには背丈が高い男が大きな声をあげながら椅子を蹴り飛ばす。
ただ酒を飲んでいた客はびっくりして酒を零してしまっている。そんな客もいれば全く、その男の行動に動じない者もいる。
「あんた、よっぽど世間知らずときた
あんたの出身のとこじゃあ安いかもしれねぇがここじゃあビールは一杯十ドルって決まってんだ
これはルールなんだよ。お坊ちゃん」
バーのマスターらしき黒服の首元に蝶ネクタイをした男が青年に注意を促す。
青年は男の注意は聞かずにたったの三ドルだけカウンターに置いてその場を去ろうとした。
「おい。舐めた真似しねぇほうがいいぞ?お坊ちゃん」
男はカウンターの内側から青年に悟られないように拳銃を取り出し、青年に突き付けた。
しかし、銃を出されても青年はまるで男を無視するかの様に店を出ようと入口まで黙々と歩き続ける。
「てめぇ・・・もう許さねぇ!!!!生意気してんじゃねぇぞ!このクソガキぁ!」
男が銃の引き金を引いたときだった。
銃声とともに男の手から拳銃は無くなっていて辺りを見回しても拳銃は男の近くには無い。
「俺はクソガキじゃない。もう二十越えてんだぜ?
俺の名はアルニーニョ、アンベスニア・アルニーニョ」
そう言ってアルニーニョは自分の拳銃を腰に携えているホルスターにしまった。
「お代は確か二ドルだったっけか?」
アルニーニョがカウンターに乗り上げながら腰の砕けてしまった男に問いかける。
男は言葉を発する事もできずにいるがアルニーニョの質問に男は縦に首振りその砕けた腰を精いっぱいに動かし言葉の無い謝罪をした。
「そうかありがとうな。また来るぜ
でも次もまたビール代が十ドルだったら・・・わかってるな・・・?」
アルニーニョはそう言って店を出た。
「金がいい具合に浮いたな、ニシシシシ!さてと・・・我が愛馬シルバート!
ウィリアムス銃作所までもう一っ走りだ!行くぜぇっ!」
アルニーニョの掛け声とともにシルバートは体を大きく反らせて一度、土に蹄鉄の後をつけて砂塵の中を走り出した。
ーーーー荒野ーーーー
「しかし、冷えるなぁ凍え死にしちまいそうだぜ・・・
全くついてねぇなぁ畜生、すまねぇなシルバートこんな寒い中、お前を走らせたくないんだがな・・・」
アルニーニョがそう呟きながらシルバートを荒野の中走らせていると突然、銃声が辺りに鳴り響いた。
「四、五発か・・・?まぁいい・・・」
銃声がしたにも関わらず、シルバートを止めないアルニーニョ、すると先ほどに銃声からそう経ってないうちに第二の銃声、そして銃弾がシルバートの足をかすめた。
「大丈夫かシルバート?もう少しの辛抱だ。
もうすぐウィリアムス銃造所に着くからもう少しの辛抱だ」
「危ない!」
アルニーニョがシルバートの速度を上げようと手綱を持った時だった。
いきなりアルニーニョの前方から一人の青年が飛び込んできた。
突然の事に驚き、アルニーニョはシルバートの手綱を引っ張り無理やりにでも止めさせる。
「こんな時間に何をやってるんだ君は!殺されるぞ!」
アルニーニョとシルバートを止めた青年は酷く汗を掻いていた。
身の丈はあまり高くはなく、アルニーニョと同じくらいできっと歳も同じぐらいだろうとアルニーニョは確信していた。
「ご忠告どうもありがとう。だが俺は非常に急いでいるんだが?」
「どこに行くつもりなんだい?」
青年がアルニーニョに問いかける。
アルニーニョはめんどくせぇと心の中で思いながら青年の問いに答えた。
「ウィリアムス銃造所に行くつもりなんだ。それよりも今、俺はスナイパーかなんかに狙われてる。
一般人のお前がいるからかいきなり銃声がしなくなった。
とてもそれには感謝したいところだが今、本当に忙しいんだ。
頼むそこをどいてほしい」
アルニーニョがそう言うと青年は俯きざまに口を開いた。
「僕だ・・・」
「ん?」
砂塵と強風が視界と聴覚を遮る中、青年の小言を聞き逃さなかったアルニーニョが青年の言葉に耳を傾けた。
「僕がウィリアムス銃造所の主だ・・・」
「なんで!?お前が!?それならそうと言ってくれよ!
なんだ。焦ったぜぇっ・・・んで!銃造所はどこにあるんだ!?」
青年が視線を自分の背後に向ける。
しかし青年の後ろには銃造所と言える建物はそこには無かった。
残っているのは炭にしか見えない僅かな建物らしき面影、アルニーニョは言葉を失った。
「嘘・・・だろ・・・?」
「つい先日・・・暴発事故でウィリアムス銃造所は閉店したんだっ・・・
僕は・・・ここの跡取り息子、イーサン・ウィリアムスだ・・・」
イーサンは涙ぐんで答えた。
アルニーニョは青年を胸倉を掴むと顔を近づけた。
「なんでだ!俺は銃の修理を依頼しに来たんだっ!
銃を扱う事のプロフェッショナルの銃造師が暴発事故で死んだ!?
ふざけるな!俺は認めないぞ!この銃を直せるのはマイク・ウィリアムスしかいないんだぞ!?」
そう叫んでアルニーニョは自分のホルスターから自分の拳銃をイーサンに突き付けた。
手入れされている漆黒の拳銃、その拳銃には傷一つ、埃一つすらなかった。
黒光りして、見事なばかりの光沢を放ち、月明かりを照らす光の様だった。
「これは・・・間違いなく父が作った銃だ・・・でもこの銃をどうして君が」
「理由はどうでもいいだろう!この銃を直せる職人はもう死んじまった・・・
もう人生が終わったも一緒だ・・・」
アルニーニョが半分諦め落ち込んでいるときだった。
イーサンが銃の修理を始めたのだ。
「おいおいおいおいおいおいおいおい!俺の銃に素手で触るんじゃねぇ!
お前は確かにマイク・ウィリアムスの息子かもしれない!
でも無理だ!腕利きの銃造職人でも直せない拳銃だぞ!?
お前みたいな青二才に直せるわけが・・・」
「これでよし、応急処置だからあまり無理させないほうがいい
それでも一発ずつだけど撃てるようにはなったはずだ」
アルニーニョが試しに自分の愛馬を撃った人間がいるであろう茂みに向かって一発、銃弾をお見舞いした。
すると茂みからうめき声を上げて大柄な男が茂みから出てきたのである。
アルニーニョは驚愕していた。
酒場で男を脅した時はたまたま銃の調子が良く当たっただけだったのだ。
イーサンに修理させた銃は銃弾の軌道、スピード共に本来の物を取り戻していたのだ。
「すげぇ・・・十二分に力を発揮してやがる・・・」
「これぐらいしか出来ないけどね・・・
父ならもっと早く・・・そしてこれよりもよく直せる・・・」
落ち込んで座り込むイーサンを見てアルニーニョはイーサンの隣に腰かけた。
「なぁ青二才銃造職人、俺と一緒に旅をしないか?」
アルニーニョの問いかけにイーサンは戸惑いながらも一度だけ首を横に振った
「なんでだ!?お前は確かに青二才かもしれないが才能がある!
俺はたった今だけかもしれないがお前の銃の直し方をみてこいつは伸びると思った」
「君の誘いは嬉しいが僕にもやらなきゃいけない事があるんだ・・・
父が今まで作った最高の銃を十二本、たった十二本だけど探さないといけないんだ」
「奇遇だな
俺も十二本、銃を集めているんだ
それもマイク・ウィリアムスが作った。たった十二本しかない銃をな」
アルニーニョはそれ以上は何も言わずにイーサンに向かって手を差し伸べた。
イーサンは何も言わずにその手を取るとホルスターから自分の拳銃を取り出し、アルニーニョに向けて引き金を引いた。
銃声とともにアルニーニョの背後にある岩陰に隠れている男の眉間をイーサンの弾丸は正確に打ち抜いていた。
しかし一瞬だけ見た時、ふと疑問に思った事があったのでアルニーニョはイーサンが打ち抜いた男の安否を確認しに行った。
撃ち終わったイーサンは銃の手入れをしてホルスターに銃をしまっていた。
「なんなんだ・・・?この弾痕は?」
男の眉間にはまるでそこだけ打ち抜かれたのだろうか小さい穴が空けられている。
体のいたるところを確認してみても眉間以外に外傷はない。
銃で撃たれたのなら最低でも十mm以上の弾痕は空くはずあんなきれいな空洞が出来るはずがない。とアルニーニョは思っていた。
考えながらアルニーニョはふと男の足元に何かが落ちているのに気付く、
「これは・・・!?シャープペンの芯!?」
絶妙な力加減で丁寧にそのシャープペンの芯のような物を取る。
折ってみようと試みるアルニーニョであったが全く折れる気配がない。
近くの岩にシャープ芯を押し付けるとその岩にはシャープペン独特の細い線が描かれる。
愕然としているアルニーニョを見かねてイーサンが立ち上がった。
「シャープ芯弾」
「シャープ芯弾だぁ!?」
大声をあげながらイーサンに近寄るアルニーニョ、するとホルスターから自分の拳銃を取り出しイーサンに突き付けた。
「おかしいだろう!
俺のでもこんなに大きい銃口なんだぜ!?
それをシャープ芯の様に細い銃弾で攻撃だなんて・・・馬鹿げてやがる・・・」
「僕の父が・・・僕に残してくれた銃なんだ・・・」
銃をまるでペットを撫でるかのように優しく擦るそれを見てアルニーニョは大声を出すのをやめた。
「君と旅をしたいと思う
立派な銃使いには立派な銃造職人が必要だろう?」
「まぁ目的は一緒だしな!
きっと不幸な事故と言われたのもお前を見てお前の親父がそんなミスを犯したと思えない
なんか裏がある気がする
それもついでに解決していこうぜ」
シルバートに跨ってアルニーニョが座り込んでいるイーサンの上から再び手を差し出した。
「そうだね。ここでくよくよしてるのも時間の問題かもしれない
君と一緒に居れば何か解決できそうというかなんというか・・・
この銃造職人、イーサン・ウィリアムスが君の専属銃造職人になるよ」
「おう!頼んだぜ」
こうして僕とアルニーニョの銃探しの旅が始まった。
父の言葉はまだ理解できぬまま。
アルニーニョの愛馬、シルバートに括り付けたリアカーに乗ってゆっくりと前進しながら
年が明けてしまった・・・
こっちに集中してる場合じゃないッ!!!!!