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01 : これまでのわたしは。





 幼育舎は七歳から入り、幅広い基礎を五年間自由に学ぶ。幼育舎を卒業したあとは、士官学舎か、あるいは教養学舎に進むことになる。仕官学舎の教育期間は個々の能力に合わせられるが、最短で四年、最長でも十年だ。教養学舎にはそういう融通のある期間はなく、どんな学生であれ四年後には卒業となり、将来を見据えた職業について学ぶ。

 ユサは幼育舎を卒業後、本来であれば一般的な教養学舎に進むはずであったが、学業の優秀さを認められて仕官学舎へと進んだ。金銭面の問題は、在籍期間中上位五位中に入っていることを条件に、半額免除にしてもらった。その条件のおかげで仕官学舎に進めたのだ。だからユサは、役所で働いていたときもそうであったが、仕官学舎にいた間も必死になって勉強し、常に上位の成績を修め、四年で卒業すると都心の役所、本来なら貴族氏族しか働くことができないところに就職することができた。


 わたしのこれまではなんだったのだろう、と役所を辞めた当初はよく思った。

 けれども、限界だったのも確かで、祖父に「おかえり」と言われたときは大いに泣いた。「ごめんなさい」とたくさん謝った。祖父は笑って「いいんだよ」と慰めてくれた。

 本当にあれは、救われた。


「おお、シュウに逢ったのか。なんだ、しばらくわしは逢っとらんかったが、元気だったんだな」

「元気? 元気……うん、たぶん。そんなに会話してないけど、顔色が悪いようには見えなかったよ」

「いやいや、ほれ、あいつは薬師だろ。薬草探しにふらつくもんで、たまに遭難しとることがあるんだ」

「えっ? そ、それ薬師としてだいじょうぶなの?」

「イースが見つけてくるから心配いらん」

「あ……さすがだね、イース」

「最近は見かけんもんだから、そろそろイースに捜してもらうかと思っとったところだが、だいじょうぶそうだな」

「ねえそれ本当にだいじょうぶ?」

「イースがおる限りはな」


 祖父セイドが薬師シュウと出逢ったのは、イースを拾ってまもなくのことだったそうで、山菜獲りに山へ出かけたところで遭難していたシュウを見つけ、怪我をしていたので連れて帰って手当てしたことから、交流が始まったらしい。


「って、あれ? イースを拾ったのがもう五年くらい前だから、シュウはそのあたりからこの町にいるってこと?」

「ここの幼育舎を卒業してから、仕官学舎の薬草学に進んだらしいな。そのあとしばらく働いたそうだが、空気が合わんで、帰ってきた直後だったそうだ」

「へえ……そうなんだ」

「おまえと同級生かもしれんな」

「う……うん、そうかも」

「憶えとらんのか」

「勉強に必死だったもので……」

「ああ……おまえは勉強大好きだったもんなぁ」


 遠い目をしたセイドに、その当時はもう勉強が楽しくてたまらなかったんだよ、言い返して、食事を待ち構えているイースの食器を床に置き、じっと見つめ合って「よしっ」と声をかける。利口で賢いイースは、だがしかしユサには傲慢な魔獣なので、「うむ、よきにはからえ」という感じで頷いてからゆっくりと食事を始めた。


「なんかむかつく……」


 なにをしても怒ることはないイースだが、なぜこんなにも偉そうなのかわからない。それも、ユサに対してのみ、なので不思議だ。セイドやシュウには、ユサに対するような態度ではないからなおさらだ。


「バカにされとるな、ユサよ」

「え、やっぱりそうなの?」

「だが気に入られとる」

「……下僕としてっぽいのは気のせいかな」

「仕方なかろ」

「う……まあ、今のわたしなら仕方ないけど」


 都心から帰ってきたばかりのユサは、現在就職活動中ではあるものの、身体の調子は回復していないため、療養が優先されている。というよりも、今はまだ、夕方にイースと共に散歩すること以外で、あまり外に出たくない。出ようとも思わない。セイドはそんな孫を急かすことはなく、まあ好きにしろと言ってくれているので、とりあえずユサは今のところ甘えさせてもらっている。いつまでもこのままではいられないとはわかっていても、どうしても気力が湧かないのでは、どうしようもないからだ。


「さて、わしは畑におるぞ。おまえ、今日はどうするんだ」

「昨日と同じ、かな。読みかけの本とか、いっぱいあるから」

「夕方にはイースと散歩しろ。一日に一回はちょっと歩け。体力が落ちる」

「うん、わかった。じいちゃんも、腰痛めてるんだから気をつけて作業してね。手伝えることがあったら言って」

「おう。じゃあな」

「いってらっしゃい」


 腰を庇いながらも日課の農作業の手を休められないセイドを見送ると、優雅に食事を終えたイースが水を要求してきたので用意する。イースの食事は主に野菜だが、たまに生肉も、自分で狩りに行って食しているらしい。いなくなったと思ったら泥だらけ血塗れで帰ってくるので、たまに吃驚させられる。


「イース、じいちゃんのところに行く?」


 言葉が通じているのか不明だが、なんとなく雰囲気は伝わるようで、イースは問えばそれとなく答えが返ってくる。さわり心地のいい尻尾をゆらりと震わせたイースは、水を飲み終えるとユサを見上げ、それから居間のほうへと歩いて行った。どうやら今日はユサのそばにいるらしい。昨日は散歩の時間までセイドのそばにいたので、交互にどちらかのそばにいるようにしているのだろう。


「よくわからん魔獣だ」


 イースの行動は、いつもだが理解不能だ。

 イースを追いかけるわけではないが、ユサも、食事の片づけをしたあとは居間に向かい、長椅子にゆったり寛ぐと読みかけの本に没頭する。


 本を読んでいる間はなにも考えなくていいからとても楽だ。物語にぐいぐいと引き込まれて、時間を忘れ、考えごとをしなくていい。むしろ今のユサは、なにも考えないようにするために、本を読み家事をこなしている。


「がぅ」

「……ん、イース?」


 どれくらい時間が経っただろうか。ふとイースが小さく吼えた声に現実へと引き戻されたユサは、外が薄暗くなっていることに気づいた。ついでに室内も薄暗い。


「あれ……雨が降るのかな」


 予報では明後日まで晴れるはずだったが、読み違えたのかもしれない。雨が降り出しそうな天気に、ユサは本を卓に置くと立ち上がり、窓辺に歩み寄る。セイドに傘を持っていくべきだろう。あと、もしかしたら間に合わないかもしれないので、乾いた布も持っていくべきかもしれない。


「ありがとう、イース。じゃあ、じいちゃんのところに行こうか」

「がぅ」


 畑は家の裏手の道を進んだところにある。そう遠くない場所だ。裏手のすぐ近くにも畑はあるが、おそらくそちらにセイドはいないだろう。


 ユサは傘と布を用意すると、イースにも雨用の上着を着せ、セイドのところへ行くべく家を出た。とたんに降り出した雨は、木の下で雨宿りをしていたセイドのところへ到着する頃には、土砂降りのようになっていた。


「じいちゃん!」

「おう、ユサ。よく気づいたな」

「イースが教えてくれた。はい傘、あと布。今日はもう帰る?」

「この雨だ、今日はもう無理だろ」

「じゃあ帰ろう。ついでにもうお昼だし」

「夕方には晴れるといいんだがなぁ」


 一時的な豪雨だろうけれども、ほんのちょっと歩いただけでもユサの足許は泥だらけのびしょ濡れだ。帰ってそうそうに沐浴の用意をしたほうがよさそうである。


「メイビルめ、明後日まで雨は降らんと言うとったくせに」

「こんなこともあるさ。早く帰ろう、風邪ひくよ」

「そうだな、おまえに熱を出されると困るわ」

「あはー……今は否定できなくて悲しいわ」


 さっさと帰ろう、とセイドとイースと走り出し、ばしゃばしゃと水を撥ねさせながら家路を急ぐ。

 もう目の前に家が見えてきた、そのときだった。


「あ、シュウだ」

「おや、ユサ」


 どこからかの帰り道なのか、向かい側の道をシュウが慌てた様子で走っていて、ユサが気づくとほぼ同時にシュウも気づいた。

 大事そうに鞄を腕に抱えていたシュウは、どうやら濡れさせるまいとしてそういう持ち方になっていたようで、しかしすでにびしょ濡れの状態では、もう鞄の中身に雨水が浸透していてもおかしくはない様子だ。


「配達の途中か、シュウ。なら寄れ、雨宿りくらいしていけ」

「いいの、おじいさん?」

「かまわん。ほれ、早くしろ」


 セイドもシュウの濡れ鼠状態は見過ごせなかったようなので、ユサが言うまでもなく促し、三人と一匹で急いで家へと駆けこんだ。


「じいちゃん、そこから動かないで。シュウも」


 ユサは玄関ですぐ靴を脱ぎ捨てると、裸足で廊下を走り、乾いた布を浴室から引っ掴んで持ってくる。セイドに一枚渡して、残りは頭からシュウに被せてやった。


「わっ、それはちょっとひどい」

「このままでいいよ。わたしが拭いてあげるから、シュウは鞄拭いて」

「え?」

「鞄。その中に大事な薬とか薬草とか、入ってるでしょ」


 遠慮なく力任せにシュウの頭を拭いてやり、肩を拭いてやり、背中の水気を拭ってやる。その間にシュウには、大事そうに抱えていた鞄を拭ってもらって、とりあえず水滴が廊下に落ちないくらいにまで拭ったあとは、イースをセイドに任せて再び浴室に走る。

 お湯はすぐには沸かせないが、熱を持つ法石を二つ浴槽に放り込めば、水が満たされる頃にはお湯になっている。熱の法石の常備がこれでなくなってしまうわけだが、これは晴れたときに外に置いて陽光を浴びせておくだけで熱を溜めこむ法石なので、沐浴を二日くらい我慢すればいいだけだ。水も、蛇口をひねれば外の井戸水から流れてくるので、遠慮は要らない。

 便利な世の中になったなぁと思いながら、漸くユサも濡れた足許を綺麗にした。


「じいちゃん、あと少して浴槽に溜まるから、先に入って」

「わしよりシュウが先だろ。びしょびしょだ。シュウ、着替えは用意してやるから、身体を温めてこい」


 先にセイドを、と思ったが、考えてみれば濡れ具合がひどいのはシュウだ。居間に隣接した台所で、机を拝借して鞄の中身を広げていたシュウは遠慮したが、どちらかというと鞄の中身を早急に出してしまいたかっただけらしい。それではだめだ、とセイドに引っ張られ、少し慌てていた。


「ユサ! 鞄の中身、全部出しておいてくれないかなっ」

「わたしが触ってもいいの?」

「だいじょうぶ、お願いするっ」

「わかった」


 頼んだぁ、と悲鳴のような声を上げながら、シュウはセイドに浴室へと連行されていった。

 昨日今日出逢ったばかりのユサに、大事な商売道具であろう鞄の中身を任せるのはどうかと思ったが、だからといってシュウに濡れたままでいられるのもこちらの気分が落ち着かない。

 頼まれたとおりユサは、慎重になりながらシュウの鞄に触れ、それほど多くはない中身を懇切丁寧に一つずつ取り出して机に並べた。


「こんなに薬持ち歩いて、だいじょうぶなのかな……」


 薬瓶がほとんどで濡れている心配はなさそうだったが、摘んできたばかりであろう薬草が紙に包まれたままで、薬草の成分などが事細かに記された手帳なども入っていたので、それらは努めて鞄の浸み具合に気をつけて取り出した。

 鞄の中身をすべて机に並べたあとは、思った以上に濡れて湿っている鞄を椅子の背に引っかける。暖房を入れてもいいが、そこまでの季節でもないので、自然乾燥させるしかないだろう。


「温風を出せる法石があればよかったんだけど、あれ高いからなぁ」


 日常的に必要な動力は、殆んどが法石で補われているこの国だ。ユサには門外漢な分野だが、太陽光や風力などが原動力となっていることくらいは知っていて、一般に普及しているものなら扱うことができる。熱を溜めこむ法石もそうだ。同じように温風、冷風を呼び込める法石もあるが、価値がまだ高いために田舎町のここではまだ普及していない。

 この田舎町で沐浴に困らないだけまだいいほうだ、と考えながら、ユサは玄関に戻って床を掃除し、汚れてしまった外靴は泥を落として綺麗にした。これも自然乾燥しか乾かす方法はないので、このまま放置だ。家の床が汚れるのを嫌った生前の祖母の影響で外靴と中靴が分けられているのは、こういうときにとても助かる。掃除は玄関先だけで済むのだ。


「さて、あとはきみだね、イース」

「がぅ」


 上着はセイドによって脱がされたイースは、しかし足まで拭ってもらえなかったようで、おとなしく玄関に座っていた。いつも思うが賢い魔獣だ。

 常備している雑巾でイースの手足を綺麗に拭っている間に、どうやらついでとばかりに一緒に温まったらしいセイドが、シュウと共に浴室から出てきた。


「ユサ、おまえも入ってしまえ。昼間の沐浴もなかなかいいぞ」

「そうする。明日明後日は入れないからね」

「なにっ?」

「熱法石の常備、切れちゃったんだよ」

「なんと……もうちっとゆっくり入ればよかったな」

「わたしが出たらもう一回入れば?」

「そうしようかの」


 沐浴大好きな祖父に、たかだか二日入れないだけ、というのは悲しいことだ。ユサは身体を温めるよりも汚れを落とすほうを優先させることにし、さっさと沐浴を済ませてセイドを再び浴室に促した。


「貴重な沐浴をありがとう、ユサ」

「うん、遠慮されるより感謝されるほうがいいね。どういたしまして」


 ほかほかとした様子で浴室から出てきたシュウのほうは、ふだんが長湯するほうではないらしい。


「鞄の中身も、出しておいてくれてありがとう」

「適当に並べたけど、だいじょうぶ? わたし専門外だから、よくわからなくて」

「ああ、中身は憶えているからだいじょうぶ」

「そう? どういたしまして」


 机に並べられた薬品類を一通り眺めたシュウは、どうやら無事であった鞄の中身にホッとしていた。


「お礼をしないといけないね」

「気にしなくていいよ。ああでも、鎮痛剤がその中にあるなら、安く譲ってくれると嬉しい」

「鎮痛剤?」

「うん。頭、痛くて……よく眠れないんだよ」


 時間的に昼食なので、用意しようと台所に立ったユサは、この家に帰ってきてから、それ以前からも悩まされている頭痛について、シュウに相談してみた。


「もしかして今も?」

「少し。目が疲れる程度」

「それはけっこうひどいな……食欲は?」

「昔からあまり食べないからなぁ……今は一日二食が限界」

「食べると吐きそうになる?」

「毎回」

「む……治療院には行ったの?」

「精神的負荷、と以前言われたときと同じ状態だから、しばらく行ってない」

「ユサ」

「ん?」


 真顔になったシュウに、ちょっとそこに座りなさい、と空いている椅子に促される。


「昼食の支度しないと。シュウも食べていって」

「ありがたくちょうだいするけれど、では支度をしながら」

「どうも」

「本当はもう休んでもらいたいよ」

「そこまでひどくないよ」

「ひどい状態に慣れてしまっただけだよ」


 手伝おう、とシュウは申し出てくれたので、ふたりで台所に並んで立った。


 この町に帰ってくるまでひとり暮らしをしていたユサだが、それほど自炊はしていなかったので、料理の腕はそれほど高くない。シュウもそうだろうと思ったが、包丁の扱いはシュウのほうが危うくなく、むしろ器用に扱った。


「料理、あんまりしなかったんだよね」

「僕は趣味程度かな。ずっとひとり暮らしをしているから、必然とも言う」

「ひとり暮らしなの?」

「幼育舎のときに母が亡くなったのをきっかけに」

「え……いつからひとり暮らし?」

「いつからだったかな……けれど、完全にひとり暮らしというわけではなかったから、この数年が実質的なひとり暮らしかな」


 シュウは憶えていないようだが、ユサはうろ覚えでもシュウが幼馴染のようなものだと思っていた。けれども、そう思っていいとは思い難いほど、ユサはシュウのことを知らなかった。


「そっか……幼育舎のときに、お母さんが」

「もう師と出逢ったあとだったから、生活に不便はなかったけれど」

「師?」

「そう。師と半ば一緒に暮らしていたけれど、忙しい人だったから、仕官学舎に放り込まれてからはほぼ放置だったな。思い出したように教鞭を揮われるくらいで」

「……あの、なんて言ったらいいかかわんない」

「はは、だろうね」


 大変、だったのだろうけれども、過去を教えてくれるシュウは笑っている。それほど苦労はなかったのか、それとも苦労してきた分だけ笑えるのか、おそらく後者だろうけれども、ユサがそのことを簡単に口にしていいとは思えなかった。


「ユサは?」

「わたしは……仕官学舎で四年学んで、役所に勤めてたよ。いろいろあって、帰ってきたばかり」

「……そういえば、ご両親は」

「うん、幼い頃にね。流行り病っていうの? あっというまだったみたい。幼育舎のときにばあちゃんも死んじゃって、今はじいちゃんだけ」

「そうだったのか……」

「あ、両親のことは憶えてないから、気にしないで。シュウこそ、今はひとりなわけだし」


 親がいないのはお互いさまだろう、とその話は終わらせてしまうと、賛成だったらしいシュウも頷いてくれる。


「おじいさんの腰、それほど悪いわけではないみたいだね」

「夕方に疲れが出るくらいだって言ったでしょ」

「湿布、いる?」

「あるの? あるなら譲ってもらおうかな」

「そんなに多く持ち歩いてなかったから、少ないけれど」


 野菜を刻む手を動かしながら、シュウは「数日分かな」と後ろの薬品類を確認する。手許を見ないで野菜を刻む器用さにはらはらしたが、考えてみればシュウは薬師という職業にあって、料理にも似た調合をする人だ。なにかと器用なのだろう。


 数年とはいえ、幼育舎で一緒だったのに、随分とシュウを見ていなかったらしいと今さら思う。

 シュウののんびりとした喋り方も、人を安堵させる穏やかな表情も、器用に動く指先も、幼馴染だと言うにはユサはシュウのことをよく知らない。

 思えば幼育舎の頃、一度も会話をしたことがなかったかもしれない。幼馴染というより、ただ顔を知っていた、だけだ。


「……ユサ?」

「え? あ、なに?」

「ちょっとぼんやりしているね。頭痛がひどいようなら、鎮痛剤をすぐに調合するけれど」

「あぁごめん、違う、なんでもない」

「無理しないようにね。これもやっぱり数は少ないけれど」

「譲ってもらえるだけありがたいよ。切らせたところだったから、手許にないとちょっと不安」

「依存しちゃってるなぁ……あんまりよくないことだって、わかってる?」

「充分に」

「それならいいよ」


 身体の調子が悪いのに我慢させるのは悪い、とシュウが言い、それからはほぼ無言で調理に取り組んだ。

 長湯したセイドが満足顔をしながら沐浴を終えてきた頃には、居間の卓に三人分の昼食が並べられ、ユサは随分と久しぶりに会話のよく弾む食卓を囲むことになった。







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