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第8話 悲しい現実・・・

 

「おい、起きろ。アホ」


 いつもみたいにきょーちゃん人形が存在しないので、自分の枕を振りおろす。

 ちなみに母さんの枕は柔らかめだけど、俺のは固めだ。つまり、このように振りおろすと物凄く痛いのだ。


「うにゅぅぁぁぁぁ!?!?」


 反発性の高い母さんのベッドの上で頭を抱えながらポンポンと跳ねている美也を見ながら込み上げる笑いを抑えずに笑う。


「あはははは、そんなに痛かったか?」


 頭を抑えながら、涙目でこちらを睨む美也を見ながら聞くと、何度も頷く。

 これは相当痛いらしい。でも、いつもみたいにすぐに2度寝という形では無いから、これからはこれで行こうか?とさえ思わせる。

 まぁ、こんなことを何度もするほど鬼では無いけど。


「ほら、起きたんなら自分の家に戻れ。そして風呂に入ってこい」

「ふぇ?あれ??ここきょーちゃんの家???」

「そうだ。昨日、お前が俺の許可も無く寝たせいでここに運んだ」

「そのあとは?」

「お前、爆睡。おれ、風呂入って自分の部屋で爆睡」

「…っち」

「露骨に舌打ちしてんな。ほら、さっさと帰れよ」

「えぇー、きょーちゃんの朝ごはん食べたーい」

「そんな余裕ない。今日も美和子さんの所」

「ママ?」

「そう、ママ。ほら、早くシャワー浴びて制服着替えてこいよ。たまにはゆっくり行こう」

「ん~、わかった。ちゃんと待っててね?」

「はいはい。んじゃ45分後な」


 ボサボサの頭を掻きながら、母さんの部屋を出て行く美也を見て「あぁ、あいつ俺の母さんと同じだな…」と思う。

 俺は美也の後ろを付いて行きながら、玄関まで送り届けたあと、自分の準備をする。

 リビングでは美和子さんがソファの上で寝ていて、その下に母さんが布団を敷いて寝ている。

 そして、テーブルの上にビール缶が大量に置かれている。


「あ、そっか。美和子さんは今日休みだ…」


 テーブルの上に置かれたビール缶を処理しながら、そんな事を思い出す。

 つまり、俺達の朝ごはんが無い。

 もちろん、昼ごはんも。

 時間は残り35分。お弁当を速攻で作るには十分な時間。

 制服を汚さないようにエプロンを付け、昨日の残りを冷蔵庫から取り出す。


「とりあえず、お昼はチャーハンにして…、朝は~、コンビニ…いや、美也が金無いな」


 昨日の残りの豚を細かく切って、適当に野菜などを入れて、チャーハンを作る。

 そして、自分の弁当箱に入れて、美也の分は昔、母さんが持っていっていたお弁当箱に入れる。

 おかずなどはそのままお弁当箱に入れれる冷凍食品を乗せて、出来上がりだ。

 あとは少し冷めるまで待って蓋をするだけ。


「残り時間は20分…んー、朝は何も無いな…」


 冷蔵庫の中身を確認しても、昨日買った食材は生で食べれる物じゃないし…。

 ハムとかは食べられるけど、美也の腹を満たすとは思えない。

 やっぱり毎朝、美和子さんの店でパンを頂いている恩恵ってのは凄まじい。

 冷蔵庫の前で悩みながらも、時間は刻々と経っていく。

 そして、俺はある決断をした。




「うぅぅぅ~…死んじゃうよぅ……」

「だから、謝ってるだろ」


 朝飯抜き。

 これが俺の決断だ。

 もちろん、美也には電車に乗るまで秘密にしていた。

 途中から「ねぇねぇ、朝ごはん?」と物乞いをする目で、どこかのサラリーマンにこれを見せれば一杯物を買ってもらえるだろうってぐらいの表情でこちらを見てきていたが、なんとか「今日は特別。電車まで秘密だ」と言い通した。


 朝ごはん抜きだと知った美也は現在、俺の隣に座っていて、俺の腕にぐりぐりと顔を押し付けている。

 この行動の意味は理解できないが、今回ばかりはこちらに非があるため、黙認する。

 周りにいる他の学校の学生やサラリーマン、OLなどは俺達の方を「リア充爆発しろ!」という視線を送ってくるが、完全無視。

 確かに、何も知らない人から見れば「なに朝からいちゃ付き合ってんだよ、死ねよ」と思うかもしれない。もし俺が他人ならそう思う。

 だけど、俺達の事を知っている人がいると…。


「あらら?どーしたの?いつもより早いじゃん。美也ちん、ケイ」

「亜矢ちん…はよ」

「よぅ。たまには良いだろ?」

「それにしても朝から美也ちんは何してんの?マーキング?」

「あさごはん…」

「朝ごはん?あぁ、今日は休みだもんね」

「そ。俺がド忘れしてて、朝ごはん作るの忘れてたんだよ。美和子さんはうちの家で朝まで酒飲んで死んでるし」

「なるほどなるほど」


 亜矢がウンウンと頷くと後ろのポニーテールが上下に動く。

 それにしても、亜矢が来るだけでこの電車の雰囲気はどういうことだろう?

 さっきまで俺らの方にリア充爆発しろ視線を送っていた者たちが亜矢の方に向く。

 やっぱり見た目いいもんなぁ…クールさ的には小学生の頃から一緒にいる俺でも素晴らしいと思わせる。


「むふふ、美也ちんに朗報だ」

「なに?」

「これが目に入らぬか~」


 亜矢はカバンの中をガサガサと漁ると、美和子さんの経営しているパン屋の袋が出てくる。

 その袋を見た瞬間、俺の腕にマーキングをしていた美也の目が輝きだす。


「欲しい?」

「欲しい!欲しい!」

「そっか~、でもなぁ~」

「亜矢ちん!欲しい!なんでもする!」

「そっかぁそれじゃ私に頭を撫でさせなさい」

「うん!うん!!」

「相変わらず触り心地の良い髪だわ~」

「ふにゃ~」


 さわさわと美也の頭を撫でる亜矢。

 気持ちよさそうに撫でられる美也。

 絵にすれば一部の層に売れそうな予感がする。

 だけど…亜矢の性格を考えると………。


「ふぅ、満足満足。はい、ちゃんとゴミ箱に入れててね」


 しばらく、美也の頭を撫でた亜矢は満足そうにパン屋の袋を美也に渡す。

 美也は亜矢から袋を受け取ると目をキラキラしながら袋の中身を覗く。


「………ふぇ?」


 美也の頭では理解できていないらしいから代弁すると、袋の中に入っていたのはパンを包んでいたであろう袋。

 つまり、パンはすでに亜矢が食べている。

 俺の横にいる美也は絶望的な目をしながら、ありもしないパンを探す。

 その姿をクスクスと笑いながら見る亜矢。

 美也は俺と袋の中を交互に見る。

 これ以上は美也の精神が崩壊しそうだな…。


 俺は、美也から袋を取り、カバンの中に仕舞う。

 そして、俺はハンカチを取り出し、美也の顔に掛けて、俺の胸へと持っていく。

 美也には厳しすぎる現実だ…。


 俺の胸の中ではハンカチを涙と鼻水で濡らす美也がいた。



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