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第21話 勝負が始まり、すぐおわる。

 

 勝負の時。


 今日で美也の学生生活が決まると言っても過言ではない。

 俺の机に置いてあるテスト用紙はすでに文字で埋まっている。


 今回のテストに関しては簡単な方だ。

 しかし、美也にとってはどうなんだろう?


 美也のいる方を見てみると、必死でシャーペンを動かして解答用紙の空欄を埋めて行っているみたいだ。

 あんな風にテストを受ける美也を見れるとは…。


 前に居る先生ですら、美也の必死にテストを受ける様子に衝撃を受けているらしく、ぽかーんと口を開きながら美也の方を見ている。


 そんなテストの様子が50分続き、ようやく全教科のテストが終了となる。


「ん、んん~~~。疲れた」


 椅子に座りながら背伸びをすると背骨がぽきぽきっとなる。

 周りにも俺と同じように背伸びをしている人がたくさんいるので恒例行事の一つと言っても過言ではないだろうか…とバカな事を考えながら、前で机に突っ伏している美也の所へ向かう。


「どうだ?テストの方はできたか?」

「きょーちゃん……わかんない、でも必死にがんばった」

「そっか。ほら、帰るぞ」

「うん。あっ」


 立とうとした美也の腹から「ぐぅぅぅ~」っと大きな大きな音が鳴る。

 その音はまだ教室に残っていたクラスメイト達の耳にも届いたらしく、皆がこちらの方をビックリしたような目で見てきた。


「…飯、食いに行くか?」

「でもお金無い…」

「今、いくらぐらいあるんだ?」

「ん~…159円」

「また中途半端な…。まぁ良い、テストも頑張ったんだし奢ってやるよ」

「ほんと!」

「加越~、今から飯いくのか??それじゃ皆でテストの打ち上げ行かね??水野さんも一緒に」


 クラスの中でリーダーっぽい奴が俺達を誘う。

 テストが終えて、すぐに帰らないと思ったらそういう予定を立てていたのか…。


 俺は美也の顔を見ると、美也は小さく縦に頷く。

 この際、食べ物を食べれれば良いって感じか…。


「参加させてもらうよ。こいつが腹空かせてるから食べ物も頼むけどいいよな?」

「ああ。やった!水野さん参加だ!!」


 数人の男子が顔を輝かせて賑わう。

 そういや、こういう遊び関係に美也はあまり行かないんだっけか。

 単純にお金の問題と学校終わりの美也は"早く家に帰りたい!"というオーラを全身で表現するから誘いにくいし、休みの日なんて充電器から携帯が抜かれない事は当たり前だ。

 だから、クラスメイトと一緒に遊びに行くなんて滅多にない。

 もちろん、俺も洗濯物とか買い出しとか家事があるから、あまり行かないけど。


 俺は母さんにメールで「夕食は外で食って」と送って、美和子さんの方にも一応「美也に飯を食わせます」と送っておく。

 そして、打ち上げをするメンバーは皆一緒に教室を出て、靴箱の方へと歩き出す。


「いやぁ、加越はともかく水野さんも来てくれるなんてなぁ」

「言っておくけど、こいつかなり食うよ?」

「いいよいいよ。ポテトとか皆で食える物を頼んで楽しく行こうぜ」

「食べ物って皆で割り勘?」

「皆で食べるんだから当たり前だろ?」

「あそ。りょーかいした」


 リーダーっぽい奴は嬉しそうに言う。

 こいつは知らないのだ。美也が空腹のとき、どれだけ食うのかを。

 俺は財布の中身を確認して、いくらあるかを確認する。

 5000円は入っている。たぶんこれだけあれば十分だろうけど……念には念を入れておいた方が良い。


「なぁ、もう1人、別のクラスだけど誘っていいか?」

「ん?だれ?」

「亜矢」

「あや?…もしかして港さんか?」

「ああ」

「…えと、良いけど。大丈夫かな?」

「何が?」


 リーダーっぽい奴の顔が少しだけ曇る。

 どうして亜矢に対して少し表情が曇るのか分からないけど…何かマズイことでもあるんだろうか?


「いや、何でも無い。ちょっと聞いてくるよ」


 リーダーっぽい奴は先に歩いて行っていた女の子グループの方へ亜矢が来ても良いか聞きに行く。

 しばらく、その様子を見ていると一旦、皆がこちらを向く。

 そして、またコソコソと話をすると女の子たちが湧いた。


「うそっ!」

「ほんとっ!!」

「まじで!!」

「やった!港さん来てくれるんだ!」


 リーダーっぽい奴の反応を見て、「亜矢って女子に人気ないのか?」って疑問を浮かんでしまったが、あの様子を見て、彼のテンションが少し落ちたのが理解できた。


「女の子たちは皆、いいよって。むしろ呼んでほしいだって」

「お前は良いの?」

「ああ、あそこまでの反応されちゃうと逆に呼ばないとダメだろう?」

「…悪いことしたな。なんか」

「いや、大丈夫だ。俺達には水野さんが付いてる!」


 グッと握りしめ、自分に言い聞かすようにリーダーっぽい奴が言う。

 俺はそれを無視して、亜矢に電話を掛けた。



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