第13話 俺が嫌だ。
違和感に気が付いたのは朝が来てからだった。
そう、昨日はすごく騒がしかった我が家。
テーブルの上にビール缶などが大量に置かれている可能性もあるけど、そんなのは違和感に入らない。
目が覚めて、布団から出る。
「なんか忘れてんだよなぁ…」
頭を掻きながら自分の部屋を出る。
階段を降りて行き、リビングに行くとすでに母は出かける準備をしている。
美和子さんはすでに仕事へと向かったらしい。
「今日は学会だから2~3日空けるわ」
「そう。帰ってくる日の晩飯とかはまたメールして」
特に特別なことではない。
母さんも朝ごはんを作る俺を無視して、さっさと家を出て行く。
「ん~、なんか忘れてる…」
昨日の事を思い出しながら、朝ごはんの目玉焼きを作って、お弁当のおかずも作る。
昨日は美也の誕生日。
だから、家でお誕生日パーティーをして、ネコじゃらしをあげて………。
「あ、そっか。母さんの部屋にいるんだった」
なんの違和感かようやく分かった。
美也がうちに泊まっているのだ。
いつもなら起きてすぐに美也の家に行っている所なのに、足がそちらに向かっていないことが違和感だった。
それに気が付いた俺は階段を上がり、美也が寝ている母さんの部屋のドアを開ける。
すると、小さく丸まり、大切そうにネコじゃらしを持ちながら寝ている美也がいる。
あのネコじゃらしはかなり気に入ってくれたらしい。
「おい、起きろ!」
「んん~~」
身体をゆさゆさと揺らしながら起こしてみるが、拒否の反応を見せる。
次の作戦は大切そうに掴んでいるネコじゃらしを奪い、鼻の辺りで動かす。
「ふ、ふ、ふっ……むにゃむにゃ」
もう少しでくしゃみをしそうな所で止めると、物凄く不細工な顔を一瞬見せて、すぐに幸せそうな寝顔を見せる。
これはこれで面白いかもしれない。
だけど、せっかく家で朝ごはんが食べられる時間なのだ。さっき作った目玉焼きも冷えたらまずくなる。
手に持っているネコじゃらしを机に置いてから、ベッドの上で寝ている美也をお姫様だっこの要領で持ちあげる。
そして、そのまま部屋を出て、階段を降りて、リビングに向かう。
「んん~……きょーちゃん???」
さすがの美也もベッドから引き離され、ゆっさゆっさと揺れている中では目が覚めるらしい。
階段を降りている途中で薄く眼を開けて、現状を把握しようとする。
そんな美也を無視しながらリビングに向かい、目も覚めていない美也を椅子に座らせる。
「ほら、さっさと目を覚ませ。朝ごはんも食え」
「…………」
「あと、シャワーだけでも浴びろ。お前、昨日入ってないだろ?」
「………ふぁぁぁぁ」
「ほら、コーヒー牛乳」
ごく甘にしたコーヒー牛乳を美也の前に出すと、条件反射のように口へ運んでいく。
「おいし」
「少しは目が覚めたか?」
「んーん。まだ」
「次、ちゃんと応えないと弁当作らないぞ?」
「覚めた。朝ごはんは?」
「目玉焼き。さっさと食べて風呂に入れ。制服とかは家だろ?」
「うん。あ、下着も欲しい」
「お前、俺にそれをやらすか?」
「ん?どーして?」
「普通、年頃の女の子は同年代の男に見られたくないもんじゃ?」
「よく分からないけど…きょーちゃんだし」
「あそ。俺が嫌だからしないけど」
自分の分の朝ごはんも用意して、食べながら寝起きのくせにご飯をおかわりする美也と会話をする。
朝からこの食べっぷりには毎度驚かされる。
結局、朝から3杯のおかわりをした美也は何故か一旦自分の家へ戻ったのに、こちらの風呂を使うという謎行為をした後、俺と一緒に学校へと向かった。