表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王復活〜小説家の俺が自分の物語の人物に!?〜  作者: pippo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

決戦の日

(そんな馬鹿な。こんなことはあり得ない。夢だ!まだ夢を見ているんだ。)


少しずつ取り戻しつつあった冷静さは、今度こそ完璧に失われた。鏡を見ながら何度も自分の顔を触る。鏡の中のアザミナは熊井の動きに合わせて全く同じ動きをしている。右手を動かせば鏡の中では左手を動かし、目を見開けば、同じく目を見開く。


それと同時に夢だと思いたい熊井の脳内に、嫌な感覚が生まれる。自身の体を触るたびに手のひらには触れた感覚が、手が触れた場所には触れられた感覚が確かに存在するのである。


(触覚や痛覚が存在しているということは、ここは夢ではないのか?それに、こんなに意識がはっきりしているというのも、夢にしては、、、)


熊井は鏡の前で困惑しきり、顔に手を触れたまま立ち尽くす。そして、先ほど確認した脇腹の傷跡あたりから鈍痛を感じ、少しよろける。


「アザミナ様!!」


よろけたアザミナに向かってナルドリアがすぐに近づく。


「まだ傷は完全には癒えておりません。しばらくお休みになってください。」


ナルドリアに支えられながら、棺の前の豪華な造りの椅子に座る。痛みが徐々に引き、いささか落ち着きを取り戻すと、熊井の中には次なる疑問がどんどん溢れてくる。


(夢でない可能性があるとしてもだ。ここは本当に俺の描いていた小説の世界の中なのか?それに、このナルドリアは復活と言っていたが、ここはどこで、今はいつなんだ?)


「ナルドリア。」


「はい。」


シャドールは椅子に座る熊井の前に片膝をつき、かしずく。


「あー。復活したてで、私はまだ混乱しているようなんだが、今の状況をわかりやすく教えてはくれないか?」


熊井は、なるべく自分が書いてきた魔王アザミナの話し方や所作を忠実に再現するようにシャドールに対して話しかける。


「もちろんでございます。」


シャドールはスッと立ち上がると右手を胸の前に当て軽くお辞儀する。その所作はまるでどこかのお屋敷に勤める執事のようである。


(ナルドリアは、執事属性をてんこ盛りにして作ったキャラクターだからなあ。こういう所作を見ていると、この目の前の青年は本当にナルドリア・シャドールなんだと思わされるな。)


「まず、魔王様はあの時のことをどれほど記憶しておられますか?」


ナルドリアからの質問に熊井は少しばかり固まる。


(あの時。勇者との最終決戦の日か?どれほどと言われても、書いたのは俺だから全部知っているはずだけど、もしかしたら俺が書いていた物語とこの世界で起きたことが違う可能性もある、、、どこまで答えるべきなんだろうか、、、)


「そうだな、私は勇者ジノクリフとの一騎討ちの末、敗北したのではなかったか。そして、この体は滅んだと認識していたが。」


熊井は自分が書いていた物語の大まかな筋書きのみを話し、詳細はシャドールに語らせるという選択をとった。熊井がこう判断したのは、シャドールの『復活』という単語から自分(魔王アザミナ)は一度は滅んでいるということを確信したからである。そして、自分を滅ぼした存在は、勇者を置いて他にないだろうと思ったからだ。


しかし、アザミナの言葉を聞いたナルドリアは、伏し目がちに表情を曇らせる。その反応を見て、熊井の脳内には不安感が募る。


(あれ?どういう表情だ?まさか、勇者の名前違った?!魔王が負けたのは勇者だと思って、思わず自分が書いていた物語に登場した勇者の名前を言ってしまったけど、もしかして全然違うのか?この表情は、自分が使える主人の記憶があまりにも残念だからという諦念の表情なのか?!)


二人の間には少しの沈黙の時が流れる。沈黙の時間が続くほどに熊井の頭には、不安感が増していく。


「本来であれば魔王様があのような男に敗北するなどあり得ませんでした。セクサロキの裏切りと奴らの戦術に惑わされなければ、あんなことには・・・。」


ようやく話し始めたシャドールは、その時のことを思い出しながら歯をぎりぎりと鳴らす。眉間にも皺が寄り悔しさを感じているような表情である。


だが、そんな悔しさを滲ませているシャドールに対して、熊井は安堵した気持ちであった。


(あぶねー。変な間を持たせるせいで不安になっちまったよ。とりあえず、この世界のアザミナも勇者に倒されたのは間違いがないようだし、何も言われていないということは、勇者は俺が書いていた勇者ジノクリフに間違いはないようだな。それに今、ナルドリアの口から発せられたセクサロキ、、、)


熊井が書いた『勇者列伝』。勇者であるジノクリフは、世界の各国を訪問しながら仲間を集め、さまざまな国の援助をもらいながら着実に勢力を拡大していった。敵対する人間の国同士であっても、その人間力と交渉、そしてその圧倒的な実力で味方とし、魔王軍に敵対する一枚岩の軍勢へと成長させていった。その中で徐々に魔王軍の勢力を削っていく。しかしながら、魔王軍の幹部の力は絶大で勇者勢力にも大きな損害を出すことになってしまっていた。お互いに消耗戦に突入するかという時、魔王軍の最高幹部の一人である淫魔公セクサロキが突如魔王軍から離叛(りはん)。それにより両軍の均衡は完全に崩れた。セクサロキが勇者陣営に流した魔王軍の情報は、大きく戦況を一変し、勇者軍はそれぞれが相対する魔王軍幹部の特性や能力に対応した戦略を立てることにより魔王軍を追い詰めた。その結果、勇者ジノクリフと魔王アザミナの完全な一騎討ちに持ち込むことに成功し、ジノクリフがアザミナを討伐。王を失った魔王軍は完全に統率を失い瓦解し、世界に平和が訪れた。という結末である。つまり、勇者ジノクリフに倒されたものの、きっかけは魔王の部下であるセクサロキの裏切りによるものであったというものである。


セクサロキも魔王軍の人気キャラクターではあったため、この展開には難色を示すファンも多く出るだろうとは予測したものの、事前に裏切り者が出るような伏線は、随所に残していたので、後は誰をその裏切り者にするかということを決めるだけであった。熊井がセクサロキを選んだのは、はっきり言って消去法であった。というのも、裏切りそうな主要な魔王軍のキャラクターがセクサロキくらいしかいなかったのである。これは完全に熊井のちょっとしたミスであるが、魔王軍の幹部たちは、魔王に対する忠誠心が異様に高く、他の作品によく見られるような敵側の統率力の無さとはかけ離れた、圧倒的統率力を見せていたのである。とはいえ、その忠誠心の高さや統率力の高さこそが魔王軍の人気を跳ね上げるキッカケではあったため、後悔はあまりしていない。ただ一つ、魔王軍が強すぎて勇者がどう討伐するのかというのに苦労したくらいである。


(え〜と、そのシナリオを書いたのは俺なんだが・・・。)


悔しそうなシャドールの表情を見ながら、熊井はなんとも言えない気持ちになる。シャドールの表情は、誰がどう見ても恨みのこもった憎悪の表情である。そして、その対象は言うまでもなく勇者ジノクリフと裏切り者のセクサロキであろう。


(すまん、セクサロキ。俺が書いた設定のせいで、お前はとんでもない恨みを買っているようだ。)


他人事かのようにセクサロキに対して、謝罪の意を唱え、心の中で手を合わせる。


「それで、滅んだはずの私がどうして?」


熊井はシャドールに尋ねる。とは言いながら、自分が作った物語である。それに担当編集にも話した通り、魔王の復活の可能性は残していた。それでも熊井がシャドールに問いかけたのは、自分が作った設定がこの世界に完全にそのままに反映されているのかを確認するためであった。


「はい、ジノクリフが使用していた剣は魔王様の存在そのものを消滅させうるものでした。傷がつけられたところから魔力が浄化され存在そのものを消滅させる。我々にとっては天敵の武器です。魔王様の体も勇者により塵ひとつ残らず消滅させられました。ただひとつ、そちらを除いて。」


シャザールは左の掌で熊井の右側頭部を指す。熊井は示された部分をもう一度右手で撫で、ゴツゴツとした手触りを感じる。


「この角か。」


「はい。魔王様が討伐されたとの知らせが届いたあと、戦線を離脱した私は何か魔王様の残骸がないかと、この城を隈なく探しましたところ、そちらを発見いたしました。わずかな可能性を信じ続け、そちらの角に魔力を注ぎ続けておりました。」


熊井はシャドールの話を聞きながら軽く頷く。


(うん。ここまでは俺が作っていた設定通りだ。魔王が復活する可能性はこの角っていうことにしていたから、そこに関してはなんの齟齬もない。つまり、今の話を聞く限りで判断すると、この世界においても魔王が討伐された筋書きは、俺が書いていたものと同じであると判断していいだろう。後は、、、)


「それで、あれからどのくらいの時が経った?」


最も重要な問いをシャドールへ投げかける。そう。熊井が書いていたのは、あくまで魔王が討伐され世界に平和がもたらされたと言うところまでである。設定上はあったとはいえ、魔王の復活は熊井が書いていない未来のシナリオである。つまり、熊井はこの時代がいつで、魔王が滅んでからどれほどの月日が経過しているのかと言うことを何も知らないのである。そして、その情報はこれからの行動を考える上で最も重要なものであると理解していた。


(さあ、何年だ?流石に数年ってことはないだろうけど、ある程度俺が作っていた設定が残っていてくれるような年数なら助かるんだが、、、)


「はい、あの時からすでに400年の時が経過いたしました。」


「400年?!」


シャザールの口から出た言葉に思わず変な声を発する。


「申し訳ありません。思っていたよりも魔力の確保に時間がかかってしまいました。」


シャザールは苦悶の表情を浮かべながら深く謝罪する。


「い、いや。ナルドリアはよくやってくれた。私が復活できたのは、間違えなくお前のおかげだ。感謝する。」


「もったいないお言葉でございます。」


シャザールはさらに頭を深く下げる。


(400年か。俺が書いたのは魔王討伐までだから、その後の設定はほぼ考えていなかったが、そんなに時間が経っているとは。400年も経ってしまったとすると外の世界は俺が考えたものとは違う世界が広がっている可能性も十分にあるな。)


400年。言うは安いが、相当な時間の経過である。現実世界で考えれば、世界中の国が、名前や文化の変化を経ていても何の違和感もないほどに長い月日である。日本で考えても、江戸時代の初めから急に現代になったようなものである。


「して、ナルドリア以外の幹部の生き残りはいないのか?」


ここで熊井は、魔王軍の他の登場キャラクターが生きていないのかを問いかける。


(400年と言うと、人間の国々の方の登場人物たちは、ほとんど死んでいるだろう。だけど、魔王軍なら。人外の種族であるあいつらならば、時の流れに支配されずに生き残っている可能性もある。とにかく今は情報がないと話にならない。)


「幻獣王ガザフ様は勇者軍により討伐、そのまま存在ごと消滅。剣鬼ルサールカ様は討伐されたという知らせはありませんが決戦後の消息は不明。ステンノス様は討伐こそされなかったものの、封印されどこかへ運ばれたという知らせが入っており消息不明。マルファス様も同じく消息不明。ただ、彼の方のことですから討伐される前に逃亡はしていると思いますが、現在まで存在しているかは分かりません。裏切り者のセクサロキも消息は分かりません。ただ、必ず生きているものと考えております。」


シャドールはセクサロキの時だけ口調が強くなる。


(まあ、シャドールはアザミナに絶対的な忠誠を誓っているキャラクターだからこそ、セクサロキの裏切りが許せないんだろうな。うーん。それにしても、意外とみんな消息不明なんだな。まあ、400年も経過していたら仕方がないのか?)


「そして、残りの方々は・・・。」


シャドールが話を続けようとした時、


ギィー


部屋の扉が鈍い音を上げながら開く。そして、部屋へと数人が入ってくる。いや、正しくは、二体と、一匹?


「お前たちは・・・。」


その姿を視界に入れた熊井は、思わず声を上げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ