異世界で家族と共にコンビニ経営をすることにしたら毎日幸せに暮せるようになりまして
「エンティ・アヴニール。貴様との婚約を破棄する!」
えー、突然ですが、私ことエンティ。前世の記憶を持つ令嬢で。今、目の前でキラキラの王太子様が、こちらへ向かって盛大に宣言してくださっている真っ最中。理由?まあ、いつものやつ。
「地味だから」
「もっと魅力的で聖女っぽい女性がいるから」って。
──チーン。
心の中で鐘の音を響かせながら、王宮の舞踏室で頭を下げた。
お父様もお母様も顔を真っ青にしてオロオロしている。そりゃそうだ。名門アヴニール公爵家の娘が、よりによって王太子にやんわりと「お前と趣味が合わない」宣告されたんだから。
でも、はダメージほぼゼロ。だって、ずっと気になっていた「この国にはコンビニがない」って。
前世では、深夜の残業終わりに吸い寄せられるように入って肉まんの湯気と新刊コミックの匂いに癒やされていたのに。異世界に来て、安らぎを失った絶望感は誰かわかってくれるのかな。
「かしこまりました。王太子殿下の仰せのままに」
退室すると王太子様は「ふん、意外とあっさりした女だ」みたいな顔をしていた。待て待て、あっさりじゃない。超ワクワクしているだけ。
だって、婚約者という立場から解放されたら自由。
自由の身で最強スキルが使えるから、自領地に戻る馬車の中でそっと自分のステータスを確認。
スキル欄に輝く文字は一つ。
【スキル/コンビニエンス・ストア】
よーし、これで領地でほのぼ生活になること間違いなし。揚げ物の匂いが漂う、最高にハッピーな店をオープンさせなきゃ。
「お父様、お母様!私領地でコンビニをオープンさせます」
両親は婚約破棄のショックでまだ立ち直っていなかったが、瞳に宿る肉まんへの情熱を見てポカンとして固まっていた。
第二の人生は、こうしてちょっと変わった形で幕を開けた。
公爵領の郊外、馬車で揺られること数日。到着し待っていたのは領地のごくごく寂れた一角にある、古い倉庫。お父様が「好きに使っていい」と渋々許可してくれた場所。渋々なのは古いからだろう。
「エンティ様、本当にこれでよろしいので?」
控えめに尋ねてきたのは執事のルスッコ。公爵令嬢がこんびになる謎の店を開くことに不安いっぱいの様子。
「もちろんルスッコ!最高の店にする」
倉庫の前に立ち、スキルを発動させた。
コンビニエンスストアと念じると、倉庫全体が眩しい光に包まれる。光が収まったときに見慣れた、最高の建築物が立っていた。
白と緑とオレンジを基調とした親しみやすい看板。自動ドアから聞こえてきそうな「いらっしゃいませ」の声。
入り口横に設置された、心臓部ともいうべきATM。ただし、今は飾りだけどね。
「な、ななな、なんということ!煉瓦も木材も使わず、一瞬で建物が……!」
ルスッコの口が丸の形に開いている。丸っていうよりかはゼロかな。
「すごいでしょ〜?これは文明の結晶!」
さて、問題は中身。スキルを発動すると店舗構造と最低限の設備たるレジ、陳列棚、ホットスナックケース、冷蔵ショーケースは生成されるが、商品は自分で補充しなくてはならず。ということでまず、目玉を設置しなくては。
レジ横に立ち、家族に呼びかけた。実はそっとみていた人たち。
「お父様〜お母様〜!看板商品ですよ。熱くてちょっとジャンクな、幸せな匂いを放出する食べ物を出しますねえ」
公爵であるお父様は、未だにコンビニが何なのか理解できていない。あんまりな地味な婚約破棄事件のせいで、ストレスで胃がキリキリしているようで。
「色々聞きたいことはあるが、エンティよ……肉まん、とは、いったい何なのだ?見た目はただの白い団子ではないか?それよりもこの建物が気になるが」
疑いの目を向けるお父様にホカホカの肉まんをそっと手渡す。ははは、と笑い出す己。
「いいから、一口!湯気に注目ですよ」
お父様は恐る恐るそれを口に運ぶと、ジュワッと肉汁が溢れる。
「ん!?んん!?む、むう……!こ、これは……ッ!肉汁のコクと、ふんわりとした皮のハーモニー!胃袋に染み渡る禁断の優しさが」
噛めば噛むほど肉が口を幸せにする。胃薬が手放せなかったはずのお父様の顔に、みるみる生気と幸福感が戻ってきた。
続いては妹のミーシャ。普段はキラキラしたものが大好きな、ちょっとツンデレな妹。
「お姉様、こんな茶色くて油っぽい棒、本当に売れるの?服がベタベタになるわよ」
ミーシャが指さすのはもちろん、フランクフルト。外せたい大人気のジャンクフード。
「お、お姉様?」
「ミーシャ、これはねポーク&スパイスの奇跡。ソースを少しつけてからガブッといってみて」
ミーシャは警戒しつつも一口。瞬間、彼女の瞳が宝石のように輝く。
パク……パクパク!
「な、何これ!外側はカリッと、中はジューシー!?高級料理店よりなぜか手が止まらない……お、美味しすぎるわ!」
ふふふ。そうでしょうそうでしょう。揚げ物と香辛料の魔力さ異世界でも最強みたい。
店の外には、一瞬で建った謎の建物に興味津々の領地の住民が遠巻きに集まってきていた。貴族の作ったものだからあまり近寄ってこない。
「これは一体?薬屋?それとも珍しい酒場?」
「看板の文字も奇妙だぞ……エイト・エンティとは?」
(あ、店の名前に自分の名前が入っちゃったのか……ま、いっか!)
満面の笑みで自動ドアを開けた。もちろん手動だが、心の目で自動ドアにしておく。コンビニだもの。
「いらっしゃいませ!ここは、あなたの日常を便利にハッピーにするお店、アヴニール・コンビニエンス・ストアです!」
肉まんの湯気と揚げ物の香ばしい匂いを、風に乗せて遠くまで届けた。匂いに釣られるように、一人の農夫のおじいさんが恐る恐る店に入ってくる。
「娘さん、肉まんとやらを一つ、食べる分けてくれんかね?」
コンビニの記念すべき最初のお客様。農夫のおじいさんは肉まんの味に完全に魅了された。ふぉおおおと言う。
「手軽で腹持ちの良い食べ物があったとは……!わしは明日から昼飯はこれにするぞぉ!美味すぎるうう!」
代金として差し出されたのは一般的な銅貨、銅数枚。問題発生。
(うーん、肉まん一個が銅でいいの?前世の感覚だと二百円くらいだけど物価と換算すると?いくら?)
エンティの頭の中で異世界経済学と、コンビニ経営学が激しくぶつかり合う。
「お父様。一般的な労働者の方の一日の賃金って、どれくらい?」
まだ、肉まんの余韻で機嫌がいいお父様が答えた。
「そうだな、並みの農夫であれば一日の労働で銀一枚といったところか」
銀一枚が現代でいう五千円くらいだと仮定すると、肉まん一個を二百円相当にするには。
「肉まん一個、銅十枚」
ちょっと強気な価格設定だが、希少性と圧倒的な満足度を考えれば妥当だとエンティは判断した。ホットスナックで集客は完璧。
次は、常温で手軽に食べられる主食。そう、コンビニのキング・オブ・キングスたるおにぎり。
「お母様。今から握る係をお願いします」
お母様は生粋の貴族令嬢育ち。これまで握ったものと言えば、せいぜい舞踏会で手にした扇子くらい。
「エンティんわ、私が?ご飯を素手で握るなんて……!手袋を?手袋はどこかしら」
「大丈夫ですお母様。手袋はちゃんとあります!特別な海苔を巻くのがポイントなんです」
生成した清潔な手袋を渡し、この世界には存在しない海苔を生成した。ただし、異世界なので、生成された海苔は深海の闇藻という、ちょっとクセの強い海藻。
おにぎり闇藻巻きのレシピは領地で取れる美味しい米を炊く。米に塩を振る。塩は重要。握る。心を込めて。具材を入れる。問題は具材でツナマヨや鮭フレークはない。
「具材は領地特産のベーコンと保存魔法がかかったチーズでいこう」
こうして、特製ベーコンチーズ闇藻おにぎりが誕生した。完成したおにぎりをミーシャが品定めするように眺める。
「見た目は黒い紙が巻かれた雪玉?これが、そんなに美味しいの?」
「手軽さと完璧な栄養バランスを体現した芸術作品。食べてごらん」
ミーシャが一口かじると、パリッとした闇藻の香ばしさとベーコンの塩気、とろけるチーズの組み合わせに思わず目を見開く。
「な、何これ!こんなにシンプルなのに、手が止まらない!これは、忙しい公爵夫人のための秘密兵食になるわ」
「若いのになぜ夫人目線?」
どうやら、ミーシャもおにぎりの魔力に取り憑かれたよう。
翌日、コンビニは本格的に営業を開始した。陳列棚にはエンティの知恵とスキルで生み出された商品がずらり。
棚には異世界版ポテトチップス。大地のパリパリ味。
冷蔵ケースには異世界版牛乳プリンに謎のフルーツジュース。
レジ横には肉まん、フランクフルト、異世界版カフェオレの魔力豆ブレンド。
公爵家はエンティが突然商売を始めたことで、領地の話題の中心になった。最初は半信半疑だった住民たちも、次々にコンビニの幸せな匂いに誘われてやってくる。
フランクフルトと、いつでもどこでも手に入る冷たい飲み物が大人気。エンティは手動レジ打ちをしながら、興奮を隠せない。
「やりましたお父様。今日の売り上げ、銀三枚です。領地の商売としては大成功ですよ」
お父様は手に持った肉まんを嬉しそうに頬張りながら、目を細めた。すっかり肉まんを手放せなくなったらしい。いつでも欲しいと言うくらいだ。
「うむ、エンティ。このこんびにという店は実に、皆の胃袋と心を満たす魔術のようだなぁ」
婚約破棄から始まったエンティの第二の人生は、領地の片隅で湯気と香ばしい匂いを放ちながら、順調すぎるほどの滑り出をした。
「今日は大根がよく売れたな。畑で育てた甲斐があった」
公爵であるお父様は今現在、肉まんの仕入れ係と大根の在庫管理係を兼任する、立派なコンビニの裏方担当。
季節は秋を迎え、アヴニール領の夜は少し肌寒くなってきた。そこでエンティが満を持して導入したのが、コンビニ最強の温かさを誇る商品。おでん。
スキルで生成した専用の什器から立ち上る出汁の香りは、肉まんの油とはまた違う、優しくて安心感のある匂い。
「お父様、出汁の香りが人を呼ぶんです。夜勤明けの衛兵さんや遅くまで畑作業をした方にとって、温かさが何よりのご褒美なんです」
しみしみ大根は、この世界でも大人気。煮込まれた具材が異世界の食材でできた出汁を吸い込み、一口食べれば「ふっ」とため息が漏れる美味しさ。
コンビニには食べ物以外にも重要な役割がある。それはちょっとした便利を提供すること。レジ横のスペースに情報コーナーを設置した。
そこに並んでいるのは、スキルで生成した前世の知識に基づくアイテムたち。
異世界版ゴシップ誌。もちろん内容は領地内の平和なゴシップがメイン。領地の気象情報と農作物の育て方をまとめたミニ冊子。
子供向けの塗り絵の魔物と仲良しになろうシリーズ。最初はおにぎりを買いに来ただけだった住民たちが、情報コーナーで立ち止まるようになる。
「アヴニール家のご子息様の今日の失敗談が載っておるぞ!」
「塗り絵とやらは面白い!集中すると、一日中嫌なことを忘れられる」
人気が出たのは今日のエンティ様のおすすめコーディネートというページ。ミーシャが「趣味に合わない」と言いながらも毎日熱心にコーディネート案を提供していた。
公爵夫人であるお母様は、最初はお客様と目を合わせるのも緊張するご様子。しかし、肉まんを食べて以来、すっかり店の雰囲気が気に入ってしまったお母様は、いつの間にかレジ打ち担当に収まっていた。
お母様はレジでのお金の受け渡しが少し苦手。
「ええと、肉まんと大根で銅が二十五枚。お客様、お出しいただいたのは……銀一枚ですね。お釣りは銅七十五枚でよろしいでしょうか」
計算機がなくてもそろばんを弾くように正確だ。ある日、一人の子供が大事そうに握りしめた小さな銅貨をレジに差し出す。
「お、おでんのちくわぶを一つください……」
ちくわぶは少し珍しい食材。硬い食感に慣れない子供たちには敬遠されがち。お母様は、その子の目線までかがむ。
「ちくわぶね。偉いわ。これはね噛めば噛むほど出汁の愛が染み出てくる、不思議な食べ物なのよ」
熱すぎないようにおでんを袋に入れ、にっこり微笑んで渡す。はにかみながらお母様に感謝を伝える。
「ありがとう、公爵の奥様!……じゃない、お、おばちゃん!」
おばちゃんと呼ばれた瞬間、お母様は一瞬固まったが、すぐに柔らかく笑う。
「ふふ、そうね。ここではレジのおばちゃんが一番しっくりくるかもしれないわ」
公爵夫人が領地の子供に「おばちゃん」と呼ばれる小さなコンビニはアヴニール公爵家と領地の皆との間に、温かい心の距離を生み出す。
アヴニール領にも、ようやく初夏が訪れた。おでんは一旦お休み。暑くなると人が求めるものは一つ。冷たいものだ。
しかし、この世界で冷たいといえば、魔法使いが高額な対価を取って作る氷の塊しかなく。
「夏はアイスクリームで決まり!」
エンティはスキルで生成した業務用冷凍庫を自慢げに叩く。異世界転生者専用のオーバーテクノロジー。
「お姉様、またそんな謎の機械を持ち出して……」
ミーシャは呆れたが彼女も連日、レジ横のフランクフルトの匂いに負けず情報誌の作成に熱中している。
「大丈夫よミーシャ。冷凍庫と領地で取れる濃いめの牛乳、黄金色の蜜を使えばきっと誰もが夢中になるスイーツができる」
試行錯誤を繰り返し、完成させたのが異世界版アイスクリーム。生クリームを泡立てるという発想がないため、牛乳と蜜を混ぜたものを極限まで凍らせるというシンプルな製法。
食感は濃厚なミルクジェラートといったところか。完璧だ、完璧。
「ルスッコ、試食をどうぞ。名前は……エンティ特製凍結ミルクでどうかな」
ルスッコが一口食べると冷たさと甘さに、驚きで目を見開く。
「な、なんという口どけ!脳天を貫く冷たさの後に、濃厚な甘みが残る!貴族の避暑地の贅沢品にも匹敵します!」
問題はこれをどう領民に伝えるか。
「お姉様、凍結ミルクなんて硬すぎるわ。これじゃあ冷たい液体よ」
ミーシャが顔をしかめてツンデレ魂が、ここで火を噴く。
「口どけの滑らかさとミルクの優しさを表すには……そうね。とろけるミルキーの精よ」
「へ?それはちょっとファンタジーに寄りすぎな気が」
結局、二人の折衷案でアヴニール家の雪解けミルクという、少し高級感のある名前に落ち着いた。アヴニール家の雪解けミルクは、瞬く間に領地の人気商品となったし、若者たちに大人気。
「おい、今日の放課後、雪解けミルクでクールダウンしようぜ!」
「いいな!ついでに大地のパリパリも買って、レジのおばちゃん(母)に今日のゴシップを聞こう!」
夕方になるとコンビニの前には、領地の若者たちが集まるようになった。彼らは店の前に設置されたベンチに座り、冷たいスイーツを分け合い、情報誌を読んで笑い合う。
コンビニは若者たちの新しい社交場になっていた。公爵であるお父様も様子を嬉しそうに見ている。
「領地の若者たちのエネルギーの源になっているようだ。争いも起きず、皆が雪解けミルクをめぐって平和に語り合っている。素晴らしいことだ」
お父様はそっと冷凍庫に向かい、自分用の雪解けミルクを一つ取り出して店の奥でこっそり食べ始めた。太るよ。
ミーシャがエンティにそっと尋ねた。
「ねぇ、お姉様。このこんびにって結局、王太子に振られた悔しさから始めたものなんでしょう?」
エンティは雪解けミルクをスプーンですくいながら、ミーシャに微笑みかけた。
「ううん違う。もちろん最初は肉まんがない世界なんて終わってる!って思ったけど今は、領地の人たちが毎日ちょっとだけ幸せになれる場所を作りたいだけなの」
「そうなんだ」
お母様がレジから二人に声をかけた。
「エンティ、ミーシャ!おにぎりの具材が残り少ないわ!次は森で取れたキノコのオイル漬けを入れてみましょう」
お父様が奥から大声で応える。
「それだ!森の宝石おにぎりと名付けよう」
目標は深夜営業。領民の多くが夜には眠りにつくこの世界で、いつでも開いているという概念は革命的。
「お父様、領地の衛兵さんや夜通し作業をする鍛冶屋さんから、夜食の要望が多いんです。夜コンビニを開きましょう」
お父様は目を輝かせた。
「衛兵たちの士気向上にもつながるだろう」
かくして、アヴニール公爵家のコンビニは、夜九時までの営業時間から、深夜十二時までの延長営業へと踏み切った。
──カチリ。
店の看板の蛍光灯がつく、乾いた音が夜の静けさの中に響き渡る。深い藍色の空の下、コンビニの窓から漏れる光は領地の灯台のようだ。
周囲の家々の窓がすでに暗闇に沈む中、この店だけが温かいオレンジ色に輝いている。レジに立ち、ほっとため息をつく。
「静かだけど、なんだかワクワクするね」
レジの奥のホットスナックケースからは、鶏肉の香ばしい匂いとおでん鍋から立ち上る湯気の微かな音が聞こえる。静けさと店内の生きている音のコントラストが心地よい。
夜、最初の客は鍛冶屋の親方。顔にすすをつけ、作業着は油で汚れている。
「おう嬢ちゃん。本当に開けてくれたのか」
親方は店に入った瞬間、おでん鍋に吸い寄せられた。
「うお、この匂い……身体の芯から温まる匂いだ。すまんが、しみしみ大根とちくわぶをもらえるか」
手早く出汁を切った大根を渡せば親方はベンチに腰かけ、ハフハフと熱い大根を噛みしめる。顔に一日の疲れが溶けていくのが見て取れる。
「ありがとな嬢ちゃん。店ができてから夜の仕事もちょっとだけ楽しみになった」
胸の奥がキュンと温かくなるのを感じた。その時、ふとエンティは窓の外に目をやる。
誰もいないはずの店の前、暗闇の中に一台の黒塗りの馬車が停まっていた。馬車には、見覚えのある紋章が刻まれている。
「は?」
(まさか……あの紋章は王太子の……あいつの?)
スプーンで雪解けミルクをすくう手が止まると考えて「地味で趣味が合わない」と言って婚約を破棄したはずの、あのキラキラの元婚約者が、なぜ今、こんな領地のコンビニの前に……?となるわけで。緊張が走るとすぐにプッと吹き出す。
(まぁいい。どうせ冷たいものでも買いに来たんでしょ。世界で一番美味しい雪解けミルクを。元婚約者の売ってるものをどの面下げてね)
冷凍庫を開け、とびきり美味しい雪解けミルクを一つレジ下に準備する。
小さなコンビニが夜に大きな波紋を呼び始めたのだろう。
これらを食べた王太子が復縁を迫ろうと、望もうと懇願しようと一つも得られないことに絶望する顔が目に浮かぶ。客として売るのはいいが、先行優先が欲しくて媚びる言葉は誰にも響かない。
家族経営は最強なのだと見せつけてあげよう。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。




