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5.ある教師の暗躍―ポテトサラダと白ビール―

シリアス方面に向かいます

「お久しぶりですね、オフィーリアさん」


「カート先生、お見えになると思ってました」


学び舎では目立たないようにしている先生が、実は整った顔をしていると気付いたのは聖女候補になってからだった。

国王陛下に似ているな、と思っていたが、エリザベータがあっさりと王弟だと教えてくれた。

隠してはいないが積極的に公開もしていないため、気付いている者は少ないのでは、とはエリザベータの談だ。

国王陛下を近くで拝したことはないが、エルンストと同じ栗色の瞳だとエリザベータが言っていたことも思い出す。


「すみません、お昼を沢山いただいたので、軽めに……ポテトサラダと白ビールをお願いします。

オフィーリアさんも同じもので?」


「はい、遠慮なくいただきます」


ボトルではなくグラスで頼むということは長居する気もないのだろう。

言いたいことの予想はつくがカートが切り出すまでは待つことにした。


「……さて、どこまで予想していますか?」


「直球ですね。ま、あくまで推察の域を出ませんが」


白ビールを一口飲んだカートは楽しそうに栗色の瞳でオフィーリアを見た。

オフィーリアはポテトサラダを食べてから白ビールを飲み込んだ。

やはり胡椒が強めのポテトサラダと白ビールの炭酸が喉をおりていく感覚は素晴らしい。


「そう、まず疑問に思ったのは3人のアミュレットです。

普通、大きな力だけではなく微弱な力も防ぐようにするんじゃないかと思いました。

わざわざ王妃様が用意した、ということでおびき寄せる意図があったのでは、と。

王妃様が用意するなら恐らく血縁関係のある先々代のアミュレットです。

しかし先々代のアミュレットは微弱な力には反応しない、と授業で習うくらいなのでそこが隙になると」


「それで?」


「その授業はカート先生、貴方の授業でした。偶然でしょうか?」


オフィーリアがカートを見つめて問うと、カートは首を傾げて口角を持ち上げるのみだった。


「エルンスト様は先々代のアミュレットを渡された時点でエリザベータか私に補強を願い出るべきでした。

予測ができない、というのは国の舵取りをする身では危険ですからね。

そしてセシル様も、普段とは違うと頭で分かっていても分析できていない。

そしてルーティンを崩すことを厭うのであれば対応策も考えるべきです。

いつも同じ時間に図書室にいるならば護衛は日替わりにする、とか。

若しくは生徒たちの動向を見張る役割の人間を育てるべきでしたが、彼はルーティンを崩さなかったしその役割の人間を育てなかった」


そこで言葉をきったオフィーリアをカートは肯定した。


「そうだね」


オフィーリアはポテトサラダのハムを咀嚼してから続けた。


「レオン様も、筋力だけではどうにもならないことを知らなかった。

聖女候補になり得る私たちの力を過小評価しすぎている。

エルンスト殿下をお守りする立場ならばそれは危険です」


「ふむ。それで、私が来ると思った、とは?」


オフィーリアは追加注文した白ビールを半分一気に飲み干した。


「タイミング、ですね」


「タイミング?」


「ええ。エルンスト様に行動をさせるなら力を使った人間にはあの日しかなかった。

ローデック男爵令嬢すらも駒でしかないのでしょう。

彼女は単に『今日が最後のチャンス』と『ドアストッパーが邪魔だ』と『ウサギ小屋に運ぶ人参がある』と言う情報を誰かに聞かされただけなのでは?

誰か一人でもその違和感に気付き対策をすればあの日の茶番は防げた筈です。

()()()()エリザベータが登校していたのですから、エリザベータも全力で止めると予測されたのでしょう。

セシル様は遅れてきましたが、非力でもエリザベータと一緒であれば止められた筈です。

恐らくあの時レオン様も近くまでは来ていたようですね。

ただ、私の怒りが爆発する方が誰かさんの予想よりも早かったのではないでしょうか」


「なるほどね……。それで?」


「セシル様は貴方に部屋の扉を開けて貰った。

レオン様は貴方が呼びに行き教室を指定していた。

エリザベータが預かった王妃様からの伝言は恐らくは国王陛下、か貴方からではないかと推測しています」


否定も肯定もせずに笑うだけのカートにオフィーリアは白ビールを飲み干し、新しいものを注文した。

届いた白ビールを一口飲み、オフィーリアは俯いた。


「恐らくは、今週中に3人のアミュレットが力に反応するでしょう。

そこで、元側室には娘さんのやらかしの責任を取ってご退場いただく、というところでしょうか。

少し退場のタイミングが遅れてしまったけれど目処がついた、といったところですか」


カートは喉の奥で笑う。


「本当はもう一つ気付いているだろう?」


「……憶測でしかないんですがね、恐らくは、アミュレットが反応する力は2つ。

元側室が先にお産みになった方も一緒に退場、でしょうか。

ローデック男爵令嬢に情報を吹き込んだ人物の動向を監視していたから、タイミングよくそんな事ができたのでは?」


「そう、王族は聖女の力に似た力がある。

力を使われると『自分がこの人を守らなければ』と心酔にも似た気持ちを抱く。ある種のカリスマ性だ。

だが、あの子は自分自身のカリスマ性を高めるのではなく、第三者の嫌悪を煽る方に使ったんだ。

悪用したと知って野放しにするような甘さは、兄にはないものでね。

野心なく過ごしていたら穏やかに暮らしていけただろうに……」


カートは目を伏せ、「バカな子だ」と呟いた。


「大馬鹿ですよ。本当に。

野心なんか持たなければよかったのに。

そんで、私も、気付きたくなかったです。

でも力が、無くならなかったんですよ。

権力に怖気ついただけの無実の人間引っ叩いただけだったら、どうなっていたんでしょうね」


気付かないふりはもうできませんでした、とオフィーリアは俯いた。


「……すまなかったね」


「もう、いいですよ」


―殿下やセシル様、レオン様の近くに何度もいても違和感がない人物。

護衛騎士見習いの実習としての聖女候補の警護が裏目に出ている。

元側室が産んだ最初の子。


「聖女候補であれば彼らと対面する機会も多いですからね。

私だったのは、私が、聖女の最有力候補だと言われていたから、でしょうね。

彼は、どうなるんでしょうか」


「さあ、辺境の騎士団に入って一生国境警備だろうね。

子供も、望めないだろう。あの子の母親が義姉上に飲ませていた避妊薬は強力だから、同じものを使われるだろう」


本当に、野心など持たなければ、それなりに暮らしていけただろうに。

彼の半分だけの妹が、夢を見てしまったばっかりに。


―男爵家の小娘が王族と結婚を夢見るならば、国王の血を引く自分だって腹違いの弟がいなければ国王になれるのでは。

エルンストと彼女が共倒れになれば、自分を捨てた家族に復讐できる―。


エルンストのアミュレットに微かに残った力の残滓。

男爵家の娘が使った魅了とはまた違う、聖女を嫌悪する力。

エルンストに聖女を害させて、失脚させようとしたのだろう。

同時に、その原因となる腹違いの妹も、母親も、連座で処罰されればいいと。

何と穴だらけで成功率の低い賭けなのか。

しかも、それを次世代トリオの成長に利用されている。


「力の使い方、間違えたんでしょうね」


「まさか、反転して使うとは思わなかったよ。惜しい才能だが、平和な世には不要なものだね。

兄上に心酔させた状態で、送り出すようだよ」


カートとオフィーリアはそれぞれ白ビールを口に含んだ。


「やっぱ王族怖いですね……」


「そうだね」


国王陛下も、王妃も、元側室を許していない。

王妃は長く子ができないことを散々責められたらしいから、それも仕方ないだろう。

国王陛下は、多分一服盛られて迎える羽目になったと予想をすれば絶対に側室を受け入れないだろう。

そこまでして、彼女は何を求めたのか。


「権力なんて、過ぎれば恐ろしいものなんですがね……」


「上澄みだけを浴びたい奴らは一定数いるものさ」


オフィーリアは肩を竦めて残りの白ビールを飲み干した。

苦いものが喉の奥にこびりついているようだった。


5.終

国王陛下の腹黒さをもっと深堀したかった…。

敬語が砕けていくのは素が出ていくところを表現したかったので敢えてです。

何かもっとこう自然にどうにかできなかったか…。


先々代聖女は王妃様のはとこ。

結婚相手は王宮文官。安定最高

関係ないかなって入れなかったのでここで紹介。

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