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4.騎士団長息子の反省―サイコロステーキと赤ワイン―

セシルとレオンは聖女候補には様をつけます。

聖女になる確率が高い=王族に連なる可能性が高い

小ぢんまりとした酒場に相応しくない体格のレオンが深々とオフィーリアに頭を下げている。


「申し訳ない。

まさかあの日に殿下がやらかすとは……」


「謝罪は受け取りました。

まぁ、私も頼りにならない縁が切れたのでよしとしてます」


そもそもあの場にいなかったのだから止めようもない。

理不尽なことを言うつもりはオフィーリアにはなかった。

ただほんの少し、婚約者候補の彼と縁が切れたことは悲しいと思っていたが、誰にも言うつもりはなかった。

地味だけど意外に整った顔立ちで、栗色の瞳を細めて笑う顔に惹かれた事は否定できないな、とオフィーリアは思った。


「それじゃ、アミュレット見せて下さい。

うん。やっぱり先々代ですね。王妃様と先々代は……ああ、親戚同士か」


恐らくその伝手で手に入れたのだろうが、小さな力には反応しないためこうなった。

アミュレットが反応したら即処罰の対象になる。

アミュレットは目立つように身に着けているため、

ある種の抑止力になっているはずだったが…。

イヤーカフをレオンに返しながらオフィーリアは当日の行動を確認した。


「レオン様はあの日ウサギ小屋に?」


レオンが注文したサイコロステーキをありがたく頬張りながらオフィーリアはあの日の行動を確認していく。


「ああ、いつもなら誰かに頼まれても業者の手配をセシルに頼む筈なんだが、なぜかあの日は自分でやらなければ、と思ってな。

セシルも何も言わずにいたが……」


「頼まれたから、って責任感の強さを逆手に取られましたね。

私達学び舎の生徒は頼むのであればセシル様に業者の手配を依頼します」


レオンが注文した赤ワインをゆっくり飲み込み、オフィーリアはセシルの言い分を思い出していた。

セシルには言わなかったが、恐らく宰相はそこをセシルが気付くのかも冷静に観察している筈だ。

気付くまではパターン分析と素振りは続くだろう。

気付いたとしても素振りは続けて欲しいとは思うが。


「レオン様は素振りをしているとか。セシル様もまだ?」


「ああ、今日もセシルと汗を流してきた。

あの日を踏まえて父にもっと考えて行動しろと言われてな。

そこで俺は考えた」


赤ワインで肉を流し込みレオンは胸を張った。


「俺にもっと筋力があれば人参の袋を早く運んで戻れただろうと」


「ダメだこいつ」


何故自分に依頼がきたのかを考えろ、という意味だろう。

現在の騎士団長は恐ろしく強いが、同時に何重にも策を巡らせると有名だ。

宰相も騎士団長もまだ二人の行動を肯定も否定もしていない。

セシルは対応策を考えさせられているが、素振りにまだ行っていると言うことは正解に辿り着いていない。

レオンは筋力増強を目指しているので論外。


「……側近候補が試されている、か」


「何か言ったか?」


「いえ、何も。それで、貴方に人参を運ぶよう頼んだ方を覚えていますか?」


セシルははっきりと覚えていない、エルンストは覚えていない、と言うことは、まずエルンスト、セシルの順で力を使っている筈だ。

短時間で使っているのであればレオンは覚えているかもしれない。


「確か、オフィーリア様と一緒のクラスだったと思うが……」


目を閉じて考え込んでいるレオンの回答を待ちながら、オフィーリアはミディアムレアのサイコロステーキを次々と口に運んでいく。

辛口の赤ワインがよく合う味付けだ。


柔らかい肉を堪能しながらオフィーリアも考えていた。

皿が空になったので勝手にサイコロステーキを追加したが、レオンはまだ考え込んでいた。


……エルンストは陛下に理詰めで責められた、と言うことは未だ後継のままだろう。

陛下は見限った相手とは会話もしないと有名だ。

オフィーリアが生まれる前、王妃を害そうとした側室は言い訳も許されず即日何処ぞの男爵に下賜されたと聞いている。

弁えない方だと有名で、実家のゴリ押しで側室になったとエリザベータが言っていた。

元々は王妃の実家と対立する公爵家の令嬢だったようだ。


陛下は政略とは言え王妃と仲が良く、最後まで抗っていたという。

王妃と同時に側室に迎えられた彼女がいなくなってから暫く後でエルンストが産まれていることを考えると、精神的な苦痛は相当だったのだろう。

聖女候補になったが貴族社会に疎いオフィーリアのため、エリザベータが特別授業をしてくれたが裏側を教えられすぎて王家と距離を置こうとオフィーリアは密かに誓っていた。


害されそうになった内容とは、王妃の飲み物に薬が混入されていたこと、だそうだ。

側室の侍女の独断の犯行ということで確かな証拠が掴めなかった。

そのため、侍女の監督不行き届き、ということで男爵に下賜されていた。

陛下の怒りは凄まじく、側室の実家が娘を説得して男爵家に向かわせなければそのまま手を下しそうな雰囲気だったらしい。


因みにエリザベータの父親が王妃の弟にあたるが、強大な権力を厭い、エリザベータとエルンストの婚約を固辞したと聞いている。


周辺諸国との関係もそれなりに安定しているが、更に深い繋がりを求めた結果、エルンストの婚約者は隣国の第二王女に内定している。

しかし王女が成人していないため告示はされておらず、エルンストは学び舎の聖女候補から婚約者を選ぶのではないか、と噂されていた。

そのためエルンストが在学している今、聖女候補達による婚約者の座を掛けた戦いが発生している。

基本は聖女候補の資格を失いたくないため、ちくりと嫌味を言う程度ではあるが、その中で際立って激しい少女がいる。

それでも資格を失わないので計算高いのだろう。


「……あの子男爵家だ」


エリザベータとオフィーリアを『悪役令嬢』と呼んでいた少女は、男爵家だ。

下賜されてすぐ産まれた子は養子にだされたそうで、国王により血縁とは認められていないらしい。

余程側室のことを厭うているのだろうとエリザベータはオフィーリアに説明していた。

そして、その暫く後に男爵との間に女の子が産まれている、と。


(……王妃様と側室。男爵家で産まれた少女は私と同じ年)


そして2人を悪役令嬢と呼んだ、確かその少女の家名は―。


「「ローデック男爵令嬢」」


オフィーリアとレオンの言葉が重なった。


「何だ、知っていたのか」


「いえ、何となく。そうですか」


この機会に元側室の一族を退場させる気だろうが、序でに次世代トリオの鍛えなおしも兼ねているのだろう。


(王様怖い……)


オフィーリアが追加の肉を頬張っているとレオンが続けた。


「だがな、人参を運んでいる途中でカート先生が追試があるから早く来るように、と探しに来てくれたんだ。

その時まで追試のことをすっかり忘れていたが、急いでカート先生が指定した教室に向かった。

その教室の隣の教室の扉の前で、顔を腫らした護衛騎士見習いが蹲っていた。

オフィーリア様とよく一緒にいた、ミッシェルだったか?

一応声をかけたが、中が騒がしかったから急いでセシルにそこでおきたことを聞いたんだ」


「ミシェルですけどね。あんたよく私の前でその名前出しましたね」


もしオフィーリアにもう少し忍耐力があれば、3人がかりで止められてエルンストも違和感を覚えただろう。

しかし、恐らく予想よりも早くオフィーリアが激怒したため、副産物でオフィーリアとミシェルの婚約(口約束ではあったが)がなくなり、オフィーリアは放逐されエリザベータの結婚が延期になった。


エリザベータ次第だが、オフィーリアは次世代トリオへの制裁が軽いように祈るしかなかった。


「お、肉が足りないな。

すまん!サイコロステーキを5kg追加してくれ!」


明るいレオンの声を聞き、『まぁいいか』と気持ちを切り替えたオフィーリアは再び運ばれてきたサイコロステーキと赤ワインを堪能した。

レオンが帰り、空になったグラスを見詰めオフィーリアはそれまでのことを整理していた。


4.終

騎士団長は直情型のレオンを心配して考えろと言ったのに何故かトレーニング量を増やした息子に頭を抱えています。

因みにオフィーリアが放逐されても力を失ってないのはエルンストの言い分が冤罪だからです。

婚約者候補引っ叩いたけどな。


肉4kgはレオンが、残り1kgはオフィーリアが美味しくいただきました。

友人との食事で食べたいものを聞かれて「タンパク質」と答えて怒られました。しょぼん。

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お肉はおいしいからね、しかたないね。
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