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3.宰相子息の嘆き―生ハムのピンチョスとロゼワイン―

聖女候補は品行方正でなくてはいけない。

決してこんな酒場でワインを水のように飲むイメージではないが……。


「オフィーリア様は、力はそのままで?」


あの日必死にエルンストの暴挙を止めようとしていたが、結局止めきれずにすみません、とセシルは頭を下げた。


酒場に来たエルンストに伝言を頼んだが、しっかり伝えてくれたらしい。

セシルは一人で訪ねてきたが、どこぞの生徒にされた精神干渉も共有済なのだろう。

表情がやや強張っている。


エルンストと同じように四人がけの席で頭を下げるセシルの前には何種類かの生ハムのピンチョスとロゼワインがボトルで置いてある。


「私はあんまり強くないので、オフィーリア様も宜しければ」


とセシルがオフィーリアのグラスにロゼワインを注いだ。

因みに、セシルのグラスには三分の一しか注がれていない。

どうやら、殆どオフィーリアに譲る気のようだ、とオフィーリアはご機嫌になった。


「力はそのまま、特になくなる気配もありませんねえ。

私の聖女の就任がなくなれば次代の聖女はエリザベータと決まっていたんですが、どうやらそれを知らない人が色々やってくれたと予想してます」


遠慮なくピンチョスを口に放り込んでオフィーリアが説明する。


「なるほど…。では残り8人の聖女候補は外れますか……。

聖女選定の日にその説明もありましたよね?」


「ええ、全員聞いているはずです。

私の次はエリザベータ。もしエリザベータもダメなら再度2人聖女候補を立てて10人で選定ですね」


セシルが口元に手をあて考え込んでいるのでオフィーリアは追加のボトルを頼みピンチョスも大盛りで追加した。


「……あの日、私もエルンスト様が急にあんなことを言いだすとは思っていなかったのです。

父に、対策の不備を考えるように指示されましたが……アミュレットを過信しすぎておりました。

オフィーリア様にはご迷惑をおかけし大変申し訳ございません」


考えを纏めたセシルが改めてオフィーリアに頭を下げた。


「ま、いいですよ別に。

セシル様は必死に止めてくださいましたからね」


「お恥ずかしい話ですが、私はどうにも体力が…。

レオンがいれば止めてくれたはずなんですが、何故かあの日レオンも用事を言いつけられて」


一口ワインを飲んだセシルは眉間に皺を寄せた。


「ただ、誰がレオンに用事を言いつけたのか分からないんです。

そして私も、エルンスト様を止めようとしてはいましたがあの場に着いたのは途中からでした。

最初からいればエルンスト様に水をかけてでも止めたでしょう。

話し始めたエルンスト様は途中だと止まらないので……」


「為政者としてはちょっと、というか大分致命的ですね。

実際あの日何があったんですか?」


エルンストの机の上には小さな水差しがあったことを思い出した。

あの位の重さなら持てるのか…。あの水は飲料水ではなくエルンストを止める用の水なのか、とオフィーリアは少し考えこんだ。


「あの日、レオンが誰かに呼び止められて……。

そう、何故かウサギ小屋に人参を30袋運ぶように言われていたんです。

アミュレットも反応していませんでした」


イヤーカフのアミュレットを示すとオフィーリアは目を細めた。


「これも、先々代か……。王妃様がご用意なさった?」


「はい、エルンスト様とレオンと私のものは王妃様から……」


オフィーリアはイヤーカフを手に取り力を籠めなおした。


「はいどうぞ、エルンスト様と同じことやっときました。

で、レオン様がウサギ小屋に行ってあなたはどうしたんですか?」


「図書室に……。

でもいつもドアストッパーをかけるんですが、あの日に限っては何故かドアストッパーをかけなかったんです。それを疑問にも思わず。

そうしたら……」


そこまででセシルは恥ずかしそうに俯いた。


「そうしたら?」


ワインをグラスに注ぎながら先を促すオフィーリアに視線を戻し、セシルは答えた。


「ドアが重くて開けられなくなってしまって、出られなくなりました」


「自主的に監禁されてんのかお前」


すみません、と呟いたセシルを無視してオフィーリアは考えた。


「行動パターンが読まれてますね。

ということは聖女候補になりたい子の仕業、かな。

学び舎にいれば大体の行動は把握できますからね」


はい、と項垂れるセシルはその点も父の宰相に指摘されたのだろう。

毎日同じ行動をしている場合、罠も仕掛けやすいが行動も読まれやすい。

なぜ対策をしなかったのか、と。


イレギュラーが発生した時の策を最低10パターンは用意しておくべきだと絞られました、とセシルは苦笑いした。


「いやいや、そもそもセシル様がドアの重さに勝てれば良かったのでは……」


本より重いとは言え、入学したばっかの女子でも開けられますよあれ、と止めを刺されてセシルは半泣きだ。


「これからは毎日レオンのお宅に行って素振りの練習を言いつけられました」


今日も行ってきました、と頬をかくセシルの手は確かに以前より荒れている。


「あまり無理はなさらず。

で、どうやって出られたんですか?」


「それが、偶然にもレオンを捜しにきたカート先生が開けてくれました。

レオンが追試に来ないので私の傍にいるだろうと。

私はいつもあの時間図書室にいますから」


レオンは何でも平均的にできるのだが、カート先生のテストは苦手でたまに追試を受けている。

たまたまあの日、カート先生の追試が急に決まって朝本人に通達があったという。


「それを知っているのは誰ですか?」


「カート先生は追試がある生徒にしか集合場所と時間を言わないんです。

だから知っているのはレオンとカート先生、それから愚痴を聞いた私だけですね」


「追試が一人……。レオン様はセシル様には言うだろうけど他に言う人もいないですね」


その通りです、と頷くセシルにオフィーリアは当日の学び舎の様子を思い出していた。

聖女選定の一週間後に聖女任命がある。

聖女任命の前日、あの日しかチャンスはなかった筈だ。

レオンを遠ざけたということは追試があることを知らずにいたため、レオンを捜していたカートによりセシルが解放されてしまった。

そのため、予想より早くセシルがエルンストを止めたのだろう。

エリザベータも止めていたが、確かエリザベータも登校の予定ではなかった筈だ。

同級生は皆エリザベータが来ていることを知っている。

エリザベータが額に青筋を立ててエルンスト様を訪ねる予定ですの、と言っていた。

恐らく伯母である王妃に言伝てを頼まれたため、婚約者と会う時間を割いての登校だろうと全員が悟っていた。

聖女選定から任命まで、自由登校になるのでエリザベータは登校せずに結婚式の準備を進めると公言していた。

エリザベータが聖女に選ばれていたら延期になるのに、どうするのかなとオフィーリアは思っていたがエリザベータには言わなかった。

早く済ませてしまいましょう、とエリザベータが教室を出た後で………一人、登校してきたクラスメイトを思い出したが、オフィーリアはその事実だけを認めていた。


それがどう関係するかはわからないが―。


ただ、そのクラスメイトは常に自分が聖女になる未来は確定ルートだ、とよく分からないことを言っていたので漠然とした不安が湧いてくる。

オフィーリアとエリザベータに向かって「邪魔すんじゃないわよ悪役令嬢が!」と叫んでクラスメイト全員から距離を取られてはいるが、まさか……とオフィーリアは頭を振った。


ボトルがすっかり空になり、ピンチョスも粗方食べ尽くしたオフィーリアは満足そうに頷いた。


「よく分かりました。さて、謝罪も受け取りましたしアミュレットもいじったのでもう用件は終わりですね。

お疲れ様でした。レオン様にお待ちしておりますとお伝えください」


「はい、必ず。

オフィーリア様、輝かしい経歴になるはずだったのに大変申し訳ございませんでした……」


「ま、元々庶民なので影響はないですよ。

結局は任命式まで誰が聖女か、寸前で交代したのかは分からないですからね。

今後は気を付けてください。体力もつけてくださいね」


はい、と笑うセシルはふらふらと店を出ていった。

残されたオフィーリアは追加でロゼワインを頼むと暫く考え込んでいた。


3.終

宰相息子編終了です。

オフィーリア様は王子以外にはちょっと口悪いですが皆許してます。

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― 新着の感想 ―
んんんんんんー? これは脳内お花畑の自称ヒロイン転生者のかほりですかねー……?
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