エピローグ そして新たな陰
「え?私の罪は不問?」
「じゃって、お前の力がなければ、魔王討伐は不可能だったのだろう?
もう悪いことはするなよ。」
「良かったじゃねえか、ナイト!」
俺はナイトの背中をバンバン叩いたけど、ナイトは浮かない顔をしている。
「しかし、それでは魔王さまが……。」
「いや、魔王は今うちで働いてるから。」
「は?」
「どういうことだよ。」
「いや、うちも人手不足で魔物でも捕まえるよりは働いてもらいたいんじゃよねー。
罰として無賃労働じゃけど。」
「社畜じゃねえか。」
「人の心がありませんね。」
「じゃがキモかわいいって、給仕の娘からもててるからいいかなって。」
「はあ!?あの野郎!!それは俺のポジションだろ!
おい王様!俺魔王討伐したのに全然もててねえぞ!」
「歴代勇者はモテてたんじゃがなー。」
「まずはそのくたびれた肌をどうにかしなさい。」
「うるせえ!」
「あ、お前が連れてきたスライムもうちで預かってるから。」
「人質か?」
「スライムはわずかじゃが回復能力があるからのう。医務室で働かせて大助かり。」
「あんな儚くか弱い生き物までタダ働きさせるとは……。」
「いや、あいつら洗濯のりあげれば喜ぶから。」
「そんな放課後の小学校の理科実験みたいなノリでいいの?」
「のりだけに?」
「うるせえ!!てか俺がスベったみたいだろ!!やめろ!!」
────あれから、俺は異世界で活躍して大団円、今は王国で平和に暮らしている。
……わけではなく、元の世界に帰された。
なんでだよ。勇者の特権を使ってもっと美味しい思いが出来ただろ。
なんて、今までの俺なら言っていた。
でも、きっとこれで良かったんだ。
俺は異世界転生しても俺は俺のままだったし、チートに頼らないでちゃんと努力をすべきだったんだ。
今は会社を辞めて、資格の勉強をしながら転職活動をしている。
「……で?なんでお前いんの?」
「王様が願いをなんでもひとつ叶えてくれると言うので。」
「はあ!?あの王、俺にはそんなこと言わなかったぞ!?」
「貢献度の差でしょう。」
「うるせえ!てか、お前は元の世界で平和に過ごせば良かっただろう!」
「私も異世界に興味があったのですよ。
来てみればいやはや楽しい。美容品が世界に溢れていて、特に女性は自分磨きに勤しんでいる。
私も働いて自分の美を磨くことにしました。」
「うるせえナルシスト。美容部員でちょっとモテるからって調子乗んなよ。」
「……本当はそばに居たかったのですよ。生涯でできた、たった一人の人間の友のもとに。」
「なんか言ったか?」
「あなたにはこの化粧水が向いていると言ったのです。」
「それお前んとこの商品だろ!お前の売上にはならねえぞ!」
「おや、あなたの肌に合いそうなのに。」
♪てんてろりん
「ん?レイン?誰から……。」
「もしもしタケシ?わしわし。」
ピッ
♪てんてろりん♪てんてろりん
「タケシ、うるさいですよ。」
「こっちのセリフだ!王てめえなんで俺のレインID知ってんだよ!」
「だってお前、この世界の勇者じゃし。
いざとなったら世界を守ってもらわんといけんから、代々連絡が取れるようにこの世界と繋げられるんじゃよなー。」
「俺に拒否権ねえのかよ。クソだな。」
「ところで、魔王が討伐されてから魔物があちこちで暴れてるから、ナイトと一緒に来てくれんか?」
「はあ!?ふざけんな!こっちは忙しいんだよ!!」
「給金は払うから。」
「100G分の商品券と木の棒で世界に放り出したお前を信じるとでも?」
「今暴れてる魔物、美人なんじゃよなー。」
「話を聞こうか。」
「こいつちょろすぎない?わしは楽だけど少し心配なんじゃけど。」
「まあ、私もフォローしてますから。」
「ごちゃごちゃ言ってんな、ナイト!異世界行くぞ!」
「はいはい。」
佐藤健。職業無職、時々勇者。
冴えない人生だけど、今日も世界と戦う。
to be continued。佐藤タケシ、現在レベル1。
???「こんなものが私に似合うと思ってるの!?」
「も、申し訳ありません。」
???「ったく、もっと、もっと綺麗にならないと……。」