俺の選んだ道
「ははははは!そんなものか勇者よ!」
「く、くそ」
バービーもナイトも倒れている。俺はかろうじて立っているだけ。
――数日前
「キングから封書が届いた。1週間後、旧魔王城で待つって。」
マジパンサンタのような気の抜けた顔も、この状況だと神妙に見える。
「いよいよか。」
「タケシ。これはこの世界の未来がかかってるよ。」
「それぐらい分かってる。」
「来なかったら、手始めにセントラル王国を地図から消すって書いてあった。」
「相手は本気ね。」
「言われなくても行くっつうの。」
「ナイト。」
「……はい。」
「そろそろ話した方がいいんじゃない?」
「……。」
ナイトのやつ、とうとう話さなかったな。俺はいい。俺はいいんだ。ナイトが何を隠してても。ただナイトがずっと一人で抱えてるのが気に入らない。でも、準備の間もここまで来る間も話さないのはあいつらしい。
俺と違って思慮深いのは、あいつのいいところなんだ。
「私は魔導石を元に、魔導石のレプリカをいくらでも作り出せる。
これがあれば、あっという間に旧魔王軍を凌ぐ軍団を作ることも可能!」
「俺は勇者だから、それを阻止するために来た」
「ふん、強がりを。……ビショップ!」
「は、はい!」
ビショップの魔法が飛び、俺は一瞬で拘束された。
ビショップの手には新しい魔導石のレプリカ。
前に取り上げたときよりも数段強力な光を放っている。
続けざまに、キングの衝撃波が襲いかかる。
この連携に、バービーもナイトも倒れた。
「さっさと負けを認めなさい! そして世界を渡しなさい!」
やば……意識が……遠のく……。
『うっ、うえっ……。』
『坊や、どうしたんだい?』
『今日も怪人役だった……。僕だってヒーローがいいのに!』
『君は、ヒーローになりたいのかい。』
『……うん!』
『そうか、ではこれを持っていきなさい。』
『何、これ。』
『ゲームだよ。』
『ゲーム!?』
『ああ。君だけが勇者になれる、とびきりの物語さ。』
「へ、へへ……。」
「こ、こいつ、まだ意識が!?」
もう自分が何をしているのかも分からない。キングの姿が霞んで見える。
「そうだよ。俺はヒーローなんて器じゃない。
世界の平和を守れるなんて器じゃない。
バービーもナイトも、いつも俺を信じてくれた。でも、何か違うとも思ってた。俺はずっとやられ役で、とっさにちょっとした知恵が回るのも、どうやったら少しでも殴られないか考えてたからで、ナイトやバービーが思ってるような人間じゃない。」
「ふん!この期に及んで自分の力量を認めたか。」
「そうだよ。勇者なんて、ド〇クエでもやって勇者気分になるのが1番なんだ。
世界の平和とか、仲間の信頼とか、ずっと重かった。ナイトやバービーがいればって思ってたけどさ、俺はとっくの昔から、勇者なんて辞めたかったよ。」
「ふはははは!負けを認めたか!では、さっさと負けましたと言いなさい!」
「……ビショップ。」
「な、なんだよ。」
「お前の気持ち、よく分かるよ。いじめっ子って怖いよな。怖くて怖くて、いつもどうやったら殴られないか考えちゃうよな。約束とか、友情とか、誇りとか、そんなの二の次だよな。お前みたいなやつがいて、俺は少し安心できたよ。」
「お前え!誰がいじめられてるって!?」
「ははは、その方がお前らしいや。」
「ふん、では何故お前は私になぶられ続ける?さっさと尻尾を巻いて逃げ出せばよかろう。」
「ここまで来たら、それは出来ねえよ。それに、お前を倒せばこの勇者ごっこも終わりだろう?
それで十分だよ。」
「ほざけ!」
キングが杖を掲げる。近くにあった石ころを拾う。思いっきり投げる。
「ぎゃああああ!目が!」
昔野球選手を目指していてよかった。最後の力を振り絞って、キングに走り寄り、キングの魔導石のレプリカを掴む。
「き、貴様何を!?」
「爆ぜろ……。」
魔導石は光り輝き、当たりを包み込む。
刹那、俺の前にはビショップの杖が浮かんでいた。
『何故だ、タケシ。この世界ではお前が中心、お前が主人公なのだ。』
『お前は知ってたんだな。いや、俺はそんな器じゃなかった。富も名声も、背伸びしてできた友達もいらない。うだつの上がらない一人暮らしが、何より大事だって今更気づいた。』
『昔は誰もが勇者になりたがった。今の現代人は皆お前と同じなのか?』
『皆かどうかは分からないけど、俺みたいなやつはいるんじゃないかな。普通に働いて、ゲームして、たまに友達と遊んで。それが幸せなんだよ。』
『つまらないやつめ。私の目は節穴だったか?』
『何を期待してたか分からないけど、俺はこういう人間だよ。』
『ふん、キングは滅びた。ゲームはクリアだ。お前は再び元の世界に戻される。』
『ああ、それでいいよ。』
『仲間に、言い残すことはあるか?』
『そうだな、ナイトは知ってたんだろ?この世界はゲームだって。あいつは繊細だから、自分の存在がデータだって認めたくなかったんじゃないかな。
ナイトに言っといてくれよ。俺はお前が何者でも良かった。バービーは、俺が居なくても元気にやるだろ。ああいうやつだ。』
『あいわかった。では、さらばだ。』
杖は姿を消し、俺の意識は遠のいた。
「……ん?」
俺の部屋だ。きょろきょろと辺りを見渡す。バービーが置いていったドライヤーもナイトの美容品もない。
……ああ、全部終わったのか。いいヤツらだったなあ。ゲームじゃなくて、勇者としてじゃなくて、普通に会えたら、もっと寂しかったのかなあ。
「不思議と気楽って気持ちが大きいんだよ……。」
今度は背伸びしないで友達や仲間を作ろう。
ハロー〇ークの求人サイトを開いた。
「タケシが、帰った!?」
「ああ、あやつには勇者は荷が重かったらしい。」
「そんな……タケシ……、本人はどう思おうと、あの人は間違いなく勇者だった!」
「なんで私達に何も言わないのよ!こんなの……こんなの認めない!」
「安心しろ。すぐに次の勇者は見つかる。お前たちも、すぐにそやつを好きになる。」
俺クエスト~完~




