VSルーク
あくる日。
ルークは息を整え、スコープを通して世界を削ぎ落とす。位置よし。装填よし。
眼下の一点に、目標がいる。勇者は一人──都合がいい。
「……万が一にも、ナイトに当てるわけにはいかねえ」
トリガーに力を込める。引き金の感触が手に馴染む。
弾は吐き出された。風を切る音がスコープの中でささやき、地面に小さな土煙が上がる。だが──当たらない。
「何だ、今のは……」
スコープの視界で、タケシの軌道が途中で途切れる。しかし狙いは明白なはずだ。弾が弾かれているように見えた。
ビショップの報告はこうだった。
「勇者は少し力があるだけの無能。」
ならば説明がつかない。ルークの胸に、じわりと不快が広がった。
「ルーク!」
「おお、ナイト。お前ならここが分かると思ってたぜ。」
「この辺りで高い建物はこの砦だけですからね。」
ナイトとルークの会話は、不自然なほど自然だった。まるで昨日の続きを話すように。
「相変わらず聡明なやつだ。
なあ、ナイト。戻ってこい。クイーンが新しい魔王軍を立ち上げたんだ。クイーンが密かに魔導石のレプリカを作っていたんだ。俺たち4人分だ。
お前の頭脳、ビショップの防御、俺の攻撃、クイーンのカリスマがあれば、また俺たちの時代を作れる。楽しかったあの頃に帰ろうぜ。」
「……生憎私は楽しくありませんでした。ビショップの執拗ないびり、クイーンの見下してくるような視線、無神経なあなた。」
「それでも俺は楽しかった!」
「あなただけです。都合のいい仲間が欲しいなら一人でやればいい。」
「お前たちだけだ!殺ししかできねえ俺を受け入れてくれたのは!魔王は所詮俺の戦力をかっただけだ!
お前たちは違う!1つしか無い酒を4人で奪い合った!1つしか無い酒を分け合った!一緒に笑いあった!あんなに楽しかったのは初めてだった!俺にはお前たちだけなんだ!」
刹那、ナイトの後ろから赤い瞳がカッと光る。
「あ……?」
ルークの視界は歪み、世界は反時計回りに回る。
『ルーク!それは私のお菓子よ!』
『ちょっとぐらい、いいじゃねえか。いてっ。』
『没収します。油断も隙もない。』
『あっ、ずりい!俺にもよこせ!』
『自分で買ってくればいいでしょう!卑しい!』
『ん?ナイト、それクイーンの菓子じゃねえか?』
『賞味期限が短く書かれたシールに張り替えたものです。おかげでありがたくいただけましたよ。』
『ははは!お前頭いいなあ!』
「クイーン……ナイト……ビショップ……。」
「うまくいきましたね。」
ルークは仰向けになって恍惚の表情を浮かべている。
「こいつ起こすの?」
「まさか。ルークは狙撃の精度を落とさないために、刺激が極限少ない施設を選びます。鳥のさえずりさえ聞こえないここでは、滅多に目を覚まさないでしょう。」
「……そっか。」
「魔導石のレプリカも倒れた拍子に落ちましたし、回収すればもう要はありません。」
「……ねえ。」
「はい?」
「魔王軍、楽しくなかったの?」
「楽しいわけないでしょう。賞味期限切れの食べ物を平気で押し付ける輩ですよ。」
「……そっか。」
何故自分をルークと接触させたのか、バービーは聞けなかった。ルークが仲間のために口を割らないことぐらいナイトは知っていたはず。しかし、バービーはぼんやりと感じていた。ナイトは自分の孤独とルークの夢を知っていて引き合わせたのかもしれない。全てが終わったら起こしに来よう。バービーは密かに誓った。




