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決戦前夜

とある酒場。


「マスター。いつもの。」


緑の軍服を着た男がカウンターにドカッと座り、勝手知ったるという風に気さくに話しかける。


「はいよ。久しぶりじゃねえか。」


店主も慣れた手つきで琥珀色の液体が入ったグラスを差し出す。


「今度でかい仕事があってな。景気づけさ。」


勢いよくぐいっと飲み干す。グラスを机に置くと氷がカランと鳴る。


「お兄さん、お隣いいかしら?」


ピンク肌の女性が後ろから顔を出す。勿論バービーだ。勇者のタケシ、元魔王軍のナイトと違い顔が割れていない。ビショップが報告している可能性も考えたが、そこはビショップは貸しがある相手に不義理はしないというナイトの賭けだった。


「おっ、あんたいい女だな。マスター、この子にも好きなものを。」


成功だ。賭けには勝ったようだ。バービーはにこりとルークの横に座る。


「あいよ。」


「気前がいいのね。」


「まあな。今気分がいいからな。」


「ふふ、何かいい事でもあったのかしら?」


「ふふふ、誰にも言うなよ。俺は今度、勇者を殺すんだ。」


「えっ!?」


驚いたふりをする。バービーの演技に気付かず、ルークは2杯目をくゆらせながら続ける。


「しっ!世間では勇者がこの世界の救世主だなんだって言われてるがな、俺からしたら疫病神さ。勇者のせいで俺の上司は力を失い、仲間も1人抜けた。部下はバラバラ、何もかもめちゃくちゃさ。」


「そうなんだ……。」


ルークは酒で潤んだ瞳を細める。苦虫を噛み潰したような表情をしており、バービーは何も言えなかった。


「だから俺は勇者をぶっ殺す。そしたら散り散りになった部下が帰ってくる。仲間だって帰ってくる。勇者がいなくなれば、全部戻ってくるさ。」


「……ふふふ、応援してるわ。」


「さて、帰るか。」


「えー、もうちょっといいじゃない。」


「準備があるのさ。勇者の抹殺はしくじれねえ。」


「……そう。」


ルークは後ろ手に手を振りながら、酒場を出ていく。ルークとの接触には成功したが、バービーは浮かない顔だった。


「(またあいつ浮気して!)」


「(もっと綺麗になれば私を見てくれる……。)」


「(魔王も勇者もどうでもいい。もっと綺麗にならなきゃ。見捨てられないように……。)」


……くだらない。


つまらないことを思い出したと顔を上げるが、バービーの気分が浮かないのは、情報収集が空振りに終わったからではなかった。


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