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沈黙

「なあ。」

返事はない。

「……。」

沈黙が続く。

「なあって。」

また黙り込む。

ここは俺の部屋。

二週間前、俺たちはナイトの提案でビショップの杖を取り返した。

“理由は後で話す”――そう言われてから時間だけが過ぎた。

だがナイトはいまだ口を閉ざしたままだ。


「まだ話してくんねえの?」

「あなたには分からないですよ。」

ナイトは頭が回る。その分、何でも抱え込みやすい性格だ。

戦いの時なら、それが俺たちを自由に動かしてくれる強みになる。

だが今は違う。

一人で――何かを背負い込んでいる。


「冷めてーな。俺たち仲間だろ?」


「あなたはこの世界の人間。私は異世界の魔物です。」


「今更だろ。それがなんなんだよ。」


「……。」


どうしてもだんまりを決め込むらしい。これが2週間続いている。気まずいわけじゃない。これは根比べだ。ナイトが折れるまで、俺もこいつと関わるのをやめない。


「はあ。ビショップはいなくなるし、なのに王からの呼び出しもないし、何が起きてんだよ。」


宙に目をやると、アパートのドアが無遠慮に開く音がした。


「おつー!元気ー?」


バービーだ。顔を見るのも久しぶり。確かモデルの仕事で遠征していたはずだ。帰ってきてたのか。今日は雨だからバービー自慢の白髪が雫できらりと光る。バービーと仕事仲間のナイトは知ってたはずだが、本人がこの調子だから俺には告げられなかった。


「これが元気に見える?」


うんざりしたようにため息をつく。


「何よー。辛気臭いわねー。ほら、差し入れ買ってきたから。」


「おっ、オール〇リーじゃん!さんきゅー。」


俺は下戸だ。休日や仕事終わりの一杯はノンアルコールビールと決めている。バービーは短い付き合いなのに俺の好みを覚えていた。


「ほら、あんたも。甘さ控えめぶどうジュース。」


「……。」


ナイトは相変わらずだんまりを決め込む。それでもバービーは気にせず、土産を押し付ける。ナイトは受け取った缶を見つめ、プルタブに指をかける――だが、開けることはなかった。


「私はビール飲んじゃうけどね〜。」


「つまみは?」


「あるわよ。ポテチとかチーズとか色々。」


「流石バービー先輩、マジリスペクトっす。」


「ふふーん、もっと褒めなさーい?」


「……。」


俺とバービーが茶化してみても、ナイトは見向きもしない。

バービーの声だけが部屋に弾んで、缶のプルタブを弾く乾いた音がやけに耳についた。


「さーて、何するー?」


「遊びに行く?」


「雨だからいやー。」


「なんだよ。じゃあ、ショッピング?」


「あんた気を使って適当に言ったでしょ。」


「うるせーな。」


彼女いない歴=年齢を舐めるなよ。どうせ女はカフェかショッピングに行けば喜ぶんだろって思ってる男だ。


「荷物持ちしてくれるならいいけど?」


「結構です。」


「ふふん。」


ふと、一案が浮かんだ。


「あ、俺見たい映画あったわ。」


「いいじゃん。みんなで見よー。」


「……。」


「ほら、ナイトも。」


バービーはナイトの腕を引っ張り、壁際に座らせる。強引だが、不思議と拒めない。

この力強さは俺には無い。ナイトにもだ。

――だからこそ、こうして救われている。気づかぬうちに。


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