ダメかもしれない
「全然なんとかなってねえ!」
街を出た俺は絶賛オークに追われていた。
動きは遅いが、1歩がでけえから油断したら死ぬ!
くそ!誰だチート能力1個ぐらいあるとか言ったやつ!
身体能力が元の俺のまんまじゃねえか!
魔法とかよくわかんねえし!
こういう時って頭の中に知らない呪文が浮かんでくるとかじゃねえの!?
何!?古いって!?うるせー!!
俺が好きなニチアサは東京ミュ〇ミュウだ!
は?それは土曜日?細けえこたあいいんだよ!
「……行ったか?」
オークってあんまり賢くないみたいだ。
命からがら茂みに飛び込んだら俺を見失った。
ふいー、とりあえず安心。
じゃねえよ。
たかだか通常エンカウントのオークに勝てねえのに、魔王ってどうやって倒すんだよ。
とりあえず木の棒で寝てたオークの目玉を刺したらぶちギレられただけだったし。
やっぱあれか、まずは経験値稼がねえとダメか。スライムとか。
「ん?」
目の前で青くて小さな物体がぷるぷる震えてる。
何故か「攻撃しないでください」って札を首?から下がっている。
……これは、あれだよな。スライム。
こいつぐらいなら今の俺でも倒せそう、なのだが、よく見るとスライムはボロボロだ。
いじめられてるのか、俺みたいなやつが他にいて経験値にされているのか。
倒すの?俺が、こいつを?
『お前は会社の養分なんだよ!』
過去に浴びせられた言葉を思い出して、胸がズキッと痛む。
「……行けよ。」
「プルッ?」
「お前は、なんていうか経験値しょぼそうだし、倒す気になんねえよ。
薬草とか分かんねえから手当はできねえけど、まあ、ちゃんと逃げるんだぞ。」
『どうして会社から逃げないの!?』
『うるせえ!!俺にしかできねえ仕事があんだよ!!』
「……俺みたいにだけは、なるなよ。」
俺は背を向けた。
「プルッ!」
何故かスライムは逃げていかない。
それどころか俺のズボンを噛んで離さない。
「な、なんだよ。早く行けよ。」
「プルッ!プルッ!」
「?もしかしてついてきて欲しいのか?」
「プルッ!」
スライムは離れると、俺を振り返ってぴょんぴょん跳ねる。
なんだ?どこかに案内しようとしてるのか?
まあ、魔王城の場所も分からないことだし、スライムについて行く。
────行く先の空は、暗雲がたちこめていた。
「ふふふ、スライムが裏切りましたか。
まあ、あんな雑魚はいいでしょう。それより、あの男……。」