化粧は自分のためにするものだと思う
『タケシくーん、カラオケ行こー♡』
『ずるーい!今日は私とカフェに行くの!』
『タケシくん、今夜は家に誰もいないの。だから、泊まっていいよ。』
「はははー、困った子たちだー。」
パンッ
「うわっ!?」
「やはりそうでしたか。」
「あれっ、ばいんばいんの子とカラオケは!?小動物系の美少女とお泊まりは!?」
「彼女の能力は催眠。対象に都合のいい夢を見せるようですね。外部からの刺激ですぐ解除されるようで助かりました。」
「てめえの仕業か!!いいところだったのに!!」
「助けた相手に言うセリフですか?」
「うるせー!お前に夢でもいいからモテモテになりたい俺の気持ちが分かってたまるか!!」
「救いようのない人ですね。」
「あ、あんたなんで効かないのよ!」
「あなたの術が発動する直前に茨が私を攻撃するように仕込んだんです。
目が光ってから術にかかるまで時間がありましたからね。少し詰めが甘いんじゃないですか?」
こ、こいつ……。美味しいとこ全部持ってきやがった……。そういえばナイトって元魔王軍四天王だったっけ。よく俺一人で倒せたな。
「あ、あんた、あんたなんか……。なんで……。」
来るか?オレもナイトも身構える。
「なんで私より肌が綺麗なのよー!!ずるーい!!」
「「……は?」」
俺とナイトは顔を見合わせる。
「粉は吹いてないし、テカってないし、メイク崩れてないし!ずるいずるいずるーい!!
この砂漠の中を歩いてきてなんでそんなに違うのよ!!」
魔物娘はじだんだを踏む。何を言ってるか分からない……。とりあえずメイクに悩んでるのだけは分かった。
「……最初に聞いておきます。あなたは何故肌にこだわるのですか?」
「これよ!」
魔物娘はぴらっとチラシを見せつける。なになに?ジュビア王国主催、ミスコンテスト?
「私はこれに優勝したいの!私ったらスタイルも服のセンスも完璧だからあとはメイクだけ!
なのに自分じゃ全然上手くいかないから、専属のメイクアップアーティストを探してたの。」
思ってたよりしょーもない。いや、職場の女の子もよくファンデがどーのって言ってるしな。同僚で化粧してるやつもいたし。
気になるやつにとっては死活問題なんだろう。
「本気で優勝したいのですか?」
「もちろんよ!」
ナイトの顔が渋い。……なんだろう、嫌な予感がする。
「確かにあなたは容姿がいい。モスグリーンのチューブトップにジーンズ、ファッションも程よく肉付きがいいあなたに合っている。
しかしねえ、メイクだけはまるでなってないんですよ。」
「なっ……!!」
ほらあああ!!言った通りじゃん!!
「言いたいことは山ほどありますが、この乾燥地帯で保湿を怠るとは何事ですか?
そのカサカサ肌にメイクがのるわけないでしょう。
加えてジュビア王国は湿潤な気候です。ここにいるのとじゃメイクの仕方がまるで違う。
優勝する気があるならせめてジュビア王国でメイクアップアーティストを募るべきでしょう。」
言っちゃったあ!!どーすんだよ、これあの娘、完全にキレて……。
「なるほど勉強になるわ。」
なかった。意外と素直だった。
さっきまでじだんだを踏んでたくせに。あれか?ロジカルに言われると納得するタイプ?
俺の言うことは聞いてくれないのにエリートが説明すると納得する上司いるけど。うるせー、泣いてねえよ。
「あなた、私の専属アーティストにしてあげるわ!喜びなさい!」
「嫌ですよ。私にメリットありますか?」
「聞いておけよ。とりあえずクソ王の依頼は完了するだろ。」
「全く、仕方ない。」
「そうと決まったらジュビア王国で特訓よ!」
「私は道具も何もないんですが。」
「そんなものすぐ取ってきなさいよ!」
「倒した方が早くないですか?」
「まあまあ、美人がもったいな……人助けだと思って。」
「本当に女性に関してはクズですね。
全く、向こうに戻って道具を持ってくるしかないじゃないですか。」
「じゃあ一旦帰るか。」
「待ちなさい。」
「ん?」
一旦向こうに帰ろうと思ったら魔物娘に呼び止められる。
「おっさん、あんた残りなさい。」
「はあ!?なんで俺が!」
「美形が逃げる可能性もあるでしょう?」
「確かに。なかなか賢いですね。」
「感心するな。助けろ。」
「ですが、このクズと2人なのは、嫌じゃないですか?」
「おい!」
「平気よ。私の方が強いもの。」
「まあ、そうですね。」
「おい、泣くぞ。」
結局、ナイトは向こうに戻った。俺を置いて。
薄情者と罵ったらあなたは追い詰められれば覚醒するから大丈夫ですよ、だって。
褒めてるのかけなしてるのか分からない。
「あ、あの……。」
魔物娘は玉座で爪を磨いている。
「何よ、汚いおっさん。」
なんかランク下がってる。
「そ、その、綺麗ですね。」
「ふん、当たり前でしょう。」
自信満々。じゃなくて会話が続かない。魔物とはいえこんな綺麗な子と2人きりとか緊張するんだが。
「……ねえ、おっさん。」
「はい?」
ラッキー!向こうから話しかけてくれた!
「男ってやっぱり美人が好きなの?」
「い、いや、人によると思いますけど、まあ、嫌いではないかと……。」
「……そう。」
なんだろう。急にしゅんとしてしまった。
「私、好きな人に振られたの。」
「はい?」
な、何を言い出すんだろう。
「何十年も付き合って、結婚の約束までしてたのに。いきなりもっと若い子がいいって。……あんな小娘に負けないくらい美人になったら、また振り向いてくれるかな。」
……魔物にもクソ男はいるんだな。
長く一緒にいれば色々あると思うけど、年を取るのはお互いさまだろ。
それなのに若い子がいいって、あんまりだ。そもそもこの子、見た目は全然若いし。
「俺は、あんたのこと、誰よりも美人だと思うよ。」
「はっ、綺麗事……。」
「そんなんじゃない。自分を思って女の子がお洒落してくれるなんてさ、男冥利に尽きるよ。でも、俺の世界ではさ、女性は自分のために綺麗になってるんだ。」
「自分の、ため?」
「そう。着たい服を着て、自分に合うメイクして、ネイルして。すごく楽しそうだよ。
俺はよく分からないけど、なりたい自分になるって言うのは、男に尽くすより楽しいんじゃねえかなあ。」
「……分からないわよ。そんなの。」
「今はそうだと思う。でも、次のミスコンはそんな男のためじゃなくて、自分のために出てくれねえかなあ。」
ビシッ!
「うわっ!」
唐突に鞭が飛んできた。
「調子乗るんじゃないわよ。自分が人質なの忘れたの?」
「いや、そうじゃないけど、あんた寂しそうだから……。」
「……ふん。」
怒らせたかなあ。でもこの娘、なんかほっとけないんだよなあ。
「……ネイルって何?」
「は?うーん、俺の世界では爪になんか色塗ったりキラキラした石貼ってるよ。」
「……可愛いんでしょうね。」
「うん。すごく綺麗だよ。」
「……そう。」
魔物娘はしばし沈黙。
「……バービー。」
「ん?」
「バービー。私の名前。」
「!あ、ああ。俺タケシ。」
「タケシ……。弱そう。」
「ケンカ売ってんのか。」
「ふふふ。」
それから、ナイトが帰ってくるまでたわいも無い話が続いた。




